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俳句・短歌 講評

当日紹介できなかったものを一部紹介します。

基本的に表現したいものがある程度固まっていて、それが素直に表現できているものを高めに評価しています。

突飛なフレーズを入れてもしょうがないので、分からないなりに真面目に講評しました。


13午後6時のサイレン 蝉時雨

 午後6時になったら『遠き山に日が落ちて』が流れる要領で、セミが一斉に鳴きだして、帰る時間を想起させるみたいな意味でとりました。

 実際問題として、私はセミが急に鳴いたとて帰りたくなったりはしませんが、本人はセミの鳴き声にノスタルジーを感じ、そのノスタルジーの感覚を誰もが懐かしさを覚えるでおなじみの『遠き山に日が落ちて』に重ね合わせたのだと思います。

 意外性もあって、個人的にはとても良い句だと思いました。添削はありません。


14走り梅雨 会えない誰かを 歌にする

 「走り梅雨」がなんなのか分からなかったので調べたところ、梅雨の前の時期のぐずついた天候のことを言うそうです。

 特徴的なのは、「あなた」ではなく、不特定多数の対象「誰か」が使われているところにあると思います。

 恋する人と会えないことの辛さではなく、天気が悪いせいで、とうぶんの間人に会うことができないことの心寂しさを歌った点は新鮮でした。

「詩」でなく「歌」が使われていたので、私は、雨の日自室に胡座をかいてギターで弾き語りをしている場面を思い浮かべました。

梅雨が明けると、「誰かに向けた歌」はどこへ届くのでしょうか。その「誰か」が特定の「あなた」に変わっているとすれば、それはきっと楽しいことでしょうね。

 これも添削なしです。

※誤字との報告があったので一部修正しました。


15四畳半 梅酒の香りと 風鈴の音

 今時四畳半のアパートなど中々ないので嘘松感がでています。

 森見登美彦リスペクトでしょうか。

 景物を詠み合わせただけであまり面白みはないようにもみえますが、四畳半に住むようなおそらく経済的に荒んだ生活の主に、風鈴の音を楽しむような余裕があるという点がいいですね。

 ただ、梅酒の香りというのがナヨナヨしていて個人的に嫌いです。気取りはするもの貧弱な精神性が見え隠れしているような気がします。『四畳半神話大系』の主人公みたい。

 とはいっても、それ込みで味だと感じたので添削はありません。


16燃ゆ日々に 殺意を抱いて 川は流れる

 燃えるように暑い日々は、流れる川さえも殺意を覚えるというような句です。

 着眼点はよかったと思いますが、そこからもう一歩踏み込んでほしかったですね。

 「アツくて川がキレた」ことの説明に終始しきっているのが少し残念でした。

 「小川燃ゆ 殺意は続く どこまでも

 少しニュアンスを変えて、たとえ小川の水は暑さで干上がってしまっても、暑さに対するフラストレーションそのものは永遠に消えないぞという形に組んでみました。

 解釈の幅を限定するために「干ゆ」にするかは好みかもしれません。


17月宿る 夏の夜はまだ酔いながら

 素直にとると、「月宿る」が「器に注いだお酒に月影が映りこんだ」場面を詠んでいるのでしょうか。古来から詠みこまれてきた題材だけあって、ベタといえばベタですが、リズム感があっていいと思います。

 難点としては、「月」は「雪月花」という言葉があるくらいには秋の季語として有名なので、夏と合わせると若干角がたつかなというところ。

 「秋(月)はもう迫っているけれど、私はまだ夏の夜に酔いしれていたいの」という表現の方向性を意図されてのこととだと思います。もう少しその点を強調すれば、すっきり伝わりやすくなるのではないでしょうか。

 かといって元の句も綺麗にまとまっているので、

 「月宿り来(く) 夏の夜はまだ酔いながら」と「来」の一文字を入れることで、字余りにはなりますが、月のせいで後半の句が少し押し出されている感じが秋の到来を思わせる作りにならないかな、、、と考えてみたり。


18高速で 友情崩壊 夏のバス

 何が原因で友情崩壊したのか書いてほしいですね。

 「暴露大会 悪意に揺れる 夏のバス」こういう感じでしょうか。

 「高速」は正直「夏のバス」があるので全体のバランスを取れば、ある程度省ける情報だと考えました。

 具体的な場面を詠みこめるとさらに良くなると思います。


19お酒飲んだ 飲まなくても良かった ブルーシートは 肴にならない

 お酒を飲んで言語野が弱くなった時に詠んだ句でしょうか。それを言い訳にしてそうなのも若干癪ですが。。。

 四部構成で珍しいですがぴったり31文字で短歌ですね。

 気になったのは「ブルーシートは 肴にならない」の部分。ブルーシートが肴にならないのは当たり前なので、句にする理由が通例ありません。

 とすると、解釈としては「ブルーシートに一人座って飲むのはつまらないので、お酒なんて飲まなければよかった」という形になるでしょうか。

 ただ、実際に使われているのは「飲まなくても良かった」という表現で、「飲んだことへの強い後悔」というのは見えませんでした。

 これを勘案して、

「ブルーシート泳ぐ肴とにらめっこ飲まなくてもよかった別に」

 これである程度ブルーシートに奥行きを出すことができたでしょうか?


20体が溶けるほど暑い夏にオールナイトコンパ一人110円

 「110円」というのが私にはよく分からなかったのですが、おそらく「コンビニで買った税込110円の安酒」を指しているとみていいのでしょうか。

 あまり110円と聞いて想像つくのがそれぐらいで、全然違ったらごめんなさい。

 「クソ暑い夏はキンキンに冷えた安酒をみんなで飲み明かそうぜ!」みたいな意味ですかね。「酒缶は持ったか?!」というセリフが聞こえてくるような、ワイワイ感があって素敵な句だと思います。

 添削の余地を強いてあげるとすれば、「体が溶けるほど暑い」が説明的すぎるので、
「帰りは冷めやらぬ国道を歩いて オールナイトコンパ一人110円」

 安酒を買うような大学生、帰りの電車賃など残しているはずもなく、というのも併せて整えてみました。文字数は元が33文字だったので無視しました。

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