出町座で『この世界の片隅に』を観た。

10歳の娘に そろそろ『この世界の片隅に』を観てもらおうと思い、上映中の映画館を調べた中で、『出町座』の存在を知る。
2017年12月28日にオープンしたばかりの新しい映画館だった。
さらに調べると 立誠シネマプロジェクトから誕生した映画館だった。
http://risseicinema.com/archives/21926

ずっと 立誠小学校で映画を観てみたいと思いながら 結局実現出来なかったので、
出町座に俄然 興味が湧いた。

当日。映画を観るのは僕と10歳の長女だけだけど 家族4人で京都へ出発。

出町座に着くと、建物の外まで伸びる長い行列。
最後尾のお姉さんに伺うと、おそらくバーフバリの列ではないかと。
座席も50席ない小さな映画館であることに加え チケットが当日券しか出ないため 人気のあるタイトルは行列が出来るよう。
しかもバーフバリはこの週末から上映が始まり、前後編同時上映の映画館も少ないだろうから、人気あるのも納得。
僕も本当に観てみたい作品。

というわけで 僕らも行列に並ぶ。
映画は全然詳しくないけれど、観てみたいと思っていた作品のポスターが並ぶ。
家族で 「あれがどう、これがどう」とか言ってる間に行列はどんどん吸い込まれ 僕らも店内へ。
一階は、本屋 と カフェ 。(店名は別。カフェが『出町座のソコ』、書店が『CAVA BOOKS』)
チケット買う間だけ 一階スペースに滞在したけど 出町座が入るこの建物自体がカルチャー発信地って感じでとても素敵な磁場を放っていた。
出町柳という立地や空気感も相まって本当に素晴らしい空間。
大好きな豊岡劇場みたいだ。
http://toyogeki.jp
都会の中心地でなく中心から少しだけ離れたところに ワクワクしたり モチベーションを蓄えたり出来る場所があるのは理想だな。
地元 吹田みたいな 少しカルチャーから縁遠そうな町にこそ こうゆうカルチャーを発信する場所があればいいなと思う。
ビジネスとしては とても難しいんだろうけど。

そんな羨望の思いを胸に秘め、チケットを購入。
3000円の通常会員になってみた。
招待券が二枚ついて、会期中は1000円で映画を見ることが出来る。
決して近くはないけれど、少し足を延ばして映画鑑賞というのも乙だと思う。
今年はたくさん映画が観たい。

チケット購入後、映画館内へ。
映画を観るスペースは2階と地下の二カ所あり、今回は2階なので日差しが当たる明るい階段を上へ。
指定席ではなく自由席だったのも新鮮だった。(サイトの説明を見てると 通常は指定席かもしれないけど)
席は48席。実際 中に入ると、本当にこじんまりとしている。
その小ささこそが何だか 特別なことが始まる感じがして喜ばしい。

そして『この世界の片隅に』を鑑賞。
(以降、具体的なネタバレはありませんが 、漠然とながら内容に触れます)
僕は2回目、娘は初めて。
鑑賞した結論から言えば、長女には少し難しかったよう。
よく考えてみたらセリフも言葉少なで 受け手が汲み取る部分が多いし、小学四年生には 知らない言葉も多いかもしれない。
それでもきちんと思うことはあったようで、こちらの感想を伝えると「そうそう!」って感じで 実直な目をして頷いてくれた。

この映画を誰かに勧める時、戦争映画として勧めたくない。
すず という女性の日常こそが、愛おしく、可笑しく、美しく、
その日常と向き合う姿勢こそがこの作品の大切なところだと思うので。
そして、その愛おしく、可笑しく、美しい日常に、当人達も気づかないぐらい息を潜めて 戦争が忍び寄り侵略されていく様が何よりこわい。
今まで見た どんな戦争映画より戦争が怖く感じるのはそうゆうところ。
ある日を境に 突然世界が変わってしまうというより 少しずつ 少しずつ 日常が蝕まれていく。
夕陽を見ていたら 気がつけば夜の闇に包まれていたといった感じで 自然なグラデーションで戦争に慣らされる。
データとして数千万人が亡くなったと聞けば その悲惨さに思いは寄せるけれど、それよりも大切な1人を亡くす過程を丁寧に見せられる方が、戦争の無情は伝わる。

『この世界の片隅で』を観ると あの大きな喪失で涙を流すけど、一番泣いてしまうのは その後。
振り回された大衆が それでも しなやかに強く生きていく様子を見て、「笑って生きて行かなきゃな」と 泣いてしまう。

この映画が上映を開始した当時、素晴らしい感想をいくつも目にした。
その中で「この映画は、『映画を観る』というより『体験』に近い」というニュアンスを書いてた人がいて 深く共感した。

久々に 『体験』に近い映画鑑賞をし映画館から外に出た時、正午の明るさに 少しクラクラした。
奥さんと次女と合流し、日常を取り戻した。

出町座のすぐ近く いつも行列ができている 出町ふたばの 豆大福を食べながら帰路。

美味しいものを食べられることは幸せだなぁと 単純だけど しみじみと。

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