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京極夏彦×納涼歌舞伎

原作・脚本を京極夏彦の新作歌舞伎「狐花 葉不見冥府路行」を観た。
ストーリーはおもしろいし、役者はそれぞれハマっていたし、それぞれに見せ所がある。
まだ始まって1週間経っていないので、これからもっと熟れてよくなると思う。
よくなってほしい、一番は中禅寺のセリフ。
中禅寺難しいと思う。主役なのに、こういう口舌の人って他の芝居にないと思う。敵役の勘九郎はこれをやれるなら、アレもコレもみたいな連想ができるが、中禅寺洲斎は…思い浮かばない。
新作モノの「陰陽師」の晴明や「幻想神空海」の空海が近いが、彼らにあったユーモラスなところは中禅寺には少ない。
ただ先に出た原作を読んで、この役は幸四郎だと思っていた。この世の悲しさを知り命を愛おしみ、情は深くても流されず、理を通し見極めがいい。
中禅寺は言葉だけで物事に向き合っていく。
最大の見所は終幕の上月監物(勘九郎)との対決だ。頑なに自分のしてきた悪事を開き直る監物から魔物を落とさねばならない。
そこは決まってたと思う。
後半もっと中禅寺のスタイルが定まって、語り倒す調子になってほしいと思う。

己の利と欲を満たすために他者を蹂躙して、そのことに良心の痛みを持つことをしない。そういう人間への静かな怒りを感じた。
そして悲しみも。

背景に「巷説百物語」シリーズがある。
老中首座水野の時代のこと、15000両の会計が合わなくなった藩のこと、幕末のかなりバタバタした時代の話であること。

中禅寺はもう髪は断髪だ。
明治は近い。

音楽・音響が私の思う京極ワールドとはちょっと違っていたが、それは私の好みの問題なので仕方がない。
2階で観たのだがセリフより音響が響くのが残念だった。スピード感は出るけど不気味さが減る気がする。

七之助の謎の美青年は素晴らしかった。
この人の健気で儚い場面のセリフの可憐さったら、毎回心に深く残る。
染五郎はときに若き日の祖父・白鸚、ときに叔母の松たか子を彷彿とさせた。
けっこう実年齢より上の年齢の役に挑んできたが、よくやってると思う。

歌舞伎は役者を見るのも楽しみだ。
そういう意味では最後に監物に殺された人たちの幽霊が花の中にいてもいいなと思った。
特に美冬と子どもたちが一緒に並んでくれたら、泣けたと思う。

京極夏彦が歌舞伎になること、
作家が新作歌舞伎の本を書いてくれること、
それは私の観たいものだった。
「憑物落とし」に対しての「化け物使い」も観てみたいものだと思う。

#八月納涼歌舞伎
#歌舞伎座
#狐花葉見冥府路行

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