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目覚まし時計、ちゃんと、セット、しない、へへ、ズ…
隣でスースーしている。いつもは何もしない。今日はスースーだ。ズーズーかもしれない。うん、やっぱりズーズーだ。
彼にまた会おうと思ったのに特に理由はない。ただ会いたかった。会いに行きたかった。声がききたかった。どんな声、どんな顔だったかも忘れていた。ただ薄っぺらい会話をして、ゲラゲラ笑ったことは覚えているので、また笑いたかったんだと思う。嘘嘘、彼を抱きしめたくて仕方がなかった。私も抱きしめて欲しかった。叶わなかった。頭ポンポンはよくしてくれたけど、抱きしめてはくれなかった。ああ、特に理由ないとか言ったけど理由あるじゃない。理由、ある、じゃ、ない。へへ。
彼はアヒルの真似をよくした。しつこいくらい、こちらが嫌になると知っていて何度も何度もアヒルの真似をよくした。下手だった。いやアヒルにもなれていないし、そもそもアヒルが何かもわからないらしかった。それなのにアヒルの真似をした。何かわからないからいいのだと自信たっぷりに言っていた。何を言っているのかさっぱり私にはわからなかった。
彼は寝る前に「コンビニのおにぎりにはね、砂糖がたくさんついてるドーナツがね、絶対にね、裏にね、隠されているんだよね、絶対にね」と小声で言ってきたことがあった(わからない寝言だったのかも)。
彼の好きな食べ物は、肉じゃがに入っているこんにゃくと、ナポリタンの「ン」らしい。なんだそれ。
彼に女ができたらしい。私はアヒルの真似と寝る前に言ったことと好きな食べ物のことしか彼を知らなかった。彼に女ができたらしい。
泣いた。めちゃめちゃに泣いた。誰だよテメエ。
でも私もテメエらしかった。頭ポンポンして、抱きしめてはくれなかったけど、頭ポンポンをしてくれたのは私だけだ、テメエだ。アヒルを知らないというのに得意げにアヒルの真似をする彼を知っているのは私だけだ、テメエだ。コンビニのおにぎりの裏に砂糖がたくさんついてるドーナツが隠されているなんて意味不明なことを耳にしたのも私だけだ、テメエだ。肉じゃがに入っているこんにゃくとナポリタンの「ン」が好きな食べ物って、それ好きな食べ物じゃねえよって言いたかったのも私だけだ、テメエだった。
泣いた。泣きまくった。泣きまくって泣きまくって、泣きまくってこれ以上涙なんか出ないくらいに泣きまくって擦りすぎて腫れぼったくなった目をしたまま、鏡に向かってアヒルの真似をした。
ズーズー……ズーーー…ズーー!
ズーーーー!!ズーーーーーー!!!!
そして私はこう言った。
『フリルちゃんの可愛いを着たアンタが僕を振る覚悟ができたらしいので、君はくるくるポニーテールをしなきゃいけない。僕を振ったらアンタは他の僕と隣にいてほしいって君が言ってんのワンワン!』
これは私がワンピースを着るときの記憶。へへ、ズ…
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