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四月大歌舞伎 土手のお六と鬼門の喜兵衛

四月の夜の部は歌舞伎座では一年ぶりの仁左衛門・玉三郎の共演。

初日から千穐楽まで四回楽しんだ。

とても贅沢なことだと思うが、それぞれの年齢を考えるとあと何回こういう機会があるだろうかと思ってしまうのだった。

役者の年齢のことを言うのは無粋だけれど、仁左衛門80歳、玉三郎はこの四月で74歳である。

『於染久松色読販』はお染の七役から土手のお六を抜き出したもの。

柳島妙見での油屋番頭と嫁菜売りの一件から始まり、

回り舞台で次の場になると莨屋になってお六が登場する。

千穐楽は花道わきの席で観た。

ぐるっと莨屋が回ってくるとき、上手側の窓から玉三郎のお六だけが、手紙を読んでいる姿が現れてくる。

ここではお六は竹川に仕える女としてきちんと折り目正しく使いの者に対応している。

ただのはすっぱな姐さんではない。

ここで竹川から100両を頼まれて「あなたにも用意できないものをどうして私が」と言うところ、

お六もお六なりの忠義で大変なのだなと思う。


その後、亭主の仁左衛門扮する鬼門の喜兵衛が湯から田螺の木の芽和えを持って帰ってきたり、

非人に棺桶(餅とフグの食い合わせて倒れた油屋丁稚の久太入り)の番を頼まれたり、

嫁菜売りと髪結いが来て縫物を頼まれたり、二人の話を聴いたりする。

黙って晩酌をしながら嫁菜売りが油屋の手代を喧嘩になったいきさつを聴き、

そこで悪計を思いつく二人。

喜兵衛は喜兵衛で100両入用なわけがあるのだ。

夫婦して油屋を強請にいくことになる。

その仕掛けとして桶の中の久太を嫁菜売りに見えるよう細工をして、

喜兵衛は桶に飛び乗って胡坐をかき、お六は羽織っていたものの赤い裏を行燈にかざして決まる。

瞬きしない二人の上手上を睨む喜兵衛と、下手下へ視線を落とすお六。

薄暗いなかですさまじい気迫を感じる。

天地上下と交差した二人の視線で場内を制覇している。


場が変わって油屋店先になる。

お六が先に乗り込んで「弟を殺された」と言いがかりをつける。

そして証拠として久太を乗せた駕籠と喜兵衛を呼ぶ。

門口で「おおい、こっちの家だよぅ」と片手を振り上げるお六の口調はすっかり伝法な女になっている。

夫婦で息のあった強請を見せる場面は犯罪場面なのに可笑しい。

こんなに調子よくやられると「悪事」だということを忘れる。

結局本物の嫁菜売りが現れ、久太はお灸で息を吹き返し、二人の企みは失敗する。


「とおらないキセルだなあ」とか「あやまったのう」とか、ちぇっという感じのお六は可愛い。

喜兵衛も気まずいだろうけど、一切それを顔に出さないようにして、最後まで太々しく15両は「借りちゃあいけやせんかね」と開き直って持っていく。

そして置き去りの駕籠をお六が先棒で二人で担いで帰る。

油屋の使用人たちには笑われるが、万雷の拍手での引っ込みである。

しかしこの夫婦、それぞれに金が必要だった。
100両手に入ったら何に使うかでモメたのでは?

仁左衛門はここ数年花道を使わないことが増えた。

それが両手懐に、棒を肩に乗せるだけで玉三郎と一緒に引っ込んでいく。

二人で駕籠を担ぐ方が一人で歩くよりいいのだろう。

お六がよろけたりするのだけど、最後まで太々しくのしのしと歩いて行った。


二人の目の光の強さ。

絶妙なセリフ回しとやり取りの間合い。

細いからだから漲るエネルギー。

すでに大満足と感謝の最初の幕。

昨年は『与話情浮名横櫛』、その前が『じいさんばあさん』さらに前年が『桜姫東文章』。
2020年の四月はコロナで休場だった。
2021年も千穐楽前にコロナで休演になった。
それを超えて四月になると桜の道を劇場へ行き、仁左衛門・玉三郎を観られるようになった。
来年も期待したい。

このあと、アシェットで玉三郎七役早替りの『於染久松色読販』DVDがあるのを知った。
前半、莨屋で終ってしまう。
こりゃ、前後半買わなきゃね。
平成15年上演のもので、喜兵衛は先代の團十郎。
嫁菜売りに段四郎。
ハンカチ用意だ。

そして、これも今となっては観られないのが丁稚に隼人。
これはまう、今や歌舞伎座で主役張れるまで成長して、嬉しいばかり。
いずれは喜兵衛かな?

#四月歌舞伎座大歌舞伎
#於染久松色読販


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