フロレンティア18 フィレンツェ 帰宅

深夜、ようやくアパルタメントに戻った俺を待っていたのは、やはりミケーレだった。
「おう、タクーヤ 心配したぞ。どうしたんだ?」

『ミケーレ ゴメン、すぐ帰ってこれなくて スイスでさ あの&*op#@+* ピカッ・・』
カミナリという単語がイタリア語ででない。日本語の『ピカッ ゴロゴロゴロ~』という擬音語や体を使ったジェスチャーで一生懸命説明するもわかってもらえず苦労していると、「クックック」と後ろから笑いを殺した声が聞こえた。
振り返るとアンドゥがニコニコした顔で立っている。
そして彼は俺と目が合うと『Flash & Thunder~』だろ?
と俺のとったジェスチャーをおどけながら繰り返し、カミナリを英語で言い当ててくれた。

『!そ、それ フラッシュ アンド サンダー いや、まあ とにかく 大変だったんだ。全然寝てない 疲れたよ』
俺はどかっと腰をおろした。

「そうか、俺も今日は疲れたんだ。。お休み」とニコニコしながら俺の肩を叩きアンドゥは自分の部屋に戻っていく。
その時俺はアンドゥも俺の事 とても心配してくれていたに違いないと感じ取った。


俺は結局、パスポートに何もスタンプを貰えずに帰ってきてしまった事。
今日がちょうどパスポートが再発行されてから3ヶ月経った日である事。
ルガーノの警察官に滞在許可書をもらいに警察署に行きなさいと言われた事。
等、ミケーレに話した。
ミケーレは心配そうな顔をして俺のつたないイタリア語を聞いてくれた。
「今日は疲れたろうから早くシャワー浴びて、寝た方がいい」
『ああ、そうするよ』
俺はぬるいシャワーを浴び、すぐに自分のベッドにもぐり込んだ。
もちろん熟睡するのに時間はかからなかった。


そして次の日の朝、俺は起きると学校に行かずに警察署まで歩いていった。どこか窓口はないかとパスポートを持ってうろうろしていたら背後から声をかけられた。

「何か用ですか」
声をかけてきたのは30代だろうか、女性警官だった。
『ええ、私は日本人です。滞在許可書が欲しいのですがどうしたらいいでしょうか?』そう言いながら身分証明書代わりにパスポートを見せた。
彼女はパスポートを受け取り中を見る。
俺には彼女の顔色が変わった気がした。
「ビザは?」
『え、ああ』
「働いてるの?」
『ハ、いえ、語学学校に通っています』
「学生ビザは」
『あ、それがですね イタリアに着いた日に荷物ごとパスポート盗まれてしまいまして無くなりました。』

「NO」
『いえ、ちゃんと学生ビザ持っていたんですがパスポート盗まれ・・』
「NO」

この女性が少しヒステリックに見えた。大阪の総領事館の事務員を彷彿させる。あの時を思い出している自分がいる。彼女を恐れている自分がいる。『どうしよう くるんじゃなかった。このまま逃げ出したい』

「明日10時にここに来なさい」
『え?日本に帰国しなければならないのですか?』
俺は強制送還を頭で思い浮かべていた。
「・・・」
彼女は何も答えない。
「パスポートコピーしますので、少し待つように」
彼女は奥に消えていった。

これ以上ない不安に襲われ、俺は心底震えた。

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