推し本を語る企画

 りんじんのみほるというVtuberがいる。
 冷静と情熱のあいだをうまく行き来する面白い語り口を持っていて、オタクらしい熱い萌え語りやはしゃぎっぷりを披露しつつも同時に深い考察をその中に取り入れ、その格差をシームレスに繋いでいく。そういう配信者だ。

 彼女が企画運営している配信の中で『推し本語ろうよ』というものがある。
 ご近所(彼女のリスナーネーム。つまりりんじんとは隣人なのだ)がそれぞれ持っている『推し本』を持ち寄って直接語ってもらうという素人参加型凸企画。Vtuber同士のコラボではなくあえてご近所の参加をメインとしている所に趣があり、彼女のスタイルが見える。
 本を紹介するのは喋ることもプレゼンをすることも生業としていない素人で、提供案件などの縛りも何もない野放図な内容だが、それがゆえに本の魅力が浮き彫りになっているように思う(配信者ではないという意味で「素人」という言い方をしてしまっているが、ちゃんとプレゼン画像を用意したりプレゼン内容をまとめてから挑まれているため、どなたもしっかりしたものになっているので安心して頂きたい)。
 現在3回目を数えており、すでに本好きなVtuberからも反応を受けており、これからも広がりを見せる可能性があるし、そうあって欲しい。個人的には本好きVtuberの中でどんどん企画が広まっていって欲しいとも思う。それは本を紹介するという良い企画のひろまりと、りんじん本人の知名度の向上の両方を願って。

 推し本というからにはちょっとしたお気に入りというものよりは、これは何度でも読み返したくなる、または実際に読み返している本であるとか、人に薦めるべきだとゴーストがささやいている系の本であるとか、そういう本であるべきだろう(個人の感想です)。

 最近、TikTokでの本を紹介していた人に誰かがケチをつけてその流れを止めてしまったという悲しい事があった。本を普段から読まない女子高生が良く視聴するメディアで本を紹介するという大変良い企画だったのだが、残念だ。
 あまりに膨大な選択肢の中に放り込まれ、何を選ぶべきなのか、その指標を持つことすら困難な状況下において信頼する人からの推薦というのはこの上なくありがたい存在だろう。いくつか読んでいく中で、興味を持てばそのうち自分で探す人も出るだろう。あまりに親切な誘導は自力で探す力を削ぐ、という考えもあるかもしれないが、そもそも入り口に立ってすらいなかった人を入り口に導いていたのだからその功績はもっと称えられるべきことだろう。

 閑話休題。

 そういう流れがあってから、この推し本企画に参加するにあたって自分でも少し考え方を変えるべきだと考えた。
 前回の参加時、僕は絶版本を紹介してしまった。電子書籍化すらしていない。僕の中では大変好きな本であり、推し本と呼ぶのにこれ以上はないというほどのものだったが、興味を持ったところで読むことが出来ないのでは意味がない。推し本を語るからにはやはりそれに興味を持って欲しいし、読んでみて欲しいというのはオタク的思想だが理解は得られるかと思う。

 そもそも推し本と呼べるほどのお気に入りというのはたいてい若いうちに読んだ本の方が該当しやすい。
 以前何らかのランキングで「一番怖かった楳図かずお作品」というのがラジオで紹介されていて、それを聞いていた人(全員僕より年上)がそのランキングに不満を持った。要約すると「ランキング上位の作品よりもっと古い作品の方が怖かった」という意見だ。
 その話を聞いていて、これは単純に「一番怖い楳図かずお作品は一番初めに読んだ楳図かずお作品だから」なのではないかと思い、彼らにそう話すと全員がひとしきり笑ったあとで、腑に落ちた顔をしていた。
 刺激というのは慣れてしまうものなので、初めに受けた衝撃が一番強くて印象に残りやすい。これは恐怖に限った話ではない。
 そういう訳で同じジャンルなら最初に読んだ本の方が印象に残りやすい。そうなると僕のようなおっさんが推しとまで呼びたくなる本というのは今手に入りにくいものが多くなってしまう。もちろん新しい本だからといって適当に選ぶわけではない。
 やはりこういう企画なのだから、できればその本を読んで欲しい。手に入らない本を持っているという謎の優越感はこの際不要だ。今後の企画に参加するのなら、今手に入るものをベースとして考えていきたい。

 で、ついでなので推し本の配信が行われたら、その日の内にnoteの方で裏推し本企画として「多分今手に入らないだろうけど僕が好きな本」を一冊紹介してみたいと思う。というか次に何を紹介しようかなと思って考えた本が全部絶版だったので語りたくても語れないのだった。なのでいっそ手に入らない事を前提とした企画にしてしまってもいいのではないかと開き直った次第。入手難易度もネタになるかなという感じで。
 

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