人間消失トリック分類

 本稿では、消失した人間を「消失者」、消失を成立させる証言をする者を「証人」、消失が起きた空間を「消失発生空間」、消失が起きた時間を「消失発生時間」と呼びます。

1.消失者が消失発生空間に初めからいなかった場合
 消失者が消失したと見なされるのは、消失者が初めは消失発生空間にいたという前提があるためです。そこで、消失者が実際には消失発生空間に初めからいなかったのに、何らかの手段でいたように見せることで、人間消失を起こすことができます。

●別人が消失者に化ける。
 例1……別人が変装により自身と消失者の一人二役をし、その後、自身に戻る。すると、消失者が消失したように見える。
 例2……腹話術で消失者がその場にいるように見せる。

●道具を使って、消失者がその空間にいるように見せる。
 例……人形。絵。写真。ディスプレイの映像。

●自然現象により、消失者がその空間にいるように見える。
 例……蜃気楼。風圧で閉まるドア。光に照らされた木の影。

●消失発生空間を誤認させる(二つの部屋トリック)。
 例……消失者が部屋Aに入る。次いで、部屋Aによく似ているが空っぽの部屋Bを部屋Aと証人に誤認させ、消失者が部屋Aから消失したように見せる。

2.消失者が消失発生空間に実際にいたが、消失の発見前にそこから抜け出した場合
 消失者が消失したと見なされるのは、消失者が消失発生空間から抜け出ることを不可能にする「壁」があるためです。そこで、その「壁」を何らかの手段で越えることで、人間消失を起こすことができます。
 その「壁」は、文字通りの壁の場合もありますし、足跡のない砂浜や雪景色の場合もありますし、証人の知覚(主に視覚。「誰も私の目の前を通っていない」といった証言)の場合もあります。

●消失者が別人に化けて消失発生空間から去る。
 例……消失者が別人に変装し、証人の視覚をあざむいて消失発生空間から去る。

●証人と他の人間とのあいだで、消失者についての理解に齟齬がある。
 例1……証人は、消失者Aの名前をBだと誤認している。そのため、他の人間に「Aが通らなかったか」と聞かれたとき、証人は「通っていない」と答える。
 例2……他の人間は、消失者を店の客だと勘違いしている。一方、証人は、消失者が店の従業員だと知っている。そのため、「客が通らなかったか」と聞かれたとき、証人は「通っていない」と答える。

●消失者が抜け道を通って消失発生空間から去る。
 例1……直角に開かれたドアの後ろ。
例2……特殊な身体能力を持った人間が、通常の人間が通れないサイズの穴を通る。

●消失者の通った道を消す。
 例……消失者の立ち去った足跡を、消失の発見者のものに見せる。

●消失者が道具を用いて消失発生空間から去る。
 例……ロープ。気球。梯子。

●消失発生時間を誤認させる。
 例……消失が起きたとされる時刻、消失発生空間から出る道には証人がいて、誰も目の前を通っていないと証言する。実際に消失が起きたのは別の時刻で、そのときには証人はいなかった。

●証人が嘘をついている。
※証人が、嘘をつくとは思われない人物、あるいは嘘をつく必然性がない人物であることがポイントになります。

●消失者の死体を損壊して消失発生空間から運び出す。
 例……消失者の死体をバラバラにし、人間が通れない小さな穴を通して(人間が入れない小さな容器に入れて)消失発生空間の外に出す。
※この項目は、たとえば「消失者の死体をバラバラにし、人間が通れない小さな穴を通して消失発生空間の外に出す」例の場合、「消失者が抜け道を通って消失発生空間から去る」という項目と重複するとも考えられますが、「抜け道」の項目がその抜け道の意外性にポイントがあるのに対し、「バラバラ」の項目は分割し得ないはずの人体が分割されるという意外性にポイントがあるという違いがあります。

3.消失者が消失発生空間に実際におり、消失の発見時もそこにいた場合
 消失者が消失したと見なされるのは、消失者の姿が消失発生空間にないと認識されるためです。そこで、消失者の姿を隠す、あるいは消失者の姿を別の姿に変えることで、人間消失を起こすことができます。あるいは、「姿がない」という認識そのものが錯誤であることも考えられます。

●消失者が別人に化ける。
 例……消失者が変装で自身と別人の一人二役をし、その後、別人のみになる。すると、消失者が消失したように見える。
※これは、「1.消失者が消失発生空間に初めからいなかった場合」の「別人が消失者に化ける」と原理的には同じです。違いは、別人が消失者に化けるか、消失者が別人に化けるかという点にあります。

●消失者が隠れ場所に隠れる(死亡した消失者を隠し場所に隠す)。
 例……家具やインテリア類の中。ドアの後ろ。地面の割れ目。

●消失者の死体を損壊して隠す。
 例1……消失者の死体をバラバラにし、生きた人間が入らない小さな隠し場所に隠す。
例2……消失者を食べる。
※この項目は、たとえば「消失者の死体をバラバラにし、生きた人間が入らない小さな隠し場所に隠す」例の場合、「消失者を隠し場所に隠す」という項目と重複するとも考えられますが、「隠し場所」の項目がその隠し場所の意外性にポイントがあるのに対し、「バラバラ」の項目は分割し得ないはずの人体が分割されるという意外性にポイントがあるという違いがあります。

●「姿がない」という認識そのものが錯誤
 例……証人の脳内の情報処理のミスで、消失者が見えなくなる。