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「まつりのあと」【夏の残り火~ネコミミ村まつり】

8月12日。

東京。
羽田空港。

台風で飛行機が飛ばなくなるかもというニュースを見て、他の島への取材をやめて戻ってきた2人。

喧嘩をしたわけでもない。
でも、2人は無言だった。

午後9時。
お腹が減ったけど、食欲もない。

お互い家に帰れば、何かしら食べるものはあるだろう。
でも、なぜか、帰りたいとも思わなかった。

チヨは、カメラマンのケンと、とある島への取材に行った。
ネットで誰かが書き込んでいた、あるつぶやきがチヨの好奇心をそそったのだ。

「世にも不思議な祭りがある村」がある・・・

ケンは島に着いて、改めて無計画にやってきたことを後悔した。
祭りがあるなら、まず日程を調べるべきだった。

というか、そんなことは行く前から分かってたのだが「私の勘は絶対当たる」と勝手にチヨが飛行機を手配してしまったのだった。

ただ「村には人魚の伝説がある」とも書いてあり、ならばここだろうと半ば当てずっぽうで、飛行機と船を乗り継いでやってきたのだ。
住人はみな優しかったが、こんなしなびた島で祭りなんかやってないよと笑われた。

「泊まるとこもなかろ」と家に泊まることを勧めてくれた老夫婦の世話になり、おいしい魚料理に舌鼓をうち、6畳和室に2人で雑魚寝である。

「ほら、もっと調べてから来たらよかったのに」
「いいのよ、明日また、いろいろ調べましょうよ」
「わかったよ。僕は海の写真でも撮れればいいし」
「移動だけで疲れちゃったわ。寝ましょう」

数分後にはチヨの寝息が聴こえてきた。
ケンも穏やかな海の波音に誘われるかのように、眠りに落ちたのだった。

その夜、2人は同じ夢を見た。
その夢の内容は、今更書くまでもないだろう。

そう。2人の心の中に確かに「不思議な祭り」があったのだ。

翌朝、1枚のメモが部屋に置いてあった。
「船、乗り遅れないように。お元気で」

「お腹減ったから、コンビニでちょっとお酒でも買っていかない?」
「いいよ。僕もなんか、まだ帰りたくない」

「…あ、そうだ。花火買っていこうよ」
「え…まぁいいけど」

夜になっても涼しくならない、都内の公園で2人、ベンチに腰掛けて缶チューハイを開けた。

「ほら、せっかくだし、やろ?」

もう、そんなに若くない男女2人。他に誰もいないところで、ちりちりと花火を散らす。

ほのかな光が2人の顔を照らした。
楽しくないわけではない。でも無言だった。

小1時間もして、最後の線香花火も散って、外灯だけが公園を静かに照らした。

「終わっちゃったね」
「ああ…」
「楽しかったね…」
「ああ…」

2人には分かっていた。
あの村は、心の中にあったことを。

「また…会えるかなぁ」

ケンは空を見上げた。
ペルセウス座流星群の極大日だった。流れ星が一筋、流れて消えた。

「あぁ…きっと会えるさ…」
「そうね…」

そう願わずにいられなかった。



条件から離れていますし、この文章は「グランドフィナーレ」のサイドストーリーでもありますので、イベントの抽選外としてください。
番外編ってことで。

イベントについてはこちら。

※動画:5分35秒あたりから


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