入院したことがあります

僕は学生時代に救急病院に入院したことがあります。


救急病院とは、緊急を要する怪我をした人などが救急車で運ばれる病院です。


僕の場合は空手の試合中に相手の蹴りをもろに受け、脾臓という臓器から内臓出血をしてしまったことでそちらに搬送されました。



救急病院に到着し、救急車のドアが開くと、もう直接オペ室みたいな室内にいて、目の前には長めの白衣をビシッと着こなした凄腕そうなお医者さんをセンターに、医療スタッフの方達がズラーっと逆Vの字に整列し、僕の到着を待っていました。


効果音は完全に「バーーーン!」です。


この逆Vの字が何かしらのドラマのようでかっこよすぎて、僕は絶対助かると安心しました。


病院とは安心と信頼のお仕事なので、きっとこういった立ち位置へのこだわりも強いのでしょう。




そして予想通り見事オペは成功し、入院生活が始まりました。


入院中は腹の中に管を通し、脾臓からの出血が完全に止まるまで、その管で血を抜いていました。


経験がある方はわかると思いますが、腹に穴が空いていると、咳をするなどして腹が揺れるとめちゃくちゃ傷口が痛みます。


僕も術後に高熱が出て咳をよくしたので、その度に傷口の痛みを必死に耐えていました。


しかし僕の入院してた部屋は6人部屋だったのですが、その中に1人、咳をする度に小声で「痛い痛い痛い痛い痛い…」と言うおじさんがいました。


僕はこの痛い痛いおじさんに少しイラついていました。


救急病院ですから、みんな腹に穴ぐらい空いております。
それをみんな耐えて頑張ってるのに、このおじさんときたら夜中であろうが「痛い痛い痛い痛い痛い…」なので気になって眠れません。


日中も女性看護師さんに「痛い痛い痛い痛い痛い…」の猛アピール。
看護師さんに「○○さん大丈夫ですか?」と言われると、満面の笑みを浮かべつつ「いやあね、もう本当ね、痛いんだよね!」である。


さらにはこんな日も。
痛い痛いおじさんの奥さんらしき人がお見舞いにやってきていつも通り「痛い痛い痛い痛い痛い…」で甘え、リンゴの皮を剥いてもらい、アーンをしてもらっていました。
アーンをしてもらっているにもかかわらず、痛い痛いおじさんは「痛くて食べづらいね。痛い痛い痛い痛い痛い…」とさらにアピール。


僕は「チッ」と言ってしまったかもしれません。




そんな日々が続いたとある夜、寝ようとしているといつものように咳が聞こえてきます。


「ゴホッゴホッ…痛い痛い痛い痛い痛い…」


僕はまた始まったと思いました。
しかしイラついてはいけない、なんとか無心にならなければ、もう数回これを我慢すれば痛い痛いおじさんは寝てくれる!と頑張ります。


しかしその夜痛い痛いおじさんは初めてくしゃみをしてしまいました。


咳とくしゃみで腹の揺れにどれぐらい差があるか、だいたいの人は想像がつくと思います。


痛い痛いおじさんは初めての衝撃を腹にくらい、


「へぇっくしゅん!!いった~~い」


が飛び出しました。


「いった~~い」はちょうど「あっは~~ん」と同じ言い方です。


「いった~~い🖤」と表記するのが正しいのかもしれません。


僕は聞いた瞬間面白すぎて「くっくっくっくっ…」と腹を何度も揺らしてしまい、「痛い痛い痛い痛い痛い…」を出してしまいそうになりましたが、ぐっと堪え涙を流しました。




今でも腹の傷口を見る度に、あいつの声が聞こえる…。

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