コケコッコー

「いや、ニワトリかーーーい!!」

私は、以前(前世)ヒトでした。
とても鳥が大好きなヒトでした。
西に可愛い鳥がいると聞くとその地を訪れ、東に珍しい鳥がいると聞くと急いで足を運びました。

私は鳥の鳴き声が好きです。
私は鳥の羽音が好きです。
それらを聴いていると1日があっという間。

私は鳥に生まれ変わりたい。

そんなある日、私は鳥に会うためにその日も山へ行きました。

山に響き渡る鳥の鳴き声、鳥の羽音が心地好い。
私はその日も、それらを浴びながら山を歩いていました。

すると渓谷の方から耳馴染みのない羽音が聞こえました。
聞いたことのない羽音に興味を持ち、渓谷を見下ろすと綺麗な白い羽。

何ていう鳥だろう?
見たことのない羽。

私は、ワクワクと、そして恐る恐る渓谷を下りていくことにした。

っと思ったが最期、そのまま足を滑らせ谷底まで真っ逆さまに。

え…、死んだ?

………

………


いや、生きてる?

しかし、体がしっくりこない。
落ちた拍子にどこか怪我でもしたのかな。
動きにくい。歩きにくい。

そして、川に映る自分の姿に驚いた。
確かに鳥に生まれ変わりたいとは言ったけど。

で、冒頭のセリフを叫んでいた。
谷底に響き渡る私の鳴き声。

それからの私は、ニワトリとしての人生を、いや、鳥生を歩んでいる。

最初は嫌だったニワトリだったけど、案外悪くなかった。

私の鳴き声で、この山のヒトや動物たちが目を覚ます。
私のタマゴでみんな喜んでくれる。
毎日、幸せだった。飛べないけど。
以前(前世)の事なんて、すっかり忘れていました。

すっかり忘れたのにはもう一つの理由がありました。
それは、大切な鳥との出会い。

その年の冬。
私が湖で水浴びをしていた時、それはそれは美しい鳥が現れたのです。

すらっとした長身の彼。端正なクチバシ。美しい翼。

鶴。

私が彼に見惚れていると、「この辺に住んでるの?」と話しかけてきた。

え!は、はい。

こんなニワトリの私に気さくに話してくれる彼。
私は夢中で色々話した。

この山のことや、湖のこと、そしてヒトや動物のこと。


それから、毎日私は美しい鶴と話をした。
一緒に雪だるまを作ったり、氷の張った湖の上を滑って遊んだりしました。

でもニワトリと鶴の不釣り合いな組み合わせを見て、カッコウやフクロウに笑われたりもした。

そんな時、「みんな同じ鳥だろ!仲良くしよう!」と鶴が言ってくれた。
まさに鶴の一声。

私はどんどん彼に夢中になっていきました。

鶴ニワトリ

結ばれた時のことを考え、彼の名字に私の名前をくっ付けたりしました。
それが彼にバレた時は、恥ずかしくてトサカが真っ赤っかになっちゃいました。

でも、そんな幸せな日は長くは続きませんでした。
私はそういう運命なんだ。

鶴の彼は渡り鳥。

もうすぐこの地を発つそうです。

一緒に来るか?と言ってくれたけど、私は飛べないニワトリ。

でもやっぱり一緒に行きたい。一緒に飛びたい。

私は頑張って飛ぶ練習をしました。

最初は小さな小屋の上から。
そして、少し大きな小屋の上から。

私は、必死で羽ばたきました。
私は、羽が引き裂けるほど動かしました。

………

………

でも、結局私はニワトリ。
飛ぶなんてことは出来ません。

私は鳴きました。泣きました。
声が枯れるほど泣きました。
朝でもないのに泣き続けました。

今度生まれ変わるなら、ちゃんと飛べる鳥がいいな。

数日後、彼は去って行きました。

私も後を追おうと、力いっぱい羽ばたきましたが、そのまま谷底へ。

………

………

と思いきや、浮いてる!?

ん?私は両羽を抱えられ、浮いている!?
何?誰が私を助けてくれたの??

よく見ると、見覚えのある白い羽。

思い出した!
以前(前世)谷底で見た白い羽。

その白い羽の持ち主は、私を抱えたまま飛んでいく。

どんどんどんどん。
上へ上へ。

ついに雲の上まで飛んできました。

そっか。この白い羽は、天使だったのか。

え!じゃ、私、死んだ…?

………

………

目を覚ました私。
川辺で眠っていたようだ。

夢?

しかし、何かが違う。
体に違和感がある。

私は、川面で自分の姿を見た。

!?

ニワトリじゃない!!

綺麗な翼、大きな翼。
私、飛べる鳥に生まれ変われた。

ん?何で飛びたかったんだっけ??

何で飛びたいのかは忘れてしまったみたい。
何か大事な誰かを忘れてる気がする。

でも飛べる。嬉しい。

私は嬉しくて、山を飛び回っていた。

すると見慣れない一人のヒトがやって来た。

奇妙な格好をしたヒトは、私に話しかけてきた。

「一緒に旅をしないか?」と。

お腰につけたお団子までくれた。

面白そう。
このヒトについていってみよう。
日本一と書かれた旗がちょっと恥ずかしいけど。

このヒトと旅をしてたら、忘れてる大事な誰かに会えるかもしれないし。

むかしむかしのお話でした。


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