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現代競馬とシーザリオ


シーザリオ急死。われわれ競馬ファンにとって非常にショッキングなニュースが、先週末に流れました。

管理した角居調教師引退のタイミングに重なったこともあって、「時代の流れ」というものを痛切に感じ、ひとりのオッサン競馬ファンとして、なんだかとっても寂しい気持ちになってしまいましたね。

さりとて、一方では、シーザリオ、そして当時シーザリオのライバルであった馬たちは、現代競馬に多くのかけがいのない財産を残してくれています。非常に残念なニュースではありましたが、昔を振り返るにはちょうどいいタイミングだと思ったので、彼女たちシーザリオ世代の激闘と、現代競馬とがどうつながっているのかについて、今日は簡単にコネタを書き込んでみようと思います。

デビュー戦


シーザリオのデビュー戦は、暮れの阪神のマイル戦。

好位から抜け出す優等生な競馬で快勝したのですが、あえて言うならば、その一戦に強烈なインパクトがあったわけではありませんでした。そもそも、当時は一番人気にすらなっていませんでしたから、「西に牝馬クラシック候補現る!」みたいな感じで、メディアが大騒ぎすることもなかったと今も記憶しています。

結果的に見ると、この新馬戦の2着馬は、後に桜花賞でシーザリオと再戦し、5着と健闘するダンツクインビー。相手が骨っぽかった分、勝ちっぷりがあまり強調されなかった面があったのかもしれないですね。

衝撃的だった2戦目寒竹賞


シーザリオが2戦目に選んだのは、正月開催、中山の寒竹賞。

ここには、牡馬クラシック戦線での活躍が期待されていたアドマイヤフジやダンスインザモアがエントリーしていたので、人気も少し離れた4番人気。デビュー2戦目の牝馬が、輸送を挟んでの中山遠征。さらに、相手はかなり骨っぽく、距離延長も未知数と、厳しい条件ばかりが揃っていたわけですから、それほど人気にならなかったのも、当然と言えば当然だったと言えるでしょう。

実際、アドマイヤフジは、その後重賞を3勝。ダンスインザモアも皐月賞トライアルのスプリングSを勝ったくらいですから、当時の記者たちの見立ては、基本的に間違ってはいなかったのだろうと思います。


ただ、パドックを歩くシーザリオの姿は、今も目にくっきりと焼き付いているほどインパクトがあったんですよね。冬場にもかかわらず、毛ヅヤはピッカピカ。牝馬とは思えないようなしっかりとした馬体のつくり、そして柔軟性豊かな後肢の運びと、そのどれをとっても、アドマイヤフジを軽く凌駕しているな、と。

そしてレースでも、直線で猛然と追い込んできたアドマイヤフジの追撃をかわし1着。差を詰められはしたけれど、最後は脚色が一緒になっていたので、内容的は完勝でした。

オークスはシーザリオで決まり! この寒竹賞のレースぶりを見て、身近な競馬ファンに声高にこう言い放ってしまったのは、今となってはけっこう恥ずかしい話だなとは思いますけど…(笑)


ちなみに、ここでシーザリオが勝ち切ったことは、もちろん素晴らしかったのですけれど、実は、負けたアドマイヤフジのショックのほうがむしろ大きかった。そんなレースだったという印象が、今も強く残っています。

個人的な感覚では、シーザリオが走った6戦の中で、もっとも興奮したのがこの寒竹賞。それくらい、新たなヒロイン誕生の瞬間に、大きく心を動かされたのでしょうね。

現代競馬とのつながりが深い桜花賞


適性面でラインクラフトに有利な条件が「これでもか!」というくらい揃っていた中、タイミング良く先に抜け出した相手を交わしきることができず、惜しくも2着に敗れたシーザリオ。

勝負には敗れたものの、吉田稔Jの叱咤激励に応えるように猛然と追い込んできた彼女の姿は、多くの競馬ファンに「この馬、マジで強い!」と思わせるのに十分なパフォーマンスだったと思います。

ただ、この桜花賞を語るなら、そのレースぶりの凄さだけに着目するのはもったいない。ライバル馬たちの「その後」にも想いを馳せてみると、さまざまな興味深い事実が浮かび上がってくるのですよね。


残念なことに、このレースを勝ったラインクラフトは、現役のうちにアクシデントで命を落とすことになり、後世にその血を残すことができなかったのですが、2,3,4着馬の「その後」に注目してみると、いかにこのレースがハイレベルであったのかがよくわかります。

まずは、主役のシーザリオ。エピファネイア、リオンディーズ、サートゥルナーリアという3頭の種馬を日本競馬界に輩出したわけですから、これだけでも、まさに偉業と呼ぶにふさわしい大きな功績であると言えるでしょう。

エピファネイアは、初年度産駒から牝馬3冠を獲得したデアリングタクトを輩出。2年目の産駒からも、牡馬クラシック候補のエフフォーリアが出てくるなど、すでに種牡馬として成功をおさめていますよね。リオンディーズも、初年度産駒のピンクカメハメハが、先日のサウジダービーを勝つなど、目立った好成績を叩き出しているんだから、これは本当に凄いな、と。


さて、この桜花賞で僅差の3着に敗れたのがデアリングハートその初仔、キングカメハメハ産駒のデアリングバードに、エピファネイアを種付けして生まれたのがデアリングタクトなんですから、いったい、何の因果かわからないけど、「やっぱり、競馬はロマンだ!」なんですよね。

そうそう、先日書いたこの記事とも、密接にリンクする話でもありますし…

さらに、当時4着に敗れ、オークスでシーザリオと接戦の2着。その後、秋華賞を勝つことになるエアメサイアが生んだのが、先日のフェブラリーSで2着に喰い込んだのがエアスピネル(父:キングカメハメハ)と来るんですから、いやはや「現代競馬の原点ココにあり!」というような、ものスゴイ桜花賞だったんだなと、ついつい感慨に浸ってしまいます。

ハイライトは笑顔なき勝利ジョッキーインタビュー


何を隠そう、これはシーザリオが勝ったオークスでの出来事。

武豊J騎乗のエアメサイアに徹底マークされ、絶体絶命の状況にまで追い込まれた福永J。そこから、シーザリオが驚異の瞬発力を繰り出して差し切り勝ちを演じたわけですが、福永Jとしては完全にしてやられたレースだったわけですね。

この笑顔なき勝利ジョッキーインタビューは、シーザリオの強さの裏返し。そういう意味で、非常に印象に残る出来事だったと思います。

最後に


まあ、このオークスがあったから、次走のアメリカンオークスで、自身の殻を破るような素晴らしい騎乗を福永Jが見せられたということもできるでしょう。

臨機応変な対応ができる今の福永Jがあるのも、シーザリオという名馬と巡り会えたことが大きく影響しているはず。そう考えると、シーザリオの遺した財産は、何も字面だけのものじゃないということがよくわかりますよね。

人の心に刺さるような圧倒的なパフォーマンスを見せてくれた馬、そのことこそが、シーザリオの最も大きな功績なのかもしれない。これからは、その血を引き継ぐ馬たちの活躍を、心から願っていようと思います。

シーザリオ、素敵な時間を与えてくれて、本当にありがとう!

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