…(御堂姫貴)

自分の昔話なんて

嫌い だ

あやふやだが大体こうだろう
※漢字・文字に美化・訂正してある

いわゆる義務教育中 に捨てられて
いわゆる 人間として扱われない環境をやり過ごして
いい加減全て失った辺りで
それまでの畜生を終えた



(それまでも無かったが)いよいよ感情が無くなって
生きる気力とか意味とか なんも無くなって
道路のゴミと混ざって

でもまだ使い道があるのか拾う馬鹿がいて
身体を移動させる奴らに対し、馬鹿が、と思ったのは思い出せる…気がする

点滴で勝手に生命を長引かせて
勝手に調べて
勝手に…

降り注いでいた

死んでいた脳か心のどこかが、起きたみたいに何かが目を覚まして

気づいたら降り注いでいた
言葉?あたたかい雨?…感情?
何とは言えないけど、何かが降り注…ぎ続けていたことに気づいた

それが…無くなったみたいに分からなくなって
えらく久しぶりに頭が動いて探したけど
気のせいだと。思った
目は何も見えなかった

しばらくしてまた起きるような感覚
目じゃなく、人として起きる感覚
気づいたら、とも言う
気づいたら降り注いでいた
言葉だった
だれか、人間が話していた

まどろむというらしい
まどろんで居て…また起きたり…まどろんだりを繰り返して

聴きたいと思った
その言葉を聞いていたい、その言葉を聴きたい、その、人間を見たい、と

何回か、辺りを見たけど黒だけで
何回目か…驚いた(というらしい)顔を見た
記憶に残らない、検査というものでも
居場所となっていた黒の中でも
言葉を探していた
あの人間のあの言葉を探していた

ないのか…ゆめ…だったか…無いんだ…と思った頃
ふと、気になって "いりぐち" を見る
そこに人間が来た
検査で居ない人間
驚いた顔だけど今まで見てないと思う

ちかづいて
ことばを おいて いなくなった
その人間だった。その人間の言葉だった。声だった。その温度だった

検査は違う人間
違う人間と居る時、似た音が聞こえた
音のほうを見たら、小さい…シカクだった。
あの人間じゃない。似てるだけで、聴きたい、とは違った

何回か…その人間が来て、その言葉を…注いで
…その…言葉を…もっと聞くために
はなせたら、と思った
人間は…話す生き物…だろうから
はなしたい、と思った
言葉を、音だけでも話せたら

その人間の言葉がもっと聴けると信じていた

検査で何度も小さいシカクが似た音を出す。
聞かされる理由は分からない、あの人間じゃないから聴きたくないけど、あの人間の言葉に似ていて…
見ていた。小さいシカクを

見た。小さいシカクから似た音を出す人間を。
驚いた顔の人間が話している
はなしている、はなしかけられている
かいわ、だ
きっと会話を求めていた
話せる身体じゃなくて、話せる脳じゃなかったから

口という場所から音が出るまで時間がかかった

検査で、何度も、はなしかけられて
人間を辞めた代償は大きかった。最初は本当に、理解できなくて、脳が働かなくて、日本語をオモイダス?日本語だと理解することもできなくて
たぶん、本当に少しずつ、ほんの少しずつ、わかってきて

小さいシカクから音を出す人間を見るようになってから
聞こえる日本語を理解するまで時間がかかった
まだ音にできない返事を返せるようになるまで、意志疎通できるまで数日かかったという
(拾う所から何度も居たらしい人間曰く)
さらに数日かけて音を出した

けど違う。あの人間の言葉とかいわするためには…もっと日本語を取り戻さないといけなかった
きっと周りの人間達は手を尽くし試行錯誤していた
人間を辞めた代償は大きかった。
自分でも、口から出る音が日本語になってないのが解っていて
涙なんか出ないけど、あれが泣きたい感情なんだろう

何度も、教えられた
意図も理由もわからぬまま

何度も、小さいシカクを押した
縋るように絶えず降り注がせて
縋るように絶えず望んで夢見て

その人の前で "返事" をした時
その人はあの、入口を見た時みたいに驚いて…
泣かせてしまった
その時はそれが"泣く"っていうことも忘れていたけど顔は覚えている。心も脳も覚えている。忘れるなんて不可能なくらい鮮明に。
(後に気づく、)恋した人の嬉し涙なんて脳に焼き付くに決まってる

泣きながら幸せそうに笑って
心臓が温かくなった。まだ生きてるんだな、と実感した。
すぐまた前髪で見えなくなったけど
また見たいと思った。温かかったから。安心したから。
返事したら喜ぶ、と思って

拾った責任者がうんざりしまくってても何度も何度も会話を教えろとねだった(嫌な記憶だ)
きっと人間を終えていたのは数日だと、後の奴らは言う
けど失ったものを、昔のように普通の人間と思える程、にまで取り戻すには数ヶ月を要した。
生まれ変われたと喜べるようになるまでは数年だ

返事をして、生涯忘れられない泣き顔を見た日
から……来なくなった
責任者に聞いても教えられないとしか聞けなかった

あの人の言葉を聴きたい
あの人と話したい
なんで来ないのか分からないけど
話せるようになりたい
逢えた時に笑顔が見れるように

だから
検査でも通路でも人間が居れば話しかけて、たくさん話した
失った分を早く取り戻して、早く…ちゃんとした、まともな人間に戻って、
責任者の知り合いだっていうあの人に会いに行きたい
会いたいと何度も言葉にして、来てくれるのを待っていた

あの人の事を知りたいと言ったとき、責任者から聞いた
初めてあの人が来る時、俺の事を説明しようとして断られた、と。
俺の居ない所で俺の事情を勝手に話す事を、あの人は嫌がった、と。
それは、あの人が居ない今、あの人の事を話したら、あの人は嫌がるから。あの人の知らない所で、あの人の事を知るのは…あの人が嫌がるって。
なら、会わせてくれって懇願した
渋っていたけど

数日後、会いたいかと言われた。
あの人を一番愛してる人があの人を守る場所で。
お前に出来るなら、と言われた
俺があの人に光を与えられるなら、って
会いに来ない理由も分からない、何を抱えてどう生きてきて、どんな人間なのかを知らない俺が
あの人のことを何も知らない俺に出来ることがあるなら
あの人が笑ってくれるなら
笑ってほしい
笑わせたい
あの時笑ってくれたなら。俺だって

数日経って…扉の前に居る
狭い部屋の中で首輪を着けて、静かに、と。
会えるけど。あの人の意思で離れたことを忘れるな、と。
要は…あの人を見ろ、と

扉が開いて
責任者が誰かと話しているらしい…音が聞こえなくなる

部屋にあの人が居た

「あのこを一番愛する人が」そう言っていた。
その人が彼女を抱きしめている、苦しそうに座ってしまって、近寄ろうと体が動いて、首と脚が動かなくて、

違う、笑ってほしい、
「わらって…わらってほしい、だから会いたかった」
周りが見えない聞こえない、あの人しか見えない、考えられない、口から、感情が出る
あなたがおしえてくれた
「ずっと、言葉、くれていた、だろう。
もっと、きき、たくて、会いたかった」

「…、…だって、…そんな、…、存在しない」
小さな言葉が、聞こえる
聞こえることが、しあわせで

あなたはしあわせじゃないの?
「…言葉…同じ言葉、きいた言葉と、同じ人、同じ言葉、ききたかった、やっとあえた」
あの日のあなたの顔を思い出す
心臓が温かくなる、生きていると教えてくれる
だからもっと

「わらえるなら…よかった」
キレイな音…キレイな言葉…
徐々に思い出していた人間を辞める前の自分。きっとこれまでの人生に
こんなキレイな音は言葉は無かった
「すき、な、言葉。…ずっと、言葉をくれた、ありがとう、きっと、あなただけ、いままで、なかった、言葉。」
「それがこの子の魅力で才能だから」責任者の声が聞こえる。このこ、この人のこと?

「簡単に…好きだなんて言わないで!あんたっ、この子の何を知ってるの?!何も知らないくせに!」
おこってる、しってる、たくさんおこられた
これはおこってる、っていう
知らない事をおこってる
「しらない、あなたのこと、しらない。
言葉をくれた、さがしたけどいなくて、会えて、あえなくなって、あいたかった、言葉がきこえるのは、しあわせだったから、ききたくて、しらない、あなたのこと、あえなかった、あえてしあわせ」
また温かくなる
まだわらってくれてない、まだ俺だけしあわせなのは、ゆるさない

「…、…、うそ、」
「嘘じゃないよ。喋れなかった…反応すら出来なかったこいつは努力していた。君に会うために、話したいって。」
「はなしたい、あなたの、言葉すきで、ずっとききたかった、きけてしあわせ、だからはなしたい、あなた、も、わらってほしい…」
あの時の顔を、鮮明に思い出せる
好きな顔。ずっとわらってほしい
ずっとしあわせでいてほしい

「はあーーーっ!!両想いとか…勘弁して…何?」
「そんなんじゃ、…」
「だから会わせたかったんだ。絶対幸せになれると思っt」
「幸せじゃないっ!!…はあっ、うそ、できない、こまる、なんで、うそだって、いって!何もしてない、悪くない!笑えるなら!貴方に私は必要ない!…貴方が人間なら…話したくない、会いたくない、人間は…普通の人間は……私なんか…話す必要ない、離れる、だから離れたの、いいことだって!こんな奴っ…」
それが否定の言葉だと勘づいた。"嫌い"な感情で、俺は会いたかったけどあなたは違うんだって…理解してしまった

「私は好きよ?あなたの事。愛しくて大切で、大好きよ。愛しているわ。
小癪な事に高校からの知り合い達もあなたの事大切にしてる。
大丈夫。あなたは愛されてるの。世界の全ての人間の意見じゃないの。傷つく前に傷つけなくていいの。
私はこいつらを調べて、ここに来る事を許したの。」
その人はずっと側にいてずっと、あたたかいことばを言ってる、あの人の言葉みたいな、
似てると感じた
だからおこられたけど、きっとすきな人、こわいけど…

「なんで」
「なぁに?」
「なんでゆるしたの。疑わなかったの?この…やみが…貴女もあの人も傷つける…」
きずつける…?
「ほんと諦め悪いんだから。あなたが拒絶するのは誰の為にもならないの。
あなたを好きな人間が傷つくのが判るなら、あなたは好きになっていいの。
あなたは…あいつらの事好きなんでしょう?」

すき?
「はずかしい、(っていう言葉)?」
「てれてないっ!!!」
!!おこられたけどかいわできた!
えっと、今きいた言葉!
「すき、あなたの言葉、すき、あたたかい!」
「うるさい!うるさいっ!!」
かいわできてる!あの人とあの人を好きな人がしてたみたいなかいわ!
「痴話喧嘩なんて小学生じゃないんだから」
「うるさいばか!だまって!そんなんじゃない!」
ほら!
「すきっ!わらって!あなたの言葉すき、ずっとききたい!」
しあわせで!言葉で、返事したら、わらってくれると思ったのに…
言葉きけなくなって…

責任者とあの人を好きな人が話して、扉が閉まった。
車で、変に笑って、また会えるよって言われた
もっと話せるようになれって。
話したい。幸せだった

そんなような、きっかけがあって
あれから…義務教育を受け直す程、勉強させられて
何度もあの人に逢えて
何度もあの人から言葉を教わって
もっと好きになって…

気軽な支援など要らない。いつか離れるなら気にかけるな。 支えるなら…どこまで追える。いつまで付き添える。 どれほどの覚悟と信条があって