見出し画像

真夜中の短いおはなし

いつも大体記憶を探るような思い出し方で理解していく。
GFEDCBA。追いかけるような順番で容易に再形成する記憶。


ここは、確か実家。

'ここから運転変わって。'ジブリの強い女みたいな、ツンとした言い方を彼女が言う。
自分でしなよ、と思いながらも後部座席からハンドルとアイドリングだけでなんとか駐車場に入れようとする。
だけど視界が悪すぎて窓から身を乗り出して見ても、
あれなんでだ?となり見えなくて、
あっそっか。目瞑ってるからじゃんって目を開けたら目覚めた。
夢っていつもそんな感じだ。


深夜3時。夏。国道沿いに時折り車は通る。
暑い。"エアコン切れて窓閉め切ってんじゃん。"
うだるような暑さ。窓を開けて扇風機のスイッチをONにする。
これでよし寝れる。


うつ伏せになり、ベッドの下に手を伸ばす。
惰性で開くiPhone12。
機械的な光は眩しすぎて少し強めの眠気覚ましになってしまった。ケータイはまた明日。
目を薄く、開いたり閉じたりしてボーッと自分の頭の水面をつつく。妄想の時間だ。誰にもジャマをされないこの時間が好きだ。
深夜の脳みそは井戸みたいにこんこんと、ふつふつとイマジネーションが湧き出る。湧いたらそのまま元あった水に帰っていって、留めておかないとすぐ形を失くしてしまう。
でも敢えてメモなんか取らない。記憶もまあ、いらない。
そんなことしてしまうと井戸そのものが壊れてしまう気がするから。
夜中にたまに、そんなふわふわした世界に行ったりする。

そしたらほどなくして現実世界に引き戻される。
隣のベッドから何度も鼻水をすする音。
(風邪?…じゃないよね。)
目を閉じたままそこに集中すると確かにシクシクと彼女は泣いていた。

「泣いてる?」咳払いをしてから僕は聞いた。
「うん。」返事は何と言ってたとしても、泣いてたのがわかるくらいにやっぱり彼女は泣いていた。
「どうしたの?お腹イタイ?」
「うぇっ、ぇっ、ぅぉお腹すいだあぁぁ〜!!!!」


笑いをこらえるのが必死だった。彼女はうぇ〜んと泣いてる。"アホか。飯を食え。人間は腹が減ったら食うんじゃ。"僕の心の中の千鳥が完全にノブとなり、叫び倒したがお尻で押し殺した。
あぐらをかいて先程と一変脳みそが高速回転で答えを探す。
これは回答を誤ったらダメなやつだ。
さっきまでシャワーみたいなドライヤーとドライヤーみたいなシャワーのこと考えてた僕は急に現実的な判断を強いられたのだった。

僕は、の話で考えたら。
怒ったり、喜んだり、苦しんだりそのほかも色々。
なんだか感情が高まった時なんかは、
そっかそっか。そうだよね。と優しく背中をなでてほしいもんだ。
それがダメならもうそっとしておいてほしいかな。

「そっか、お腹すいたね。」と目一杯優しい声で、自分の中の最適解で返答する。
「うん。」ふぅーとため息をつきながら彼女は泣き止んだ。最初のハードルは超えたみたい。そして続ける。
「とろろ蕎麦食べたい。」
「コンビニに売ってるかな?」
「でもこんな時間にみんなは食べないよ」彼女はまた泣きそうになっていた。
「僕は食べるけどな。食べないまま今死んだらとろろ蕎麦のバケモンになっちゃうよ。」
「でも、、」
「じゃあさ、とろろ蕎麦をこんな美味しい時間に食べることで、神様はバチを当てると思う?それにみんなはダメって言うかな?」
「みんなはダメとは言わないけど、神様はわからない。」
「じゃあもし今から食べるとろろそばが美味しかったら神様の祝福だと思うんだけど、どうかな。僕もちょうど喉がカラカラ。コンビニについてきてよ。一緒に行こう。」
「うん。」


泣くほど食べたいとろろそばが不味いはずはない。
それとみんなたぶん、背中を押してほしいんだよね。
ローソンにとろろそばがなかったら、セブイレに神様はいるかもしれない。
今日はとろろの神様はお休みかもしれないけど、深夜の散歩は静かだし、星がキレイだし、楽しいに決まってる。
君の夢を見たよ、とか言いながら。


そしてローソンでお蕎麦は微笑んでた。


帰って蕎麦をすすって、歯を磨き、
彼女は死ぬほど満足そうに寝た。
あ〝〜サイコーって言ってた。
僕はまたふわふわしてから寝た。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?