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「西垣匠」という沼

オタク体質がゆえに、一度ハマると生活に支障をきたす程になってしまうので、ここ数年は沼落ちしないように細心の注意を払ってきました。どの作品を観ても、どの役者さんを見ても、一定の距離を保ってきました。ところが、この夏、思いがけず沼に突き落とされました。「西垣匠」という沼に。

西垣匠くんのお芝居を初めて見たのは「ドラゴン桜2」でした。勿論、ストーリーの中心はメインの生徒7人ですが、その周りをウロチョロする、前作にはなかった役回りのヤンキー二人組が面白いポジションだなと、メインとは別のマスコット的な人気になるかもねと思いながら見ていました。その時は、匠くんの名前も知らず、段々と出演時間が増えてきた頃、たまたまネットの記事で「ミスター慶應のイケメン俳優」というのを見て、へぇ、なかなかの経歴なのに坊主頭にまでして、思い切りがいいんだなくらいに思っていました。

次に見たのは「消えた初恋
正直、委員長があのヤンキーくんだとは気づきませんでした。暑苦しいキャラが目につきましたが、周囲のトーンとはひとりだけ異なる(ちょっと浮かせる)お芝居を求められる委員長役は、エネルギーの必要な役どころだけど、頑張ってるな、大変だなと思って見ていました。後で、ヤンキーくんだと知って、驚きました。

その後の「鹿楓堂よついろ日和
これも委員長をやってた俳優さんだとは最初は思ってなくて、途中で知りました。自分では気づかなかった。名前もまだ覚えてなかった。千利くん回も見てましたが、印象としては、「シナリオを正しく解釈して、正解の感情をその通りに乗せている」という感じでした。かわいくて、一生懸命。最近よく見かけるな、頑張ってるなぐらいの印象しかありませんでした。


そして、
みなと商事コインランドリー

ちぇりまほの六角くんと消えた初恋の委員長でBLやるのか、ふーん、メインビジュアルかわいいけど、でもテレ東見られないし、まぁBSでやったら観たらいいかな…くらいに考えていました。

たまたま、TVerで1話を観たときの衝撃……忘れられません。何だこのカワイイ作品は。この二人は。そして、西垣匠という役者さんは。

ドラゴン桜も、消えた初恋も、鹿楓堂も見ていたのに、その存在を、ポテンシャルを、見逃していた自分に愕然としました。

みなしょー1話終盤の「だったらたけぇな」「ムカつく」からセリフを捲し立てる一連の演技で、一気に沼に突き落とされました。何だ、この子は?本当にあの子と同じ役者さんなのか?あまりにも違う。シナリオを正しく解釈して…とか、そういうんじゃない。外から乗せてるんじゃなくて、内側に入ってる。この短期間での進化の急角度に目を瞠りました。

こういった所謂BL作品の成功条件の1つに、相手役がストーリーが進むに連れて美しく変化していくことがあると思っています。外面だけでなく、内から輝くような変化。おっさんずラブの牧くんのような。西垣匠くんの香月慎太郎も、勿論最初から可愛かったですが、回が進むに連れて「どんどんキレイになっていくな、いいな」と思いながら見ていましたが、6話のおまじないのシーンであまりの美しさに度肝を抜かれました。この人はどこまで行ってしまうのか?これはとんでもない作品に出会ってしまったと確信しました。

そして7話。10年分の想いの告白。そのシーン自体も素晴らしかったですが、それ以上に、7話の告白を踏まえて1話の出会いのシーンを見ると、ちゃんとその意味合いが含まれていること。1話初見時に「洗濯機が動かないだけにしては、何か複雑な表情だな…」と僅かに違和感を与えていたものを見事に回収してくれました。「酒のツマミ頼むな」と頭を撫でられるシーンも「何だかやけに子供っぽい表情だな」と初見で感じていた理由が、この告白で腑に落ちました。1話の時点でしっかりとフックを仕掛けてあり、ちゃんとそれを回収できていること。1話単独でも成立させながら、7話を知ったあとにそれを見ると、新たな意味を持たせてもちゃんと成立していること。キャリア2年目、こんな大きな役どころは初めての役者さんが、そんなハイレベルなお芝居を演ってのけたことに衝撃を受けました。

それまで輝きを増し続けてきたシンくんが、8話での展開を経て10話まで、その光を消してしまったのも見事でした。そんな出し引きもできるのか、このキャリアで。

そして、最終回ラストシーン。あの素晴らしいラストシーンで、観る人みんなが「香月慎太郎らしいな」と涙したあの一言が、まさかのアドリブだと知った衝撃。あのとき、正真正銘、全身全霊、心の底から香月慎太郎だったのですね。


ずっと見逃していた西垣匠という役者さんに出会い直しができた、間違いなくそのスタートとなった「みなと商事コインランドリー」は絶対に忘れられない作品です。
西垣匠くん、これ以上ないほど素晴らしい香月慎太郎を生きてくれて、本当にありがとうございました。

BL作品は、成功すればかなりのビッグチャンスに繋がります。オーディションで掴んだ「香月慎太郎」という役を通して、西垣匠くんは役以上の、作品の枠を超えた大きなものを自らの力で掴んだのだと思います。

「イケメン俳優」というだけでなく、その枠を超えた進化の過程に、間違いなく心を掴まれました。役者さんを役者さんで例えるのは失礼ですが、西垣匠という役者さんは、「憑依型演技力おばけ」である林遣都さんのようになれるポテンシャルに溢れていると思っています。これから、どこまで進化して行くのか、その過程を追いかけ続けるのが本当に楽しみです。