東海大学自然史博物館

2020年2月19日。
仕事が終わるとバスタ新宿から高速バスに飛び乗り、私は静岡を目指した。
葛生化石館の学芸員に一度は行くべきだと熱心に説かれた、東海大学自然史博物館に行く為だ。
静岡駅の目の前に快活クラブがある事を知っていた私は、密かにこういった旅の拠点を影で増やしていた。ホテルに泊まるより格安で済むし、シャワーやランドリーもある。
そもそもおっさんの一人旅だ。使わない手は無いだろう👍

移動費と宿泊費、ついでに朝食も合わせて1万円以内で抑えた私は清水駅を目指した。安い水上バスが出ているのを事前に知っていたからだ。
ただし罠が一つだけある。それは券売機が帰りの港には無い事だ。なので事前にここで2枚買わなければ、帰りはタクシーかバスでかなり遠回りになってしまう。時間もかかるし高くつく。
なのでキッチリ復路分も買って乗り込み、清水港を眺めつつ博物館へ向かった。
当然寒かったが、波は穏やかだ。これなら帰りも安全に乗れるだろう☺️

博物館は思っていたよりも小さな建物だったが、すぐ隣に東海大学海洋科学水族館もあった。両方回って楽しんで欲しいということなのだろう。
両方回れるチケットを購入し、先ずは水族館から攻略を始めた。
水族館にある巨大なリュウグウノツカイの標本やシロワニの迫力は圧倒的だったし、珍しい魚達も写真に撮ることも出来た。出口には超巨大なおひょうの標本もあった。
予想以上の内容に満足してしまい、思わずそのまま帰りそうにもなったくらいである。

しかし本番はここからだ。ホールに向かうといつもの巨大な面々が出迎えてくれた。竜脚類のディプロドクスまでいたのは驚いたものである。

素晴らしい光景だ。しかし他の博物館のようなマニア心を煽る古生物はいないものか?
辺りを探してみると、待ってましたとばかりにアナトティタンがいたので紹介しよう。

アナトティタン(巨大な鴨)は所謂カモノハシ恐竜の一種だ。この恐竜は名前が何度も変わっていった事で有名なのだ。
まず最初にこの生物はトラコドン(荒々しい歯)と命名され、半水棲の恐竜と予想されていた。足に水掻きらしきものがある事、尻尾が縦に平たくオールとした使われていたという仮説からである。
ところが研究が進むと、水掻きは肉球のような器官(ラクダの足の裏みたいなもの)が干からびて緩んだ物だった事、尻尾は水泳には適さない事が判明し、陸生説が強くなった。
最終的にトラコドンは、エドモントサウルスのシノニム(特定個体の愛称・渾名のようなもの)に過ぎないという結論が出され、名称が破棄・統合される運びとなる。しかしその中にエドモントサウルスの特徴に無いものが2種いたのだ。
これこそがアナトティタンである。もう一種はアナトサウルスとされた。
しかしアナトサウルスもまた、エドモントサウルスとアナトティタンの骨が混ざった合成獣である事が判明。これも名称が破棄されたのである。

さて、勘の鋭い読者なら予想した事だろう。アナトティタンと名乗っているが、こいつも実はエドモントサウルスなのでは?という事を。
その通りである。
骨が長年の圧力で変形しただけで、アナトティタンはエドモントサウルスのシノニムである事が判明したのだ。つまりコレはエドモントサウルスであり、本来そう表記するのが正しい。
少なくとも今のところは。
しかし勘が鈍く無知な私はその事に全く気づけず、新しいコレクションとして満足しながらTwitterに載せていましたとさ🤣

マニア心を燻られたのでつい長文になってしまった。いやぁ申し訳ない😅
次はゴンフォテリウム(左側)だ。
新生代・中新世を生きた体長4m程のゾウの一種である。だが彼の牙を見てほしい。マンモスや現代の象とは違い、上下についているのが分かるだろうか?上部の牙は威嚇用、下の牙は植物を掘り起こす為に使われたらしい。
そして彼は残念ながら、歯の生え変わる機能が未熟だった。餌を大量に食べる象にとって、これは好ましくは無い。すり減った歯では大量の草を噛み砕けないからである。
結果的に歯がより進化した象に生存競争で敗れ、絶滅したとのことだ。
とはいえゴンフォテリウムは象の進化の過程において、丁度中心を位置する存在だ。彼から様々な象が生まれていったのは事実である。

孔子鳥。
始祖鳥よりも現生の鳥類(新鳥類とも書かれるが正確には今鳥亜綱という)に近いものの、まだまだ原始的な鳥。50cmほど。
鳥類の進化・分類の話は非常に難解でややこしい。なので読者の皆さんは「古鳥類」と「真鳥類」という二つの言葉だけ覚えれば、大体何とかなると思って欲しい。
良い機会なのでそれも少し書こうと思う。
孔子鳥はジュラ紀後期〜白亜紀を生きた古鳥類だ。古鳥類とはその名の通り古い種の鳥のような生物を指す単語で、そう聞くと始祖鳥を思いつく人も多いことだろう。

しかし孔子鳥は始祖鳥よりも進化した、より鳥らしい生物である。嘴から歯が消失しているし、尾も短縮した。更に羽毛もびっしり生えていたことも判明している。
一方で骨格が原始的で羽ばたく事が出来ず、翼に鉤爪がある事は始祖鳥と同じである。
始祖鳥も孔子鳥も今生きる鳥達の直系先祖では無いが、いつかは全ての鳥類の真の先祖も判明するかもしれない。
古鳥類は後により進化しつつも伝統的なスタイルを持つ、エナンティオルニス類を生み出し繁栄した。一方で白亜紀には真鳥類という更に進化した鳥類も台頭し始め、白亜紀は世界中に鳥が飛び回る時代となった。そして大絶滅を経て、現生鳥類だけが生き残る事になるのである。

白亜紀に現生鳥類の祖先たちがいた事は解明済みだ。例えばこのカモ目とキジ目の特徴を持つアステリオルニスは、白亜紀にいた事が既に判明している。アステリオルニスは一言で言うと、飛べるニワトリのような鳥類であった。

実に楽しい時間を過ごし帰りの船に乗ったが、やはり思っていたよりすぐ回れてしまったので時間が余ってしまった。
このまま帰るのも勿体ないので、降りた港に近い宮本商店という食堂でダブル穴子天丼をかき込み、そのまま沼津へと向かった。
深海魚水族館の冷凍シーラカンス見る為だったのだが、水族館の話を書くと終わらなくなるのでまたの機会に☺️
沼津でもやはり濃厚で楽しい時間を堪能し、これで東海地方の化石も見終わったかな、と大満足して帰路に着いた。しかし帰りの電車でそれは大きな間違いだった事を知ってしまった。
実は東海地方にはもう一つ、更に巨大な自然史博物館があったからである🤣

最後に追記させて頂く。
東海大学自然史博物館は、2023年3月で老朽化のため水族館と共に閉館する事が決定している。
もし興味がある方がいたら、それまでに是非一度足を運んで見てほしい。
楽しい時間を過ごせる事は間違い無いだろう☺️

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