「それでも物語は起こる」

なるべく物語が起こらないようする
自分の生活に　自分の人生に

それでも物語は起こる

舞い込んでくるように
巻き込まれてくるように
熱帯低気圧が台風になるように

誰かが物語を起こすからだ

彼は両親の離婚が決定となったころ

人生の状況が変わったことを
身の回りの人たちに
説明しなければいけなかった

学校
バイト先

幼いころから
話し相手になってくれていた駄菓子屋のおばさん

理解者だと思っていた彼女
彼女になりたいという別の人

彼は両親の離婚が決定となったころ

好きな音楽が変わってゆく
映画やドラマ　
ニュースの見方が変わってゆく

自分が壊れてゆく気がするから
自分を変えてゆく
大人びてみたり
子供じみてみたり

心の中で起こっていることを
知られないように

リアルは待ってくれない

生きる手段を選ぶ余裕はない
夢を追うなんてまやかしだ

遠くに行けば
あると思っていた解放の砦

ニューヨークにはなかった
ワシントンにはなかった
デトロイトにはなかった
東京にはなかった
ソウルにはなかった

彼にとって聖地となる場所

地図にない場所を
めざすなんて
かっこつけるのは

ほんとうは自分で決められないからかもしれない

地図にない場所を
めざすなんて言うしかないのは

生きるべき時間を生きたときに
めざすべき場所は
手に入れるべきものは
与えられるものだからかもしれない

ニューヨークにはなかったもの
ワシントンにはなかったもの
デトロイトにはなかったもの
東京にはなかったもの
ソウルにはなかったもの

それでも物語が起こる
それでも物語は起こる

#人生は100年の祈り