「蒼翠炎雷」は原点回帰の先を翔ける

この度はM.S.S Project 7th Album『蒼翠炎雷』発売おめでとうございます。

クロスフェードが発表された時点でもライブ版から進化していた楽曲に心躍らせていましたが、手にした音源は更に魅力を増しており良い意味で裏切られました。

少し時間は空いてしまいましたが、せっかくなので、アルバムを一通り聴いてみての感想を残しておこうと思います。

一、奥義不動雷鳴秘孔剣

1音目で今回のツアーコンセプトが和風であることを再認識させられた楽曲でした。
冒頭部分の鈴に似たような音が、ここではないどこか知らない場所に誘うような手招きにも聞こえて一気に世界観へ惹き込まれます。

OP曲ということもありどこか余韻を残したような、これから始まるライブへの期待を高めるようなメロディーはきっくんさんの情緒ある繊細な音楽らしいな、と感じました。
2:13~ ライブパフォーマンスで言うとあろまさんとえおえおさんが扇子に持ち替えるあたりの、ストリングスのような音が引き立っていて怪しげな雰囲気を滲ませているところが好きです。

そして最後にもう一度ギターの主旋律へと戻りゆっくりと曲の終わりに向かっていくところ、この切ない響きが胸に残る感覚はライブのOPだけではなく一つの楽曲としての充足感でもあり完成された美しさだなあと感じました。

二、妖道中膝栗毛

(前略)声出しができていたらさらに盛り上がったんじゃないのかなと。(中略)今後はどうなるのか。まずはアルバムで聴いてもらうのもいいんじゃないでしょうか」

CDでーた 2023 上

そう語っていらっしゃった理由がようやく判明しましたね。
ライブ中わっしょいを一緒に声出し出来たら楽しいだろうな、とは考えていましたが、ほぼ曲中通してコールがあるのは予想だにしていませんでした。
そして、日本語の美しさを改めて実感する歌詞にも感嘆のため息が漏れます。

ゆら~らさ~らら

妖道中膝栗毛/蒼翠炎雷

よぉーーーーー!!

妖道中膝栗毛/蒼翠炎雷

この部分、文字で書き起こされているのを見ると人間の世界に慣れていないやや幼っぽい妖怪らしくも感じて好きだな、と思いました。

みをつくすほどに 待ちわびた
嗚呼人知れぬ さざめごと

妖道中膝栗毛/蒼翠炎雷

ひらがな表記なことで必死そうな感情が伝わり、その後の歌詞と相まって妖艶な雰囲気を漂わせているのが、楽しいだけではない「人ならざるもの」であることを想像させて思わずどきりとしてしまいます。

思ひ分くは 往くも往かぬも
どちらも汝がまにまに

妖道中膝栗毛/蒼翠炎雷

契りを交わそうとお手も拝借するのに最終的な判断はあなたの思うままにと歌うのは、いじらしさなのか余裕からくるものなのか。

全体的な明るい曲調の中に落とし込まれた歌詞の奥ゆかしさが、
楽しいと妖しいの入り交じるまさに「妖道中」な楽曲だと感じました。

これは今後のライブ定番曲になっていく可能性を大いに秘めた曲なのではないでしょうか。少なくともコールありでまた聴きたい。

三、Arrival of Fear 蒼翠炎雷 ver.

個人的にオリジナル版が収録されている『M.S.S.Party』を手にする前にPUF円盤で拝聴して一聴き惚れしたほどの楽曲なので今ツアーで聴けたことが嬉しかった記憶。

和楽器と混ざり合うことで一層存在感を放つ重厚なギターの音色はおどろおどろしくもあり、赤と黒の似合うゴシックな雰囲気が漆黒の堕天使的中二病を思わせます。
サビ部分の疾走感あるメロディーに乗せたハモリの高音が空間の広がりを感じさせ、和風アレンジになっただけではない今だからこそのクオリティにまた心を奪われてしまう。

悪魔と天使の声が変わらずに入っていたことも嬉しい。儚く中性的なオリジナル版と比べるとハッキリと発音しており、妖しいから怪しいへの変貌を聴き比べるのも楽しいです。
ラストの畳み掛けるようなアレンジ、特にラストのロングトーンで抜けていくのではなく、もう一度声が強くなるところが一等好き。

四、ALL IN MY HEART 蒼翠炎雷 ver.

これ、記憶違いだったらとても恥ずかしいだけなのですが、メロディーがライブ版の尺八のような音色からシンセサイザー味が強くなっており印象が変わったな、と。

2:13〜 裏でなっているピアノの音が煌びやかでCOD実況のテーマとして作られた楽曲の全体的に冷たい金属のような空気の中、凛とした気高さを感じさせます。
オリジナル版が戦場の風景なら今回のアレンジ版は戦士の心情をなぞるような、そんな印象に感じました。

1stアルバムの収録曲ながら、形を変えてまた違う色を見せてくれることで進化し続けていく活動の軌跡に触れられることがアレンジver.の魅力の一つだなあと思います。

五、Ein

(前略)歌詞が”和”でなくなることはメンバーに相談しましたが、『別にいいんじゃないの?』と。基本的にうちはそんな感じです(笑)」

CDでーた 2023 上

和風コンセプトアルバムの中で異彩を放つ、北欧神話がモチーフの一曲。
製作にあたってメンバーに相談したとCDでーたで語られていましたが、いつも通りな彼らの返答と、だからこそ生まれたのだろうこの曲が好きです。

eoheohさんが制作に携わっている楽曲にしばしば登場するメロディアスなギターパートが好きなのですが、今回も冒頭で戦いの世界観を表現するような、寂れたように歪む旋律があって嬉しく思いました。きっくんさん泣きのギターがとても映えるなあ、と。

パート分けが細かくソロ歌唱にそれぞれ個性があって、そこから4人が揃った時の盛り上がりやハモりが重厚な曲調の中での緩急となり、この曲を印象付けていると感じました。

終焉の笛の音が高らかに 鳴り響いたとて

Ein/蒼翠炎雷

『鳴り響いたとて』で一気に音圧が高まるところは何度聴いても鳥肌が立つほどです。

誇り高き天空の勇者

Ein/蒼翠炎雷

また、タイトルの由来でもあるエインヘルヤルは「死せる戦士たち」とも呼ばれるようですが、それを『天空(そら)』と表現しているのかな、と思いました。

六、KIKKUNのテーマ

一年の時を経て、ライブ会場に戻ってきて下さったこの楽曲。
祭囃子のような太鼓の音が賑やかさを増しており、きらきらと明るいきっくんさんの魅力が存分に引き出されたアレンジだと感じました。

きっくんさんの象徴の一つであるギターをメインに据えたまま、細かな装飾音に和楽器を使うことで華やかな宴のような印象を受けます。どこか神々しさも感じつつポップなテイストなのが「KIKKUNのテーマ」らしいなあと。
1:10〜 チューニングをするような、音で遊んでいるようなところが好き。裏で鳴っている音数の多さが聴いているだけでも楽しげで飽きを感じさせない。

改めて、この曲をを疑いもせずKIKKUNのテーマだと思っているけれど元は没予定だったなんて考えられないなあとしみじみ思ってしまう。
いつまでも愛される曲であってほしい、なんて思うまでもないのでしょうけど。コールがしたいなあ。

七、TOKISHIRAZU

これはただの再生環境によるものだったと思うのですが最初にノイズが走っている?と思っていたところ、本当に通信が途切れるような音声加工があったのでつい驚いてしまった。

チップチューンテイストの、ストーリー性を感じさせるこの楽曲。
会場で聞き取っていた歌詞と大きな相違はありませんでしたので、答え合わせをするように文字をなぞっていたところ、ふと目に止まる言葉が。

僕は二度と“ここ”にかえれない

TOKISHIRAZU/蒼翠炎雷

思えば、今回はどこか具体性のある歌詞が多いな、と感じていました。

僕は二度と君と会えないと
分かってたはずなのに 涙が止まらないよ

TOKISHIRAZU/蒼翠炎雷

「君”と”会えない」という表現は「二度と」と韻を踏んでいるだけではなく「君」という単語を強調しているように思います。
「君”に”会えない」とするより君と会うことができない、という事実を鮮明に突きつけているような印象になるな、と。

つまり「“ここ”」にも明確な場所が存在しているのだろうということが考えられます。飛び去る前の星、という大きな意味ではなく例えば「君」が居る具体的な場所。そこに「かえれない」。
帰る、還る、孵る。魚としてのトキシラズは鮭の一種なので遡河回遊魚です。本来は秋にロシアへと遡河するものを春から夏にかけて北海道で捕獲する、時期を知らずして捕れるので「時不知」と呼ばれている、そんな魚の名前を由来に持つ宇宙船「TOKISHIRAZU」。

会えないと分かっていたのに涙が止まらない。これまでの宇宙曲に出てくる「僕」と比べて幼い印象であることもやはり意味があるのでしょうか。

様々な解釈が出来そうで、こちらに関しては改めて考えたいなと思います。

八、雹

ややゆったりとした始まりから曲の後半にかけて段々と音色が増えていく様が、降り始めた雹の強さが増していくような風景を想像させます。過去の楽曲を例に挙げると「Time clash」に近いような静と動の対比が印象的な曲に感じました。

雹というタイトルの通り澄んだ高音のシンセサイザーが涼しげで、目を閉じながら聴いていると暑さも忘れられそうな気がします。
2:37〜 骨を軋ませるように強く響くベースラインが、激しくなっていく雹に体を打たれる感覚にも似ている。この曲の終わり際に一番の盛り上がりを持ってきて、静かに音が消えていくところがFBさんの作る音楽らしいなあ、と思います。

インストは基本的にストック曲とのこと、こんな素敵な曲が他にも眠っていると思うともっと聴きたいという欲が出てきてしまう。

九、ばぁすとSAMURAI

「Wish~この場所で~」以来のきっくんさんソロ曲、ずっと待ち続けていたのでCD初収録の新曲として5/5にお披露目があったときからフルで聴ける日を心待ちにしていました。

2番サビ後の哀愁を感じるギターからCメロ、一拍置いての落ちサビという曲展開は、ご自身で「アニメのOP」と例えていらっしゃったようにJ-POPらしさを感じてきっくんさんの新しい音楽性に触れた感覚があります。
その中でも後述のきっくんさんのお好きなジャンルの要素も感じられるのが好きです。全体的に重たい、耳馴染みは良いけれど明るすぎず翳りを感じるところがらしいな、と。
時折見せる揺らぎの旋律が力強い楽曲の中ふと儚さを演出していて耳から離れなくなります。

「RISE」の高音からの歪み、吠えるような歌声に心臓ごと打ち抜かれてしまう。これはライブで演奏される日が待ち遠しいですね。

十、パン工場の秘密

プログレメタルとジェントを組み合わせた曲とのこと、プログレメタルがプログレッシブ・ロックとヘヴィメタルの要素を取り入れたサウンドで、ジェントはそのプログレメタルから更に派生したものであり、きっくんさんの音楽の原点を感じさせる楽曲だと思いました。

これまではポップス寄りの曲調が多いイメージでしたが、あろまさんとeoheohさんが楽曲製作に携わる機会が増えたことで、こういった楽曲を作るに至れたのかな、と考えてみたり。

集大成、と語る通り1分1秒一切の妥協を感じさせず、どのパートもサビのような迫力があり聴く側としてもつい身構えてしまうほどです。そんな張り詰めた空気に身体が痺れるような格好良い楽曲ではありますが、ライブパフォーマンスのことを思い返してつい頬が緩んでしまう。
そんなところが「パン工場の秘密」というタイトルのギャップにも通じてまたきっくんさんらしいなあ、と思います。

十一、蒼翠炎雷

今回の表題曲、とても優しい歌だと思いました。
私の過去のnoteで大変恐縮なのですが、今回の「蒼翠炎雷」に感じたことと繋がる部分もあるため下記にリンクを貼らせて頂きます。

Phantasia以降の表題曲はMSSPからファンに向けて寄り添ってくれたり、背中を押してくれたりする曲という印象を強く感じていました。
(略)
そういった部分からも歌詞に出てくる「君」は応援してくれるファンのことを表してくださっていると考えられ、それはこのCOSMOSでも同じだと思います。

前回ツアーの表題曲である「COSMOS」では、4人のこれからを歌った決意表明に近いものを感じていました。

しかし、今回の「蒼翠炎雷」では再び「君」という表現が多用され、そしてその存在がとても強いことが印象に残っています。

時を超えても色褪せぬ
永遠を走る君は

蒼翠炎雷/蒼翠炎雷

例えと常闇に落ちても
そう君は涙を見せず

蒼翠炎雷/蒼翠炎雷

これは私個人が勝手に思っていることですが4人が「君」に向けて歌ってくださること、FBさんが生み出したこの楽曲そのものが音楽ライブにおける最大限のファンサービスだと考えています。その中で、これまでのような導く存在だけではなくなったことが、一種の信頼のようにも感じて嬉しく思いました。

そして、反対に僕は問いかけます。

煌めく季節が流れ行く
ねぇ僕はそこに居るかな?

蒼翠炎雷/蒼翠炎雷

先を走る君と、少し立ち止まって考える僕。
今までよりも近いところを一緒に走っているような気がして、双方が手探りで進んできたこの一年を表しているようにも感じました。

天下無双の声はずっと届いています。
それに比べたら1/3、いや1/10にも満たないかもしれません。それでも、

「宇宙を翔ける」

彼らへ応援の気持ちが伝わりますように。

十二、無駄トーク

Oh yeah……クロスフェードでも聞いていたけれど、江戸時代編で始まってから真っ先に飛び出てくる言葉としてあまりにもインパクトが強すぎました。
その後の手に汗握る展開の言葉リレーと、手を揚げる、が少し上手いなと感じてしまってまたダメだった。
今回割としっかり楽曲についても語って下さったので、そこも嬉しく思いました。


まだまだ拾い切れてない魅力があるとは思いますが、ひとまずの記録として。限定版の発売も楽しみです!