AMS炭素14年代法、紀元後1、2世紀は要注意

前記事と同じく国立歴史民俗博物館(歴博)の先生方の最近の本「ここが変わる!日本の考古学、先史古代史研究の最前線」吉川弘文館、2019年3月より、AMS炭素14年代法につき一部抜粋。要約文責rac

先史から飛鳥時代に強み

「歴博ではAMS-炭素14年代に依拠した高精度な較正歴年代に基づく新しい旧石器・縄文・弥生・古墳時代観を構築・・することを目指している」(はじめに)

「歴博がオープンしたころ(1983年)は、考古学の立場から古代国家誕生の様子を描くことは困難であった。・・有名な箸墓古墳模型の・・次には平城京羅城門の復元模型が展示されていた。・・私が歴博に着任したのは2010年。展示を見て飛鳥時代のものが何もないのに驚いたことを記憶している。・・2019年のリニューアルでは、飛鳥時代を扱ったコーナーが初めて登場する。・・ここ30年の考古学の発掘調査研究の結果、飛鳥時代、とくに古代国家の誕生について多くのことを明らかにした」(林部均教授・副館長)

AMS炭素14年代法

「加速器質量分析装置(AMS装置)を用いた炭素14年代法(AMS-14C法)はそれまでのβ線計数法に比べ大幅な試料の僅少化と時間の短縮をもたらした。今日ではβ線法を上回る測定精度を実現し、0.1mg程度の炭素でも測定できるようになった。かつては炭素14年代法は測定誤差が大きく、数十年から百年以上の幅が生じた。歴博ではまず縄文時代に焦点を当て、土器形式ごとに付着炭化物、あるいは共伴する遺物や植物遺体などの系統的な炭素14年代測定を実施・・さらに歴年代を土器編年にあてはめてきた。その後歴博の年代研究は弥生時代にも拡げ、端緒になった「弥生開始期500年遡上」については当初歴博内部でも考古学者を中心に懐疑的意見が多かった。九州北部における初期水田にともなう土器付着炭化物や杭などの測定を繰り返し、議論を重ね、いよいよ動かしがたいとの結論を得て、2003年5月の発表に踏み切った。」

「炭素14年代法では、未知試料の年代を得るため、測定値を歴年代の判明した資料の炭素14年代と比較する「較正」(こうせい)を行う。年輪年代法で年代の判明した樹木年輪はその代表的資料で、北半球では主に欧米の高緯度地域の樹木に基づいた較正曲線IntCalを用いられる。しかし東アジア中緯度地域の日本にそのまま適用できるか議論があり、歴博はその検証のため日本産樹木年輪の炭素14年代測定に取り組んだ。・・南半球の大気は北半球より炭素14濃度が低いことが知られているが、・・日本列島の炭素14濃度が欧米より低い時期は、intCalに基づいて較正された年代は実際より古い値を示す。現在のところ弥生から古墳に至る時期(とくに後1世紀から2世紀?)を除き、炭素14濃度の系統的ずれは認められていない。」

新しい年代法、酸素同位体年輪法への期待

「年輪幅の変動パターンによる従来の年輪年代法は過去スギ・ヒノキ・コウヤマキなどに限られた。しかし近年、年輪に含まれるセルロース中の酸素同位体の変動パターンを用いた新しい年輪年代法が、総合地球環境学研究所により実用化された。降水量の多寡を反映する酸素同位体比の変動は、年輪幅よりも、一年ごとの同調性が高く、樹種も問わない。今後の切り札として期待される。(以上坂本稔教授)


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