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2022_ルーキージョッキー デビュー半年後の現在地

今年もルーキージョッキーがデビューして、早や半年が経過しようとしています。

そこで今日は、8月末時点におけるJRAでの勝利数を確認しながら、各ルーキージョッキーの現在地について、考察してみることにしましょう。

なお、彼らのデビューから約1ヶ月後に書いた過去記事へのリンクをこちらに貼っておきますので、その記事と対比しながら読んでいただけると、点が線になってより興味深く感じていただけるかもしれません。


32勝 今村 聖奈

今村Jの活躍は、今や社会現象化しているほどですから、数字上の凄さを今さらあれこれと論じる意味は薄い。そう感じています。

なので、私がここで触れておきたいのは、この32勝の中身について。そうそう、数字には表れない部分での彼女の凄さについて、簡単に考察を書き留めておこうというのが今回の企画上の趣旨となります。


さて、かつての藤田菜七子Jがそうであったように、一般的に減量ジョッキーの活躍の場は、芝・ダートを問わず斤量差をアドバンテージにしやすい短距離戦とほぼ相場が決まっています。

軽量ゆえに強化されたダッシュ力を存分に生かし、ポンとハナを切ってそのまま押し切ってしまう。これが、減量騎手との親和性が高い勝ちパターンの典型。そう説明するのが、もっともわかりやすい表現方法かもしれません。

具体例を挙げるなら、今村Jが48kgの斤量でテイエムスパーダに騎乗しCBC賞を逃げ切った時が、まさにそのパターンのど真ん中だったわけですが、これまでの今村Jのレースぶりを振り返ってみると、実際はこうした短距離戦での逃げ切り勝ちに勝ち鞍が偏っていないことがよくわかります。

つまり、世間ではとかく勝ち鞍の数と早くに重賞を勝ったことばかりが強調されますが、彼女の注目すべき点はそんな数字に表れているところばかりじゃない。私はそう理解しています。


これまでに今村Jが挙げた勝利の中で、個人的に最も高く評価しているのが、彼女にとってのデビュー3勝目。中京ダート1,800mの未勝利戦を、サザンステートで勝ち切ったレースなんですよ。

なんたってサザンステートは、気性難があって脚を溜めるのが難しく、腕達者な福永Jや浜中Jですら手を焼くクセ馬なわけですが、なんとその馬で、しかも乗り難しい中京ダート1,800m戦をデビューしてわずか3週目のジョッキーが差し切り勝ちするなんて、当時はにわかに信じられませんでした。

あのレース、私は「デビューしたての新人ジョッキーが、サザンステートほどのクセ馬を御せるはずがない」と決めつけ、自信満々に斬り捨てていたわけですが、ところがどうでしょう。蓋を開けてみたら、2着に2馬身半の差をつけての完勝。いやはや、私は3月中旬の段階ですでに、今村Jにギャフンと言わされていたというわけなんです。


言い出したらキリがないので、具体例はこのひとつにとどめますが、作戦面では逃げ、差し、マクリと自在。しかも、距離やコースなどのレース条件を問わず活躍しているところに、彼女の真の凄さが隠されている。

これが、現状における今村Jに対しての率直な評価になります。

端的に言えば、現段階でもすでに一般的な減量ジョッキーの域を超えているとも言えますから、斤量の恩恵が得られない特別戦に彼女が騎乗する際も、決して大きな割引材料にはならない。そう考えています。


17勝 角田 大河

彼のこの成績でも、現時点においては十分に賞賛に値するものなのではないでしょうか。

今村Jの大活躍の陰に隠れているとは言え、今年中の31勝も十分に視野に入る成績ですし、およそ新人とは思えない落ち着いた騎乗ぶりには、率直に言って「新人なのに、それを感じさせない安心感があるよな」と感じているところです。


ただし、現状の傾向からすると、前に行って粘り切るレースでの勝ち鞍が目立ちますので、現時点でのイメージとしては、昨年デビューの小沢Jや永野Jに近い位置にいると捉えておくのが、現段階における概ね妥当な評価なのかもしれません。

あとは、現状でもソコソコ完成度が高いように見えるので、この先の伸びしろがどれくらいあるのか、というところが、今後の大きな課題になってくるのでしょう。

フィジカルを強化してもっと馬を動かせるようになるとか、作戦面の多様性を磨いて変幻自在に乗れる対応力を身に着けるとか、なにかひとつ明確なストロングポイントを持てるようになると、一気にブレイクする期待もある。

これが、現状における角田大河Jに対しての率直な評価になります。

7勝 西塚 洸二

彼の場合は、所属厩舎に恵まれていることもあって、実力以上にそこそこ質の高い馬が回ってきていますから、この7勝という数字を額面通りに受け取っていいのか、そこはやや微妙な気がしないでもありません。

ただし、メンタルの強さには好感が持てますし、技術的にも確実な進歩は見せていますから、現状は一般的な新人ジョッキーの域を出ませんが、この先の成長をしっかりと見届けたいジョッキーの一人であると評価することはできるでしょう。

6勝 鷲頭 虎太

周囲がまったく見えていなかったデビュー当初に比べると、北海道シリーズに参戦するようになったあたりから、明らかな進境を見せている鷲頭J。現状は、あらゆる面でまだバタバタとしている印象は否めませんが、その騎乗ぶりからハートの強さが伝わってくる点に関しては、大いに好感が持てると言っていいでしょう。

技術的には、一般的な新人ジョッキー並みの水準にとどまりますが、所属厩舎にも恵まれていますし、何かのきっかけで一気に変身を遂げる可能性も十分。そんな印象もありますね。

5勝 小牧 加矢太

減量と乗り馬に恵まれていることを差し引いても、現状で平沢Jと並ぶ勝ち星を挙げていることは、大いに評価に値すると言っていいでしょう。

デビュー当初は、コース取りや折り合い面で苦労していましたが、場数を踏むことにより、目に見えてこれらの課題は改善。この調子で成長を続けて行くと、早くも今年中に10勝のラインが見えてきそうな雰囲気もありますし、大きな怪我さえなければ、当初の見立てどおり来年は障害リーディング争いを演じているかもしれません。


高いレベルで言えば、アクセルワークのスムーズさをもっと磨いたほうがいいとか、まだまだ課題が残る現状ではありますけど、今のレベルでも、中堅ジョッキー以上のスキルをすでに備えていますので、新人という枠で捉えるべき時期はとっくに過ぎ去った。

私は、そう理解しています。

3勝 大久保 友雅

大久保Jの騎乗センスからすると、現状のこの勝ち星にはかなり不満が残りますけど、彼に関しては、どうも乗り馬に恵まれていない印象が強く、どのような背景があるのかはわからないですが、外野から見るとちょっともったいないなという印象すらありますね。

技術的には、今村J、角田大河Jに大久保Jを加えた3人が、平地競走では一歩も二歩もリードしている感が強いので、成績以上の評価はしておかないといけないように思います。


中身的には、3勝を挙げた時の人気はそれぞれ5,2,9番人気ですし、客観的に見ても、彼のスキルは多くの競馬ファンにずいぶんと過小評価されている感じもあります。

裏を返せば、馬券的に狙って面白いジョッキーということにもなりますから、少なくとも、勝ち鞍の少なさだけに引っ張られて、技術が全然足りていないと誤解することは避けたい。そう考えます。

2勝 佐々木 大輔

彼に対する現状の印象は、地味ながら着実に力を付けてきているな、というもの。

デビュー当初は危なっかしさばかりが目立っていましたけど、ここ最近は人気よりも常に上の着順に持ってくる感じが強まってきましたから、将来、予期せぬ大化けをする可能性があるとすれば彼かな、という感触がないわけでもありません。

現状は、どのみち人気馬に騎乗する機会が少ないわけですから、チャンスがありそうな伏兵馬に彼が騎乗している時に、はたしてどんな工夫をして乗ってくるのか。今後は、特にその点を注視しておきたいなと思っています。

0勝 土田 真翔

正直なところ、彼の現状のスキルでは、短距離戦で恵まれた時にしかほぼ勝つチャンスはない。そんな評価になってしまいますね。

それでもデビュー当初に比べたら、騎乗技術は格段に進歩していますから、まだ勝ち星という結果には表れていませんけど、彼なりに進化しているというところは、しっかり認めてあげないといけないように思います。

0勝 水沼 元輝

彼に関しては、未だ勝てる可能性のある騎乗馬に恵まれていないので、はたしてどれだけ奥行きがあるのか、まったくの未知数と言わざるをえません。

所属厩舎の問題なのか、それとも留年というキャリアが足を引っ張っているのか、背景にある事情はよくわかりませんが、デビューから半年も経った新人ジョッキーに、勝つチャンスのある馬が一度も回って来ないというのはやはりちょっと理不尽なんじゃないかな、と。

彼なりに、ではありますが、一歩一歩確実なスキルアップを遂げているように見えますから、今後も私たち競馬ファンが温かい目で見守っていくべきジョッキーの一人。そう考えます。


なお、JRA所属の全ジョッキーに関する評価表は、下記のマガジンにご登録いただくことで最新版をダウンロードできますので、よろしければご活用いただければと思います。

JRA騎手評価シート(平地編)はこちらから

JRA騎手評価シート(障害編)はこちらから

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