売上をクリエイトする方法

売上が上がらないと頭を悩ませていませんか?

売上をクリエイトする方法について、もしくは考え方について紹介したい。今回はカレー屋の実例で。

僕は以前、東京のオフィス街でカレー屋を経営していたことがある。

先ずは、お店の環境面から。

立地は東京の中心部から少し外れたビジネス街。2番立地の1階角地。6坪。僕が借りる前は立食いそば屋だった物件だ。家賃は21万円。坪単価3.5万円。

坪単価の3.5万円は地方ではちょっと見ない高価格。でも都心では当たり前。飲食店の場合は、この家賃に敷金や礼金などが10ヶ月程度加算されるのが普通だ。飲食店の6坪はかなり狭い。しかも厨房スペースに半分使ったので、客席はカウンターに6席のみ。

工事前に設計の担当者が売上を心配して、立食い10席のプランを強く勧めてきた。でも、僕は着席にこだわった。すると担当者が今度は7席の図面を書いて持ってきた。それを僕が6席に書き直した。たったの1席しか違わない。1席増やしてどうしたいのだろうか?

「たったの10センチのピッチ差ですよ」と担当者は食い下がってきた。本気で心配してくれているのが伝わる。だけど。。。

10センチも違う。両サイドでは20センチもだ。この違いを食事中のお客様は体感で感じとる。確実に。その感覚がお店に対する満足度に反映される。

イニシャルコストについても軽く触れておきたい。飲食店開業における僕の基本的なポリシーとして、「内外装にはお金をかけない」ということがある。建物や室内の躯体を有効利用することを第一に考える。撤去時の費用がかからないのと、経験上、そうしたほうが周りの環境に馴染んで飽きないからだ。

内装には、ただひたすらに清潔さだけをもとめる。大体、白が基調となって、木と鉄をアクセントで使うくらいだ。それでも設備や内外装含めて初期投資はトータルで1000万円を超えたのには理由がある。

設備にお金をかけたからだ。弘法筆を選ばずというが、僕は設備を選ぶ。徹底的に。最適な設備はスタッフ1人に匹敵すると言っても過言ではない。おもてなしとスピードを両立するためには、最高のスタッフと共に、最高の設備が欠かせないないからだ。

次に商品面について。

メニューの構成はあくまでもシンプルに。小規模で爆発的な売上を目論むのなら、メニューの絞り込みは不可欠だ。カレーライス以外は、トッピングとサラダだけ。ザ・カレースタンド。カレーの価格は600円と700円。サラダは200円。

さて、経営数値についても少し。一般的な飲食店の理想とされる損益計算書を見てみよう。飲食店開業マニュアルには食材原価は35%・人件費30%・家賃15%と書いてある。アマチュアの人は素直にこのガイドラインに沿ってビジネスモデルを構築していく。間違いの始まりだ。

次に僕の開業時の損益計算書を見てみよう。

原材料原価は60%・人件費50%・家賃8%

その他経費などを含めると売上比で130%の経費をかけていたようだ。もちろん赤字。開業後3ヶ月はこんな感じだったが、いい流れだと思っていた。

次に3年後の損益計算書を見てみよう。

原材料原価40%・人件費35%・家賃4%

その他諸経費などを加味しても15%の利益率。これは外食産業でトップのサンマルクグループに匹敵する数字だ。これらの数値は狙って作れるものでなはなく、営業の結果として後からわかるものだ。アマチュアの人達は大事なことを忘れている。数値を作るのは経営者ではなく、お客様だということを。

このように開業マニュアルなどに書いてある経営数値は机上の空論に過ぎないことが良くわかる。上手くいっている飲食店の平均値を検証したら、大体そういう数値になっているだけのこと。その背後には大きな見落としがある。

① 上手く行くお店は全体の1割程度である。
② ①のお店の軌道に乗った後の数値である。

なので、始める前から事業計画を事細かに考えても、あまり意味がない。大枠の方向性が決まれば始めてしまう。あとはひたすらお客様を感動させることを突き詰めていけば、最後は上手くいく。それだけだ。

実際、僕が当時考えていたのも、どうやって売上をクリエイトするかだけ。幸か不幸か外食産業は消費者に非常に近い業界で誤魔化しは効かない。

そのような業界のお客様は総じて評論家であり、総じて批評家となる。少しでも機嫌を損ねると食べログやSNSなどを介して情報は瞬時に拡散する。

そして、これが大事なことなのだが、お客様の満足度が数字として反映されるのは、利益ではなく売上だといことを。経営者は売上の数字だけにこだわり続ければいいのだ。シンプルに。

人間はそんなに賢くない。2つ以上のことで他人よりも秀でることは難しい。で、僕はいつも売上のクリエイトだけを追求する。

結果の数字だけでは僕の伝えたい本質は伝わらないと思う。そこでカレー屋のふつうじゃないプロセスの数字を少し紹介したい。具体的に。

【営業時間】
始めは10時から20時迄の通し営業だった。年々営業時間は短くなり、最終的に11時から16時で落ち着いた。但し、売切れ仕舞いだったので、早いと13時半、遅くても15時には売切れていた。16時までやった記憶がない。

10時間営業だった開店当初に12万円だった売上は、4時間営業になる頃には26万円になった。売り切り仕舞いなので毎日同じ売上。客数を席数で割った、いわゆる回転率はテイクアウトを含めるとざっくり40回転になる。『 営業時間は短くなるほど売上は上がる』が僕の持論 だ。

食材のオーバーナイトもなく、カレーはいつもフレッシュ。売り切りが僕のポリシー。理由がある。飲食店の経営者として、僕の最大の関心はいつも衛生管理にある。具体的に言えば食中毒回避だ。利益でも売上でもない。利益と売上の数字などは水に流せるが、食中毒を出したらと考えると、怖くて夜も眠れない。ぶるぶる。

【人件費】
カレー屋は6坪の6席だ。そこにスタッフは常時6、7人配置。ちょっと情景を想像してみて欲しい。当時は雑誌などで高級フレンチのロオジエ並みの人員配置と笑われていた。

社員が3人でバイトが3人の体制だ。バイトは常時15人近く在籍していた。全て学生。男の子は全員が東大生で、女子は全員が御茶ノ水女子大生だった。みな優秀な上、素直。本当にいつも助けてもらった。感謝の気持ちは時給で還元した。時給1500円も珍しくなかったが、彼等の貢献度を考えたら少ない位だ。

これも一般の方にはわからないことになるが、実は、飲食店などのサービス業界は人材の確保に年中頭を悩ませている。1回10万円の募集広告を出しても、一件の問い合わせすらないことも少なくない。

学生バイトに時給1500円。は高いと思うかもしれないが、時給1000円と比べて500円の差に過ぎない。10万円あれば、優秀なバイトさんに1年間(50日勤務)、時給1500円で 気分良く働いて貰える。評価によってモチベーションの高まった彼等の主体的な接客はお客さんを惹きつけて止まないし、優秀な後輩を何人でも紹介してもらえる。類は類を呼ぶので、素直な子の友達はみな素直だ。彼らのお陰で広告費は殆ど使わずに済んだ。アルバイトの親御さんにはお歳暮を贈ったりもした。彼らがどれほど素晴らしいかを伝える手紙を添えて。

これがリアルな経営だ。数字から入る人はこの感性が育たない。そしてサービス業ではこの感性が不可欠だ。これは絶対条件となる。

【その他のこだわり】
①挨拶の徹底。
全てのお客様に『いらっしゃいませ』『ありがとうございます』をキチンと言う。

②掃除の徹底。
店の狭さを長所に。特にカウンター上とトイレはいつもピカピカに。

③おしぼり
紙製のなかでは最大で最高級のもを提供。

④福神漬け
無着色の高級なもの。食べ放題。

⑤大盛り無料。ライスだけでなくルーも。

⑥小盛り100円引

⑦国産コシヒカリを炊きたてで提供。このシステムを構築するために設備投資をした。『もっと美味しく』へのお金は惜しまない。

⑧注文毎に小鍋で調理。1食1分以内に提供できるシステムを1年かけて構築した。

『あなたのために作る一杯(おもてなし)』と『お客様を待たせない(スピード)』を両立するためなら設備投資と人件費にお金はジャブジャブ使う。もちろんアイデア創造には頭も使う。

トレードオフの解消こそが差別化の原点。つまりトレードオフを乗り越えるためのアクションが、売上をクリエイトするということなのだ。

ここに書いたことは、カレー屋の売上をクリエイトするために僕が行ったアクションのほんの一部だ。それでも本質は伝わるかと思う。

やはり「ビジネスは売上が全て」でしょ?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?