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第145回 中山大障害のみどころ


明日は、中山競馬場で中山大障害が行われます。

"絶対王者"オジュウチョウサンにとっては、ここが「ついにその時がきてしまった」というべき引退レース。その意味で今年は、障害ファンだけでなく、広く世間一般の注目を集めることにもなっていますね。


ただ、見どころ解説という観点から言うと、今年は近年にないくらい難しいレースになったな、と。

若干の手前味噌ではありますが、ここ2年、ケンホファヴァルト、ブラゾンダムールの人気薄での激走をしっかりと事前に補足できていた当研究所ではありますけど、さすがに今年はビシッと決め切る自信がありません……。

いや~、ホント、それくらい難しいですよ。今年のこのレースは!


ただ、愚痴ってばかりでは何も始まりませんから、結果を恐れることなく、今年も当研究所らしい精緻で冷静な分析ができれば、まずはそれでいい。そう前向きに考えることにします。

それでは、早速、レースのみどころについて、簡単に解説していくことにしましょう。


中山10R 中山大障害


さて、このレースのシミュレーションを始めるにあたり、「どこをとっかかりとして作業をスタートさせるか」が、今年の場合、特に問題となってくるでしょう。

今年は、各馬のストロングポイントが、もともとのポテンシャルの高さにあったり、スタミナ面にあったり、スピード能力の高さにあったり、ポンと前の位置を取れる先行力にあったりと、本当にもうバラバラ。

よって、こうした各論から入っても、なかなか各馬がレースで示すであろうパフォーマンスを俯瞰することはできないでしょうから、その点を考慮して、今年は「明日のレースがどの程度の走破時計になるのか」というところをスタート地点として、検討をスタートさせていきたいと思います。


まず最初にメンバーをざっと見渡すと、春のグランドジャンプで掲示板に載った馬は全馬ここに出走してきましたし、昨年のこのレースの1,2,5着馬の名前もメンバー表にあるわけですから、少なくともメンバーレベルが昨年と比べて落ちたということはない。そうは言えるでしょう。

ただ、春のグランドジャンプ以降、調子を落としたり、調整に順調さを欠いたりしている馬がいるのも事実ですから、「メンバーレベルが下がっていないからと言って、パフォーマンスが下がらないとは言い切れない」気もするのですよね。

そうすると、既存の勢力が「おそらく昨年の時計以上では走れないだろう」という中で、ゼノヴァースをはじめとした新興勢力が、昨年のオジュウチョウサンの勝ち時計と同レベルで走れると考えるのかどうか。そこがひとつの大事なポイントになってくるのではないでしょうか。


この点、ひとつの目安になるのが、おととしのケンホファヴァルトの臨戦過程になるのではないかと考えます。

当時のケンホファヴァルトは、東京の秋陽ジャンプステークスを3:27.2で走破(3着、レース中に不利アリ)しての臨戦だったわけですが、本番では4:41.0で走ってメイショウダッサイの2着。

つまり、東京ハイジャンプを3:25.9で勝ったゼノヴァースはもちろんのこと、秋陽ジャンプステークスを3:27.4で走って2着したニシノデイジー、コンマ1秒差の3着だったテイエムタツマキの2頭についても、時計的にはここでも十分に足りる可能性が高いという結論になるのです。

もっと言えば、昨年の中山大障害の勝ち時計4:46.6は、一昨年より5秒以上も遅いわけですからね。ならばより高い確率で、新興勢力の各馬がいいレースをする可能性が高まっている。そうも言えるかもしれません。

あくまでもこれは、机上の計算に過ぎないのですけれど、まずは「新興勢力でも時計的には余裕で足りるのだ」というところは、しっかりと抑えておかないといけないのでしょう。


そう考えると、時計面で明らかな不足があるのは、マッスルビーチとテイエムチューハイだけ。

ただこの2頭とて、前走の京都ジャンプステークスではここに出てきたら面白い存在になっていたであろうエイシンクリックやスマートアペックスには大きく離されずに走っているわけですから、つまるところ、今年はノーチャンスと断言できる馬が1頭もいない大・大・大混戦と考えていいような気がします。


こうなってくると、勝負を分けるのは、体調面、展開、鞍上を含めたコース適性、ということになってくるのだと考えます。

1頭1頭にフォーカスし、今の状況でいったいどれだけ走れるのか。想像力を目一杯働かせて、イメージをどんどんと膨らませていく。そして最後に、相対的な比較を行って自分なりの結論を出す。

今年のレースをしっかりと当てようとすれば、このやり方以外にはないのかな、と。もし「当たった」でもいいのなら、もっと別のアプローチがあってもいいのでしょうけれど、、、


それではここから、毎年恒例の全頭評価をやっておきたいと思います。

結論がどうなるかはともかく、読者の皆さんには、各馬の特徴をしっかりと理解した上で、納得して馬券を買ってもらいたいですからね。


①オジュウチョウサン
この馬に関しては、前走の大敗からどこまで復調しているか、そこがすべてだろう。ただし、仮に昨年と同レベルまで体調面が回復していたとして、昨年の走破時計ではたして勝ち負けになるのかと言えば、それはまったく別の話。復調していることが大前提の上に、新興勢力が力を出し切れないという条件が揃わないと勝ち負けに至らないのだから、心情的に応援したい気持ちはあっても、客観的な評価は控えめにとどめざるをえない。

②ビレッジイーグル
この馬にとっての最初の課題は、ニシノデイジーを抑えて単騎逃げに持ち込めるのかどうか。この点をクリアできるようだと、おそらく昨年のこのレースくらいは走れるだろう。ただし、うまくマイペースに持ち込めた春の中山グランドジャンプでは、似たようなメンバー相手に完敗を喫した力関係でもあるので、「最大限うまく行ったとしても、掲示板があれば上々」という評価にとどまるのかもしれない。

③テイエムタツマキ
地味ながら一戦ごとに力を付けているこの馬、前走の走破時計を見る限り、ここに入っても、まったく箸にも棒にも掛からぬということはなさそうだ。ただしその前走が、黒岩Jの完璧なエスコートがあっての好走だったことを考えると、ここでさらなる上積みがあるとは考えづらく、それでも足りるのかと問われたなら、首を縦に振りづらくもあるのだが、、、

④アサクサゲンキ
ポテンシャル面では、ここに入ってもほぼ互角と言えるくらいの力があるこの馬にとって、「この距離でも持てる力を出し切れるのかどうか」がすべてだろう。元来スピードタイプのこの馬にとって、この条件は、一回経験したくらいでどうにかなりそうな気はしないのだが、さて結果はいかに……。

⑤ブラゾンダムール
中山では常に堅実に走るこの馬、一年前とは打って変わって、今や人気と実力を兼ね備えたトップホースへと成長した。唯一の課題は、予定していた前哨戦を使えずにぶっつけ本番となること。そこをクリアできるようなら、少なくともオジュウチョウサンを逆転するところまではいきそうだが、あとは新興勢力との力関係がどうか。そこに尽きるだろう。

⑥マッスルビーチ
成績的にここでは少し足りないか、という印象のあるこの馬だが、レースを使いつつ地味に成長を重ねてきており、スタミナ面に不安のないこの馬にとっては、さらなる飛躍があっても驚けない舞台設定が整ったと言っていいのではないだろうか。あとは「距離延長になるここで、課題の折り合い面がどうか」という点を含めた、鞍上のエスコート次第になりそうだ。

⑦マイネルレオーネ
春の中山グランドジャンプの時だけ走ればここでも通用の下地があるこの馬だが、前走の大敗は高齢馬だけにやはり気になる材料。今年いっぱいでの引退を表明した植野Jを鞍上に迎え、一発の魅力を秘めていることは確かだが、この馬の置かれている状況は、オジュウチョウサンと似たり寄ったりとも言えるだろう。

⑧ケンホファヴァルト
体調面さえ本物なら、この条件でレースをする限り、今、もっとも強いのはこの馬だろう。ただ、平地時代から気性面に課題を抱えているので、脚質の幅が広がった今でも、この馬のクセを知り尽くしている熊沢Jが騎乗できないのは大きなマイナスポイント。成長著しい小牧加Jではあるが、大障害コースは初めての経験になるので、その分のマイナスも計算に入れた時、それでもまだおつりが残るのか。そこの判断を適切に行えるかどうが、このレースの的中/不的中を大きく左右することになりそうだ。

⑨ニシノデイジー
前走はハナに行く気を見せていた中で、コウユーヌレエフに抵抗されて最後まで交わせずの2着に敗れたが、レース内容的には負けて強しと言えるものであったし、時計面でも及第点レベルの数値では走れていた。そう考えると、前走からのさらなる上積みが望める上、スタミナ面にも不安はないことから、レース序盤でビレッジイーグルと変に干渉することがなければ、馬券圏内も十分に視野に入ってくる気がする。

⑩テイエムチューハイ
この馬の好走パターンは、前に行ってしぶとく粘るレースができた時と相場が決まっている。ただ実績は、平場のオープンで好走するにとどまるので、万一ここで自分の形のレースに持ち込めたとしても、さすがに勝ち負けまで持ち込むのは難しいだろう。あとは、ここにきて積極的な騎乗スタイルが持ち味になってきた小野寺Jがどう乗るのか。その点には、今後のためにも注目しておきたい。

⑪ゼノヴァース
今、障害界でもっとも勢いがあるのがこの馬。前走の走破時計は、今年のメンバーの中では胸を張れるもので、スピード争いという観点から見れば、「今や障害界に敵なし」の存在であるとも言えるだろう。残るこの馬の課題は、ズバリコース適性。大障害コースをスタミナロスせずにこなせるかはもちろんのこと、それ以前に中山コースがそもそも合うのかという疑問は未だに拭えない。いかに本格化前だったとはいえ、中山での2走の内容がかなり平凡だったことは、やはり気になる材料には違いないだろう。



ということで、最後に個人的な結論を。


中心には、⑧ケンホファヴァルトを推します。

正直なところ今回は割引材料が多く、自信満々にこの馬を推せるわけではないのですが、2年前のこのレースの走破時計である4:41.0+2秒くらいの範囲で走れるようなら、他馬に付け入る余地はないのではないかと考えました。

春の中山グランドジャンプでは、森一馬Jが追い出しを待っているうちに、外からブラゾンダムールに被せられて嫌気を出した感じもありましたから、小牧加Jには、「4角で単独先頭」というくらいの積極的な騎乗を見せてほしいところ。もしもその形に持ち込めるようなら、ここはおそらく勝てると思うのですけれどね。


2番手は、⑤ブラゾンダムール

この馬は、この条件ならなんだかんだ走ってきそうですし、前の馬たちの動きが流動的な今年のレースでは、むしろ前に行けない脚質がプラスに出る可能性も十分にありそうなんですよね。

あとはやはり仕上がり状態がどうか、その一点だけでしょう。パドックの気配が"普通"であれば、あえて評価を下げる必要はないのかな、と。


3番手は、⑨ニシノデイジー

この馬は、キャリアが浅い分、大障害コースに一抹の不安を感じるところはありますが、スタミナ面での心配は特にありませんし、自分でレースをつくれるタイプの馬でもありますから、今年のメンバーなら、通用してしまいそうなイメージになります。

あとは、ハナに行くにしても、好位に控えるにしても、道中をリズムよく運べるかどうか。前走のような競る形だとここでは確実に失速しますから、あとは五十嵐Jがうまく乗ってくれるかどうか、そこにこの馬の命運がかかっていると言っても過言ではないのかな、と。


4番手は、⑥マッスルビーチ

もし今年のレースで、一昨年のケンホファヴァルト、昨年のブラゾンダムールの役回りを担えるとすれば、この馬を置いてほかにないでしょう。もちろん、上記2頭ほどの期待値には到底及びませんので、強く狙うというほどの感触はありませんが、「馬券圏内ワンチャンス」というくらいの期待値はそれなりにあるのかな、と。

今年は、ほかに魅力的な馬もいませんし、レース全体のレベルが昨年以上に下がるようなら、この馬にもチャンスがあっていいのではないか。そう考えた次第です。


その他、⑪ゼノヴァースですが、やはりこの馬はスピードタイプという見立てになるので、この条件ではさすがにキツイだろうと判断しました。未勝利戦当時のレース内容があまりに酷かったですし、そこから小倉に替わって一気にパフォーマンスが上がったところを思い返すと、やはりこの条件では狙いづらいな、と。

①オジュウチョウサンは、もちろん応援はしますし、心の中では「頼む!奇跡の復活劇を見せてくれ!!」というくらいの強い思いはあるのですが、客観的に見て、ここでの復活はかなり難しいのではないかと考えています。何より前走のパドックでは、筋肉が落ちてしまってかなりげっそりしているように見えましたから、そこから2カ月で立て直せるなんて、にわか信じ難いな、と。


さあ、明日はいったいどんなレースになるのでしょうか。

オジュウチョウサンの引退レースであり、植野J最後のGⅠ騎乗レースであり……。いや~、レースが始まる前から緊張してしまいますね。

とにかく全馬無事に、それだけは祈っていようと思います。


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