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忍殺TRPGソロリプレイ【ニンジャの買い物】

ドーモ。今回は2019年9月にTwitter上にてプレイしたソロシナリオのリプレイ小説を投稿させていただきます。プレイしたのはゴルダ=アルカトラス=サンの『ニンジャスレイヤーTRPG ソロシナリオ「ニンジャの買い物」』です。

みんな大好きソニックブームの兄貴からのお使いミッションに挑むのは、彼を敬愛する少女ニンジャ、サードウィーラー。

ニンジャネーム:サードウィーラー
カラテ:4
ニューロン:4
ワザマエ:2
ジツ:2(ヘンゲ)
体力:4
精神力:5
脚力:2
装備:オーガニック・スシ
レリック:家族の写真
サイバネ:テッコ
生い立ち:生粋のソウカイ・ヤクザ
名声・ソウカイヤ:1
万札:8

たかがおつかいと侮るなかれ。下手を踏むと死も見える恐るべきこの任務を、如何にくぐり抜けるのでしょうか……。

ヘッダー画像の使用元はこちら(https://www.photo-ac.com/profile/709063)です。

1.

 ネオサイタマの闇の牙城トコロザワ・ピラー。無慈悲なるソウカイ・スカウト部門事務所でその日、1人の男と1人の女が相対していた。片や、堂々にして剣呑たるアトモスフィアの偉丈夫。片や、小柄であどけない少女。「ドーモ、ソニックブームです」「ドーモ、オニイサン。サードウィーラーです」両者はアイサツを交わす。彼らはどちらもニンジャである。無慈悲にして冷酷なるソウカイ・ニンジャなのだ!

 金糸を織り込んだ装束を纏う男、ソニックブームが口を開く。「お前がここに呼ばれた理由がわかるか?」冷淡な口ぶりである。少女ニンジャのサードウィーラーは頷いた。「任務のためです」「そうだ」ソニックブームは頷いた。「俺様は忙しい。スカウト部門としてテメェらガキの面倒を見るだけじゃない。大人には大人の付き合いってもんがあるんだ。わかるか?」サードウィーラーは即答した。「わかりません!」「そうか」

 ソニックブームは気分を害したでもなく、説明を始める。「近々、ソウカイヤの幹部会がある。そいつにゃ、シックスゲイツは勿論、ラオモト=サンも臨席する。それが終われば懇親会だ」サードウィーラーは頷いた。「オニイサンも出席なさるのですね」「ああ。そして今回は、ゲイトキーパー=サンの発案で、懇親会の余興に各々が自慢のサケを用意してくることになった。それ自体にゃ俺も異論はねェ」ゲイトキーパーとは、シックスゲイツ創始者であり名誉構成員。有り体に言えば、ソウカイ・シンジケートのナンバー2に当たる男だ。

 ソニックブームは首を巡らせる。目の前の少女のみならず、彼女の背後に幾多のニュービー・ニンジャの姿を見て取ったかのように。「……だが、さっきも言ったが、俺様は忙しい。その原因の大半は、テメェらガキどもだ。そんな俺様に恩を返さなきゃいけないとなったら……何をしなきゃいけないか、わかるか?」

 サードウィーラーは少しだけ考えて、答えた。「わかりました! あたしが、オニイサンの代わりにサケを用意してきます!」「そうだ。カネはスカウト部門に請求しろ。期日は明日の正午だ。俺が懇親会に出して恥ずかしくないサケを用意してみせろ。いいな?」「ハイ!」

 かくして、偉大なるソニックブームからミッションを受けたサードウィーラーは、サケを求めて出撃したのだった。

 そして数分後。ピラーを飛び出した少女ニンジャは、300メートルばかり風になった後、急停止した。アスファルトが靴底との摩擦で異臭を発する。「……お酒っていわれても、あたし全くわかんない……」途方に暮れる。なんたる未成年には厳しい高難易度ミッションか! だがしかし、これもソニックブームの信頼の証であると思い直す。

 わからないことはわかる人間に聞くのが早い、と平安時代の詩人ミヤモト・マサシは言い遺している。彼女が思いつく、サケがわかる人……迷っているヒマは無い。サードウィーラーはIRC端末をバッグから取り出し、当該の人物をコールした。

2.

「ビデオよし! ビールよし! お菓子よし!」

 女ハッカーにしてソウカイ・ニンジャであるライトニングウォーカーは、水色の自宅ソファーで満足気に頷いた。今日は休日である。加えてシヴィリゼーションな食生活に目くじらを立てる同居人はビズのために外出しており、戻るのは明日になるだろうと連絡があった。

 すなわち自由。ビバ・ラ・リベルタ。

 テレビモニタに視線を釘付けにしながら新発売のスパイシーで化学調味料過多なスナック菓子をバリバリと頬張り、瓶ビールをラッパ飲みして油分を洗い流す。見飽きたコマーシャルを飛ばすために脚を伸ばしてテレビのリモコンを操作しようとしたその時、タイトなフェイク・ダメージジーンズの尻のポケットで個人用のIRC端末が鳴った。

「アレクサちゃんから? はい、モシモシ」同居人の少女からの連絡は……なんとも妙な内容であり、火急の案件でもあった。カトゥーン鑑賞会は一旦中止だ。ザゼンルームに備え付けたUNIXに向かう。

「お酒ねぇ……幹部会? 懇親会だっけ? お金余ってんだなぁ」ブツブツと文句を垂れながら、UNIXと端末をケーブルで繋ぎ、更にUNIXと首元の生体LAN端子を直結する。しばらく後、ライトニングウォーカーの意識は自宅UNIX内部のコトダマ空間で目覚めた。

#SOUKAI:PRIV:ALXA :大丈夫かな? ///
#SOUKAI:PRIV:TOCKY :任せて ///

 サードウィーラーのIRCメッセージからは、彼女の不安が伝わってくるようだった。ライトニングウォーカーは端的に答えると、仕事に取り掛かる。サードウィーラーに物理的に近い酒屋や百貨店などの在庫データにアクセスし、値段順にソート。

#SOUKAI:PRIV:TOCKY :こういうのは得意分野だからね 頼ってくれて嬉しいわよ 危うく酔っ払って役に立たないとこだったけど ///
#SOUKAI:PRIV:ALXA :あたしが知ってる中で、お酒に一番くわしそうだったから。ライトニングウォーカー=サン。 ///
#SOUKAI:PRIV:TOCKY :そう? ///
#SOUKAI:PRIV:ALXA :よくお酒飲んでしあわせそうに寝てるもん。カゼひかないのかなって思うけど。 ///
#SOUKAI:PRIV:TOCKY :風邪? ///
#SOUKAI:PRIV:ALXA :ライトニングウォーカー=サン、お酒飲んだらいつもハダカで寝てるよね。ナンデ? ///

 ライトニングウォーカーのコトダマ空間イメージが、精神的ショックで大いに乱れた。

#SOUKAI:PRIV:TOCKY :わたしのサケのイメジってソれ!?他にあるでしょ!? ///

動揺のあまりのタイプミス。

#SOUKAI:PRIV:ALXA :うーん……

しばしタイプが止まる。

#SOUKAI:PRIV:ALXA :うーん……あとはトイレでゲロゲロしてるところ、とか。 ///

 ライトニングウォーカーはアルコールとの付き合い方を変えることを、電子の神に誓った。直後。

キャバァーン!

 電子ファンファーレが響き、彼女の視界がチカチカと点滅する。設定した条件に合う項目がヒットしたのだ。女ハッカーはコトダマ空間で体勢を戻し、データを拡大表示する。

#SOUKAI:PRIV:TOCKY :よしよしよーし! ///
#SOUKAI:PRIV:ALXA :見つかった!? ///
#SOUKAI:PRIV:TOCKY :トコロザワ コケシデパート ワカル? ///

 念のため、彼女の端末へ店舗データを送信する。紙のチラシのスキャンデータもだ。

#SOUKAI:PRIV:ALXA :うん、ワカル。ドサンコ物産展? あ、お酒って書いてある! ///
#SOUKAI:PRIV:TOCKY :幻の銘酒 純米大吟醸だってさ 値段的にもいい感じじゃないかな わたしも飲んでみたい ///
SOUKAI:PRIV:ALXA :どうも、ありがとう! :D ///
SOUKAI:PRIV:TOCKY :BFN ///

 かくして、サードウィーラーは第一関門であるサケの選定を潜り抜け、コケシデパートへと走り出したのだった。


 直結を終了したライトニングウォーカーは物理肉体で目覚めると、端末をポケットに戻し、リビングへ移動した。

「さぁて、ヤブワカの続きを……」

 真っ白なソファーにどっかと座り……奇妙な感触に首をひねる。否。これはソファーではない。首のない巨大な獣の死体だった。「アイエ!?」

 そして、本来のソファーに座る人影に気づいた。陰鬱な瞳が、テーブルの上に散らばる菓子の袋とカラのビール瓶をじっと見つめている。「エッ、デッドリーチェイサー=サン? ナンデ? 戻ってきてるのナンデ?」戻ってくるのは明日ではなかったのか。

 口うるさい同居人、デッドリーチェイサーは口を開いた。「これは」そしてゆっくりと頸を巡らせてライトニングウォーカーを見た。「なんですか」死んだ獣の血の臭いが部屋に立ち込めるケミカルスパイス臭と混ざり、ライトニングウォーカーの鼻孔が不快感を訴える。

「アイエエエ……」ニューロンを加速させて言い訳を考えるライトニングウォーカーをじっと見つめ、デッドリーチェイサーは今一度呟いた。

「これは、なんですか」

3.

 コケシデパート・トコロザワ支店最上階、特設ドサンコ物産展会場は、多くの来客でごった返していた。バイオタラバーカニにバイオホタテといった海の幸、バイオホルスタイン乳加工品にバイオコーンといった山の幸、更に各地の名産品やマスコット達が居並ぶ光景は、ネオサイタマでも早々お目にかかれまい。
 
 サードウィーラーはごくり、と生唾を飲み込む。どれもこれも彼女の食欲や興味をそそるものばかりではないか! なんたるゴジョ・ゴヨクを責めるトーチャリングめいた光景か! ソニックブームが己に、耐えてみせろと試練を与えたのだと彼女は気付いた。

「お嬢さん! オーガニックキャラメルだ! 合成じゃないよ! 1つどうだい!」「サーモン丸々一匹、ヒキャクが宅配も致しますよ! この香ばしさをご家庭でも!」「やぁ! ボクはメロングリズリー! 握手しよう!」四方からのスリケン攻撃めいた営業トーク! しかし邪悪なるソウカイ・ニンジャであるサードウィーラーは屈せぬ。

(オニイサンからの命令が絶対……! 我慢しなきゃ!)サードウィーラーは決断的に歩を進める!

「バイオラベンダーの化粧品はいかがでしょう! お肌すべすべ、身体に優しく綺麗になりましょう!」「アマイアマーイ、イカヨーカン! もちろんドサンコ産アンコ100%!」「やぁ! ボクはラーメンアザラシだよ! 握手しよう!」六方からのスリケン攻撃めいた営業トーク! 冷酷なるソウカイ・ニンジャであるサードウィーラーは屈せぬ!

(ライトニングウォーカー=サンも協力してくれたんだ……! 我慢しなきゃ!)サードウィーラーは決断的に歩を進める!

「本イベント限定、カニ・キャッチング漁船プラモデルですよ! 逞しく働くクルー達も忠実に再現!」「さあさあ、よく焼けたバイオ羊ですよ! 野菜もすべてドサンコ産だ!」「やぁ! ボクはトケイト・モンスター! 握手しよう!」八方からのスリケン攻撃めいた営業トーク! 非情なるソウカイ・ニンジャであるサードウィーラーは屈してはならぬ!!

(デッドリーチェイサー=サンもこれなら気に入ってくれそう……! 今度3人で来よう!)サードウィーラーはスチロール器のスープカレーをスプーンで口に運びながら決断的に歩を進める!

 おお、そして見よ。ゴジョ・ゴヨクを責めるトーチャリングめいた光景を耐え抜いたサードウィーラーを迎えるは純米大吟醸、銘酒『雪月花』に他ならぬ。オーガニック・コメと澄んだ湧き水で作られたサケは、居並ぶドサンコ名物の中においても、ヨコヅナの如き存在感を放っていた。

(これだ!)サードウィーラーは小切手を握りしめ、売り場に向かう。しかし!「行列、あちらが最後尾ですよ」「エッ?」見れば、十数人の客が『雪月花』を購入するべく列を作っていた。(大人しく並んでたら、売り切れちゃうよ!)

 会場には他にも様々なサケが売っている。どれも『雪月花』には見劣りするものの、多種多様なサケではある。しかし……!

(これは、オニイサンからの試練だ! ニンジャとして、ヤクザとして……あのお酒を手に入れてみせろって!)

 サードウィーラーは燃えていた。彼女のニンジャ思考力が、高速で回転する!

(確か、コケシデパートはラオモト=サンが出資してるお店だから、暴力で奪ったらお店の評判が落ちちゃって、怒られるよね。じゃあ、もう買ったひとから盗む? うーん……)

 考えている時間は無い。列は少しずつ消化され、サケの在庫はなくなっていく。決断しなければならない……!

(……よし、これだ……!)

 そしてサードウィーラーは決断的に意思を固めると、目を閉じる。精神を集中し……。「……イヤーッ!」カラテ・シャウトを放った!

「……ウゥッ!?」列に並んでいた客の男は、何やら凶暴な獣に睨みつけられたような感覚を覚え、振り向いた。無論、その先には獣などはいない。ただ、小柄な少女のみがいるのみである。少女と目が合う。「……アイエッ!?」そして男は、遺伝子に刻まれた恐怖を感じ、すくみ上がった。

 他の客も同様である。皆、心理的圧迫感を覚え、その場にへたり込んでしまう。「アイエエ……」読者の皆さんには説明しておこう。サードウィーラーはニンジャソウル由来のヘンゲ・ヨーカイジツをサブリミナル効果めいて発動することで、彼らに若干の急性ニンジャ・リアリティショックを引き起こしたのだ。

 もしジツのコントロールを誤れば、そしてサードウィーラーが過剰なニンジャ存在感を持つニンジャであれば、彼らは意識を失い、ドサンコ物産展は中止に追い込まれていたかもしれない。サードウィーラーは小切手をサケ売り場に差し出した。

「ド、ドーモ……何をお求めで?」店員の脚がガクガクと震える。「その『雪月花』ってお酒ください」サードウィーラーは答えた。「こちらお酒ですので、未成年の方には……」「オニイサンに頼まれたので大丈夫です」「アッハイ」「領収書ください」「アッハイ」なんたるヤクザめいた交渉か!

 そしてサードウィーラーは緩衝材を詰めたサケの包みを背負うと、その場で一礼して去っていった。それと同時に、急性NRS症状から立ち直った客が立ち上がり……。「『雪月花』、売り切れました! ありがとうございます!」店員のコールに、皆同時にうなだれたのである。

 サードウィーラーは混雑するコケシデパート店内に難儀しつつ、人目の無い踊り場へと足を運んだ。非常口からビルの外へ出ると、階段の手摺に足をかけ、ネオサイタマの空へと身を投げた。「イヤーッ!」ネオン看板やマネキネコ像を蹴り、トコロザワ・ピラーへの道を急ぐ!

 あとは帰還し、サケをソニックブームに献上するのみだ。跳べ! サードウィーラー、跳べ!

4.

「おまたせしました、オニイサン!」

 トコロザワ・ピラー上層階、スカウト部門事務所。執務机で紫煙を揺らすソニックブームは、少女ニンジャがうやうやしく差し出す桐箱を受け取ると、中身を検分し……ニヤリと笑った。「いいサケじゃねェか。上出来だ、ガキ」「ありがとうございます!」

 見れば、彼の机の周りには、幾多の酒瓶やペットボトル、缶などが所狭しと並んでいる。「これか? お前以外のニュービーにもサケを買ってこさせたんだよ」そう言いながら、そのうちの1つを手に取った。「ワインやビールはまだしも『悪い金塊』なんざ有難がりやがって……まったく」上級ヤクザの男は、一瞬だけ遠い目をした。

 サードウィーラーはじっとそれを見つめていたが、やがて口を開いた。「そもそもお酒って、おいしいんですか?」ソニックブームは意外そうに応える。「飲んだことねェのか?」「無いです」首を振る少女。「俺様がお前くらいの頃には……ハッ、まァどうだっていいか。お前も、大人になりゃワカル」「オトナ」なれるだろうか。ネオサイタマを生きるヤクザでありニンジャである自分が。

 ソニックブームは話は終わりだとばかりに煙草を灰皿に押し付けると、懐から万札の束を取り出し、サードウィーラーに投げ渡す。「わかってるだろうが、今日の仕事なんぞはガキの使いだ。せいぜいこいつでカラテを鍛えて、シンジケートに貢献できるニンジャになるこった」サードウィーラーは頷く。「ハイ、オニイサン!」

【万札:15】【余暇:1日】獲得。

 こうして、サードウィーラーの任務は幕を下ろしたのである。

エピローグ

「ただいまー……うわ、なんだこれ!?」

 ソニックブームが与えた任務を終えて帰宅したサードウィーラーを、散らばる菓子の袋にビールの空き瓶、ビデオテープの再生を終えて砂嵐が流れるテレビ画面、その他諸々が出迎えた。噂に聞く暗黒ニンジャ神殿が如き光景に、少女ニンジャは慄く。

 その原因である同居人が裸で熟睡していることを確認すると、サードウィーラーは散らばったゴミを片付けにかかった。1時間ほどの格闘の末、幾分かマシになったことに頷き……ふと、ビール瓶が1本、未開封で鎮座していることに気づく。少女はしばらく考えた後、左手を瓶に据える。そして。

「イヤーッ!」恐るべき速さでチョップを放った!

 ボトルネックカットチョップで切断された瓶の切り口は荒々しい。カットというよりも、叩き割ったと表現する方が近いだろう。瓶の中身をコップに注ぐ。匂いを嗅ぎ、泡立ちを確かめる。「変なニオイ」これが本当に美味しいのだろうか? 意を決してコップに口をつけ……一息に飲み込む。そして少女は、目を見開いた。

「うえええええ。何コレ……」あまりの苦さに咳き込み、辟易とする。瓶にはまだビールが残ったままだ。捨ててしまおうかと思ったが。「モッタイナイし……勝手に飲んだのバレたら怒られるかもだし」そして苦心しながら、瓶の中身をなんとか飲み干す。

 コップを洗い、瓶を捨てて証拠を隠滅したところで、酔いが回った。「あつーい……」意識が朦朧とする中、服を脱いでフラフラと寝室へと歩いていく。そして……ばたりと倒れ込む。「オトナになるって、大変だなぁ」そんなことを思いながら眠りについた少女は翌朝、人生初の二日酔いで目覚め……成人するまでサケを飲まないことを、心に誓うのだった。











 サードウィーラーが帰宅する、数時間前のことである。


「これは」陰鬱な眼のデッドリーチェイサーは、みたび呟いた。「なんですか」淡々とした口調に、隠しきれぬ怒気を感じ取ったライトニングウォーカーは必死に言い訳を考える。考え……そして、立ち上がった。「いいじゃん、別に! わたしが何食べたって、あなたには関係ない!」

 デッドリーチェイサーも立ち上がる。「こんなお菓子ばかり食べて……体に悪いですよ。考えたらわかるでしょうに」冷ややかな目線を投げる。ライトニングウォーカーもあざ笑うように言った。「ニンジャになっても健康が大事? どーせ明日にゃ爆発四散するかもしれないのに、好きなことやって何が悪いのよ!」

 2人の口論は、罵詈雑言の叩きつけ合いにエスカレートする。「なんて、捨鉢な! 祖先に恥ずかしいとは思わないのですか!?」「知るか! 母親はとっくに死んでるし、父親も祖父母も会ったことすら無いわ!」「誇らしげに言うことですか!? 呆れた人ですね……!」「どーせそっちだって、ニンジャでヤクザなんだからろくなもんじゃないでしょ! 何? 親が死んで家を追い出されたとか!?」

「……!」デッドリーチェイサーは絶句する。ライトニングウォーカーは荒く息を吐き……自分の言葉を反芻し、顔を青くした。デッドリーチェイサーのこれまでの半生などは知らない。知らないが……彼女の逆鱗に触れてしまったのだと、理解した。「……え……ええと……その……」狼狽えるライトニングウォーカーを尻目に、デッドリーチェイサーは顔を横へ向ける。ジツも持たぬゲニンソウル憑依者に、怒りに任せてカトンの一つも叩きつけてやろうかと思考が働き……。

 女ニンジャは代わりに、ビールの瓶を一本手に取った。

「ニンジャならわかりますね」デッドリーチェイサーはライトニングウォーカーの目を見て言った。「ボトルネックカットチョップ。これで雌雄を決しましょう」ライトニングウォーカーも決断的に、デッドリーチェイサーの瞳を見た。「わかったわ。目に物みせてあげる」

 古事記に曰く。偉大なるニンジャの始祖は、弟子であるニンジャ達が味方でありながら些細なことから争い、やがて殺し合うことを憂いた。そしてあるものを考案したとされている。1つはカワラ割り。チョップを振り下ろしてカワラを割り、カラテの優越を競うのである。

 そして、もう1つは瓶切り。並べた瓶の首をチョップで切断し、そのワザマエを競う。古代には素焼きのトクリで、現代ではガラス製のビール瓶で行うのが常だ。あるニンジャ考古学研究者は、トクリやカワラは代用品に過ぎず、最も古い歴史では囚えた敵兵の首や胴をチョップで切断していたという説を提唱しているが……今は語るまい。
 
 そして今日この場には、ライトニングウォーカーが用意した大量のビール瓶があった。何本飲むつもりだったのですか、とデッドリーチェイサーは口にしかけ、やめた。これより始まるのは情け無用のイクサである。

 ライトニングウォーカーは5本のビール瓶を巨獣の死体に抱えさせ、固定した。「……!」デッドリーチェイサーは生唾を飲み込む。5本……可能なのか!?「フゥー……」ライトニングウォーカーは息を吐き、右手を瓶の首に据え……。「キエーッ!」水平にチョップを放つ!

 1本……2本……3本……4本……5本! 5本の瓶の首が切断! ビール瓶はほんの少し揺らぐも、倒れる気配は無い。もし勢い余って瓶を倒してしまえば、挑戦は失敗と見做される。ライトニングウォーカーは切断された首から泡を吹く瓶を1本取り、一息に飲み干した。

「……どう? 諦めるなら今のうちだけど」挑戦的に笑う。デッドリーチェイサーは応えず、両の手に2本ずつビール瓶を手に取ると、同じように巨獣の死体に抱えさせ、並べた。そして……おお、何たることか! さらに両手に瓶を握りしめ……2本の瓶を並べる! つまり並ぶ瓶は6本!

「なっ! 自殺行為よ!?」ライトニングウォーカーは目を瞠る!

 デッドリーチェイサーは右手を瓶の首に据える。「参ります」その言葉を聞いたライトニングウォーカーは怒りを忘れ、固唾を飲んで見守る。そして。「……イヤーッ!」水平にチョップを放つ!

 1本……2本……3本……4本……5本……6本! 6本の瓶の首が切断! だが、瓶のうちの1本が、ぐらぐらと揺らぐ! もしも倒れてしまえば、挑戦は失敗だ!「……」デッドリーチェイサーは無言。「ああ……!」ライトニングウォーカーは祈るように両手を合わせた。

 瓶の揺らぎが大きくなる。「駄目ぇ……!」ライトニングウォーカーは悲痛な声を発する! アルコールの影響か、倒れたほうが彼女の都合に良いなどという考えは、とうに脳のメモリ領域から揮発していた! デッドリーチェイサーは瓶から目を離し、同僚の横顔をじっと見た。

 ……果たして、先の揺れがピークだったということか。瓶は速度を緩め、やがて静止した。「ああ……」ほっとしたようにライトニングウォーカーが声を漏らす。……そして彼女は、己の反応に今更ながら気付く。それと同時にデッドリーチェイサーが首から泡を吹く瓶を手に取り、一息に飲み干した。

 ぺたん、とライトニングウォーカーはその場に座り込んだ。デッドリーチェイサーは陰鬱な眼で彼女を見つめ、呟いた。「……わたくしの勝ちですね」然り。ボトルネックカットチョップ勝負の結果はライトニングウォーカーが5本切断、デッドリーチェイサーが6本切断……ゴウランガ! デッドリーチェイサーの勝利である!

 デッドリーチェイサーは瓶を片手に、じっとライトニングウォーカーを見下ろす。ライトニングウォーカーは彼女を見上げ……大声をあげた。「ごめんなさい! シツレイなことを言いました! 言っちゃいけないことを言いました!」謝罪の言葉を繰り返すうち……彼女は、堰を切ったように泣き出した。「言いたくて言ったんじゃないの! ごめんなさい!」

 そんな彼女の元に、デッドリーチェイサーが座り込む。そして、ふとライトニングウォーカーが切断したビール瓶を手に取った。「切断面、あなたの方がキレイですね」そう言って……首を振る。そんなことを言いたいのではない、とばかりに。

 しばらく無言の後、口を開いた。「わかってます。わかっていますよ。あなたは、人を傷つけるようなことを言えるひとでは、無いことくらい」そしてビール瓶に口をつけ、飲み干した。「わたくしの方こそ、申し訳ありません。自分の考えを押し付けてしまって、更にあなたをバカにするようなことを口にしました」ライトニングウォーカーはまたしばらくの間、嗚咽を漏らす。

「ねぇ」「なんです?」

 泣き止んだライトニングウォーカーはデッドリーチェイサーが切断したビール瓶を手に取り、それを一息に飲み干した。そして、言った。「そういえば、あなたと一緒にお酒飲むの、初めてかも」「……そういえば、そうですね」デッドリーチェイサーは頷く。「お酒、好きなの?」「まあ、それなりに。昔の職場で覚えたのですが、機会は少なく」「そっか」ライトニングウォーカーはビールを手に取り、片方をデッドリーチェイサーに押し付けた。

 2人は乾杯の要領で、カツン、と瓶を鳴らした。「よし、今日は目一杯、飲んじゃおうか!」ライトニングウォーカーは笑顔で宣言した。「ええ。負けませんよ」デッドリーチェイサーは微笑んだ。

 そして2人は、ひたすらに談笑しながらビールを飲み続けたのである。

 5本目のビールをデッドリーチェイサーが飲み干した。「しかし、やけに早かったよね」「帰りですか。当初、歩いて帰るつもりだったのですが、親切な方に、トラックに乗せてもらえまして」ライトニングウォーカーはそれを聞き、デッドリーチェイサーの肩を掴んだ。「ヒッチハイク!? アブナイよ! 連れ去られてオイランにされちゃうとか、よく聞くよ!」デッドリーチェイサーは驚く。「た、確かに。でもわたくし、ニンジャですし……そのときは返り討ちにすれば」「相手がニンジャだったら!? ニンジャで人さらいでトラック運転手だったら!」デッドリーチェイサーは愕然とした。「そんな……! お、恐ろしい……!」「いい人で良かったよぉ、その人」

 6本目のビールをライトニングウォーカーが飲み干した。「そういや、アレどうすんの?」巨大なイタチの亡骸を指差す。「トコロザワの先輩ニンジャに依頼されたものです。なんでも、毛皮を使いたいのだと」デッドリーチェイサーは依頼について説明した。「なんか腐りそうだよね。良い処理がないか調べてみるわ」「頼みます」ライトニングウォーカーはUNIXに向かう。その間、デッドリーチェイサーは少し悩んで、スナック菓子を手に取り、口にした。「……結構イケますね」

 7本目のビールをデッドリーチェイサーが飲み干した。「なるほど……血を抜けばいいのですか」ライトニングウォーカーがプリントアウトした、狩猟の獲物の処理方法を読み上げる。「ベランダに吊るしてみようか。ロープ……は無いけど引っ越しのときのビニ紐があったわ」「バイオカラスが寄ってくるかもしれませんね。ダンボールなどをかぶせておきましょうか」「でっかい目玉を描いたらカラスがビビるんだってさ」「なるほど。やってみますか……!」

 8本目のビールをライトニングウォーカーが飲み干した。「UNIXって、むずかしいですよね」デッドリーチェイサーが言った。「わたくし、座学でならいましたがちんぷんかんぷんで」「簡単だよー? 今度教えてあげるよ、使い方」ライトニングウォーカーがケラケラと笑った。「怖いのですよね……爆発などしないのでしょうか」「爆発? するときはする。マジで」「アナヤ……!」

 9本目のビールをデッドリーチェイサーが飲み干した。ライトニングウォーカーはプリントアウト紙を睨む。「内臓は抜いて捨てろ……って、ゴミに出すにもすぐ腐っちゃうよね。どうしよう?」デッドリーチェイサーはしばし考え、指を鳴らす。「カトンで焼いてしまいましょう」「ナイスアイディア!」ライトニングウォーカーは手を叩いた。泥酔状態のニンジャの瞳に、超自然の光が宿る!

 10本目のビールをライトニングウォーカーが飲み干した。「あのさー」ライトニングウォーカーはデッドリーチェイサーを見た。「なんですかー?」デッドリーチェイサーがゆっくりと頭を揺らしながら答えた。

「わたし、トキコ。イサリ・トキコ」ライトニングウォーカーはなんでもないことのように、言った。「ドーモ、トキコ=サン。わたくしはホオヅキ。アカギ・ホオヅキです」デッドリーチェイサーはオジギをした。ライトニングウォーカーもオジギをした。「よろしく、ホオヅキ=サン」「こちらこそ、トキコ=サン」

 11本目のビールをデッドリーチェイサーが飲み干した。「それにひても、あつくないですか、なんだか……」ひっく、としゃっくりを一つして、ライトニングウォーカーは頷く。「うん……キモノぬいじゃえば? わたしもぬぐ!」「そうしますかぁ」

「ねむーい……」「わたくしもー……」


「ただいまー……うわ、なんだこれ!?」

 ソニックブームが与えた任務を終えて帰宅したサードウィーラーを、散らばる菓子の袋にビールの空き瓶、ビデオテープの再生を終えて砂嵐が流れるテレビ画面、リビング中央の焦げ跡が出迎えた。ベランダでは、首のない巨大な動物の死体が奇怪な文様のダンボールを被り、逆さ吊りにされている。噂に聞く暗黒ニンジャ神殿が如き光景に、少女ニンジャは慄く。

「なんかのオマジナイかな。これじゃライトニングウォーカー=サン、またデッドリーチェイサー=サンに叱られ……って、あれ?」

 リビングの床には脱いだ衣服が足跡めいて転がり、寝室へと向かっている。ライトニングウォーカーの私服であろうシャツやジーンズに加え、シックなキモノも混ざっていることに訝しんだサードウィーラーは、そっと寝室を覗き込む。

 寝室では、服を脱ぎ捨てて裸のライトニングウォーカーと、やはり裸のデッドリーチェイサーが眠っていた。寝室からは強烈な、サケの臭い。「やっぱり。お酒飲んだらハダカになるもんなのかなぁ?」サードウィーラーは2人に布団をかけ直す。「デッドリーチェイサー=サン、いつの間に戻ってきたんだろう。怒らなかったのかな、こんなに散らかして」怒るどころか片棒を担いでいたなど、少女は知る由もない。

「でも、うん」サードウィーラーは2人の寝顔を見た。姉貴分2人は、穏やかな寝顔を浮かべている。「ふたりとも、なんだかとっても幸せそうだよね。そんなにお酒が美味しかったのかな?」

 翌朝。2人のニンジャは、何故か裸で眠る妹分に訝しみつつ強烈な二日酔いで目覚め……しばらくの間サケを絶つことを、心に誓うのだった。

《おしまい》 

リザルト

【万札:15】獲得、マンションの家賃として【万札:3】を支払う。

実は当初、家賃は3人で折半していましたが……有利すぎるため、デッドリーチェイサーのジャングル探検から各自万札:3を支払うように変更しています。

……まあ、きっと家賃3倍になるようなことをしでかしたのでしょう。

余暇1日は万札3を支払い、カラテトレーニングを実施。
目標出目5以上のところ、出目3で失敗→ショドー効果で振り直すも出目3で失敗→招き猫効果で振り直すも出目3で失敗→招き猫リスクダイスは出目3、とやたらと出目3が続きました。それはともかくステータス変動はなし。カネは稼げたのでよしとしましょう。

ニンジャネーム:サードウィーラー
カラテ:4
ニューロン:4
ワザマエ:2
ジツ:2(ヘンゲ)
体力:4
精神力:5
脚力:2
装備:オーガニック・スシ
レリック:家族の写真
サイバネ:テッコ
生い立ち:生粋のソウカイ・ヤクザ
名声・ソウカイヤ:1
万札:8→17

それでは次の機会にお会いしましょう。ゴルダ=アルカトラス=サン、楽しいシナリオをありがとうございました!