日記3 マッチョ・マッチョ!

在宅生活が続いてみると、外に出ていたころ(つまり少し前までの日常生活)は存外動いていたんだなと思い知らされる。
駅まで歩く、建物の中での昇降、あとは気分が上がってその辺で踊るとか、無意識のうちに結構動作をしているのだ。
引きこもってみると、スマホの万歩計に毎日3ケタ台の数字が並び、これはまずいぞと思い知った。

筋肉を鍛えようと思い、二週間と少し前から毎日の筋トレをし始めた。
筋トレといってもたいした強度のものではなく、また鍛える筋肉がそもそも無きに等しいため、今は無から有を生み出す試みをしている。ちなみに腕立て伏せがマトモに出来ないレベルのショボさだ。笑い事ではない。
15,6日ほどちょっとした筋トレをしていた結果、フニャフニャだった腹部が、表面はポヨついたまま奥に埋蔵筋の存在を感じられるようになった。この皮下脂肪がなくなればちょっとはまともなナリになるはずだ。
自分が若干のトレーニングをするようになって以来、強筋肉保持者へのリスペクトが高まった。
以前は筋肉鍛え人に対してもっと「マゾ」「なんか執念深そう」というようなイメージを持っていたが(身近にムキムキな人が少ないため、クレッチマーの論を間に受けた想像上のマッチョの性格である。とんだ偏見だ)、それが「毎日継続できる偉い人」というポジティブな印象に変わった。
筋肉鍛え人はよく、「引き締まった体でより自分を好きになろう!筋肉を鍛えてよりハッピーに!」というようなキラキラしたメッセージを送ってくる。
今まで、それを暑苦しく感じていた。もっと「ボブサップみたいな男に彼女を寝取られた」みたいなジメジメした動機や、「筋肉に電極をつけて楽器を演奏したい」みたいなトンチキな動機があってもよかろうにと思っていた(もっとも、そんな筋肉教本は売れないだろうが)。

↓これでもかと鍛え上げられた筋肉に電極を貼り付けて楽器を演奏する動画。すごい
https://vimeo.com/47875656

しかし、最近筋肉鍛え人たちの言うことはあながち嘘ではないと思う。
バキバキになった腹筋を眺めて「俺美しい、最高……」と悦に入るフィールドにはまだ達していないが、毎日筋トレをこなすことによる「自分何かやってる感」は自己肯定感を少しなりとも上げるのに一役買っている気がする。

突然だが「あつまれどうぶつの森」の私の島にはヴァヤシコフというウマが住んでいる。
このウマはいつも筋肉のことしか頭になく、外ではしょっちゅうダンベルを両手に持っているし、夜は家で筋トレ教本を夢中で読み込んでいる。
そんなヴァヤシコフに尊敬の念を抱いている。なんてストイックなヤツなんだ……こんなグダグダした島の環境の中で筋肉一本道を貫けるとは相当屈強な精神の持ち主に違いない。爪の垢を煎じて飲むべきだ。ウマなので爪はないが。そしてこの慣用句は若干キモい。
というわけで、ヴァヤシコフを見習って毎日少しずつ頑張ろうと思う。


ところで、今回のタイトルは昨年宝塚月組で上演されていた”I AM FROM AUSTRIA”の一曲からとっている。
珠城りょうのリア恋誘発彼氏芸、美園さくらのゴージャスな海外セレブ感に始まり、生徒さんの個性にマッチした配役とフレッシュな爽快感に満ちた良作だった。ああ、早くまた宝塚を観たい……。
『マッチョ・マッチョ』は暁千星演じる大人気サッカー選手、パブロ・ガルシアのテーマ曲であり、かなりキャッチーな歌詞で当時話題を呼んでいた。
元々顔が比較的細長く芸風もダンディ系の生徒さんが好みのため、ベビーフェイスでかわいらしい印象の暁千星は今まであまりピンとこなかったが、パブロ役を観ていい役者さんだなあと思った。
彼女の演じたパブロ・ガルシアという役は、「カタコトの外国人で実はゲイ」という、演出に配慮がないと単なるおもしろキャラにされてしまいそうな難しい役どころであった。
実際のところ、ヒロインのエマ(ハリウッドの大女優として成功を収めたが、それゆえに本当の自分を誰にも見てもらえず、偽りの自分を演じながら生きているという苦しみを抱えている)と同様、パブロもまた、マッチョイズムの極致のような自身のパブリックイメージと、人の心の機微によく気づく純朴で心優しい本来のパーソナリティとのギャップに悩みながら生きているというのが所々で伝わってくる、繊細な素晴らしい演技であった。
暁千星の今後が楽しみだ。

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