MRコンテンツって何だろうねって「THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆」を観てきた訳なんですが

 透過スクリーンへの映像上映コンテンツ「765PRO ALLSTARS『THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆』presented by アソビストア」を観てきた。透過スクリーン上映は、結局のところ「実際に居る(っぽく見えますよ)!」という予定調和を観客が認識していることありきだと思っているので、個人的にはさほど高く評価していない。ただ、MR ST@GEは「演者をキャプチャしてのライブパートがある」らしいと聞いたので、どんなもんやら、という訳だ。

 本公演は、ざっくり言うと「単純な映像上映」パートと「バックダンサーや小道具を映像に交えた主演ソロパート」で前後が分かれており、それらの間に「客席への振りを含んだ演者の半アドリブによるトークパート」が挟まる。

 前半パートは、既存の透過スクリーン上映コンテンツと大差はない……どころか、先達に一歩劣るというのが正直な感想だ。
 まず、構成している音源や3DCGモデルがCDやゲームからの流用なので、専用のリミックスやカスタマイズが施された「初音ミクDAIBA de DIVA」や「スプラトゥーン シオカライブ」と比べると幾らか劣る。
 さらに、音源とダンスの喧嘩ぶりが壮絶だ。激しい動きをしていても声には全く反映されないし、そもそもCD音源はステージ向けイントネーションのボーカリングでないので、かなり奇異に感じられる。音源とグラフィックスのミスマッチという点はゲームも同じなのだが、ゲームならばカメラ演出で誤魔化すことが可能だ。しかしMR版は観覧者の主観でしか見られないので、音と画の乖離した様が直に見えて、カメラワークも音効も残念な古い特撮のダメなやつのようですらある。
 ただ、後半パートは生歌なためか(多分生歌だろう……演者は現場に居るわけだし)、こちらのグラフィックスとヴォーカルはマッチしていると感じられた。

 ダンス自体も、3DCGモデルが情報量の低いトゥーン系グラフィックであり、さらにボディラインの出がちな衣装デザインなので、アクターのダンスの精度が露骨に現れてしまうのが難だ。例えば響や律子のモーションは、滑らかに小節に収まっているうえ、重心が安定していて豪快なポージングもキマっており、純粋に「巧い」と思える。一方で貴音のモーションは、小節への収まりが悪いうえポージングも固く、一段落ちる出来だった(或いは、芯を据えた素早い動きが主なストリート畑のダンサーだったのかも知れない)。なお、公演ごとにボーンが異なるキャラクターに充てられていて、当該キャラクターが変わっているという可能性はある。

 スクリーンに投影される映像は、仕様として二次元的演出に留まらざるを得ないのが、もったいないところだ。演出に使える奥行きは、実測にして1m未満だろう。素人考えながら、複数のスクリーンとプロジェクタを用いたうえで、キャラクターが重なるシーンや柱のようなオブジェクトを活用すれば、奥行きの演出もある程度は可能ではないかと思うのだが、どうなのだろうか。
 また「アイドルマスター」というフォーマットは、リアリティライン的にファンタジックな表現がしにくい事も、演出という点では悩ましい。……いっそアニメ版のA-1 Picturesに依頼したら、あの精神世界的な謎ビジュアルを仕立ててくれるかも知れないが。

 その他、エフェクト類は素でショボい。紙吹雪は小さいのでマシだが、スモークは一世代前のクオリティだ。投影の都合上、本物のスモークが炊けないのは解るし、CGモデルのシャドウやコリジョンを見る限り、それほど予算がある訳でもないのは察せられるが……。

 と言うか、そもそも「MR(Mixed Reality)」をタイトルに掲げている以上、一部パートのみとしても、単なる「透過スクリーンでの映像上映」をやるのは如何なものか……と思わなくもない。映像だけで、何とも混ざってないじゃないか。

 MRコンテンツとしてのキモである、バックダンサーや小物を交えた後半の主演ソロパートは、なかなか可能性を見せてくれるところだった。以前にもNews Zeroで少しだけ観た「超歌舞伎」(初音ミクと中村獅童氏の主演によるMRコンテンツ)は、最新技術の“目眩まし感”と伝統芸能の“黴臭さ”が巧く相殺されている様子に感銘を覚えたものだ。最新技術や伝統芸能でなくても、映画「ロジャー・ラビット」や映画「ラスト・アクション・ヒーロー」、或いはクレイアニメ「ニャッキ!」の一部ストーリーに見られるような「トゥーンと実物の調和」は、成功すると両者が引き立つ。
 演者がライブアクトをしつつ3DCGモデルを動かすのも(これのモーションもキャプチャだったのだろうか? 気になるところだ)新鮮な試みであり、VRChat的技術のショービジネス市場投入ケースとして面白い。ただ声優はシナリオライターではないので、「今井麻美によるライブアクトの如月千早」のパーソナリティは、シリーズにおける「如月千早」よりも「今井麻美」のそれになる。て言うか大体ミンゴスだった。千早の声を作ってのライブボーカリングは珍しいものだったけど、基本的にはミンゴスでした。ミンゴス。

 ミンゴスはともかく、MRコンテンツを作るには、既存の3D/2D映像コンテンツから結構な手法・論法の切り替えが求められるだろう。専用のスタジオが手掛けるか、或いはブロードウェイミュージカル等のショービジネスに通じた人や、小林賢太郎氏(ラーメンズ)のような人物が料理したら面白いのではないだろうか。

 映像投影自体は、透過スクリーンがあることをあまり感じさせず、解像度や光量も高かったので、そういった技術進歩については感心した。ただ、大人数が観覧できるスクリーンではないため、限定的なユーザーに対するエクスペリエンスにしかなり得ないという点は、商業コンテンツとしては若干疑問だ。AKB劇場だのディアステだのを鑑みれば、こういったものはこれでいいのかも知れないが……それを踏まえると、MRシアターとしての“リアル・765プロライブ劇場”はワンチャンあるのかもしれない。

*結論
Q. どんなもんやら。
A. ミンゴスだったわ。

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