フットボールの詩 「王の帰還」 10-11CL fainal 201105328

ウェンブリー・スタジアムはサッカー誕生の地であり、
「サッカーの聖地」と呼ばれる。

屋根付きのスタジアムでは世界最大。
9万人のキャパシティはカンプノウについで世界2位である。
しかし2007年に完成したニュー・ウェンブリー・スタジアムでは、
チャンピオンズリーグの決勝は初めてだ。

そのウェンブリーをほぼホームとして闘うマンチェスター・ユナイテッドに対するのは、
過去優勝3回、初めて優勝したのがこのウェンブリーというバルセロナ。
これは現役のプレミア王者対リーガ王者による正当なる「CL王位の争奪戦」と言えよう。

今回のテーマがあるとしたら「名誉の回復」である。
このテーマに挑んで成功したチームは、近年で言えばACミランである。
イスタンンブールでの屈辱的な逆転負けを喫した同じリバプールに対して、
2年後に見事に勝利を収めて「名誉の回復」を成し遂げた。

同じシチュエーションにいるのが、マンチェスターだ。
2年前のローマで、同じ相手であるバルセロナに何もできずに負けた。
当時はグラウディオラ監督の就任1年目のバルサはどちらかと言えば挑戦者で
圧倒的にロナウド有するマンチェスター有利と言われていた。
しかし、闘った後の感想はまさに「完敗」だった。
その屈辱が報いられるのか否か。

立ち上がり10分は圧倒的にマンチェスターだった。
中盤のプレスを激しくし、メッシから何度もボールを奪った。
伝家の宝刀であるファンデルサールからのロングフィードも効いていた。

次の10分はバルサが主導権を取った。
今日の雄牛の出方を見極めたあとはいつも通りのポゼッションを始めた。
メッシへのプレッシャーがきついと観ると、メッシがおとりになって、
イニエスタとシャビがスルーパスを出し始め、ビジャがシュートを打ち始めた。
立ち上がりの印象とは逆に15分でポゼッションを66%まで高めていた。

いつも通りのバルサに点が入るのは時間の問題のような展開の中で、
シャビがためてペドロに出した絶妙なスルーが得点を生んだ。
まさに「普段着のバルサ」
カンプノウで見せる展開をそのままサッカーの聖地で繰り広げた。

この時点での感想だが
「この試合、簡単に終わらないだろうな」であった。
こうも戦前の予想通りになるCL決勝はそうそうない。
マンチェスターだって勝者の魂を持ったチームである、
このまま、すごすごとは終わらないだろうなと思った。
その感想の直後に、同点弾が入る。

中盤のスローインをかっさらって強引に逆襲に入るマンチェスター。
ルーニーがギグスとワンツーを折り返し、いい位置で豪快に決めた。
さすがにハートの強いチームだ。このチームに試合の展開は関係ない。
一瞬でも気を許せば、こうして得点に持っていく。

これで、試合は振り出しに戻り、前半終了。
さて、両監督がどのような指示をしれくるか。

前半10分のハイプレスを続けることができれば
マンチェスターにも勝機はあるがそれは、
あのアーセナルでも45分間しかできなかった。
バルサ相手のハイプレスの限界は45分といわれている。
いかにパクチソンという脅威のスタミナを持つ選手を抱えていても
チーム全体としては、それが限界だろう。
その45分をどこで使うかなのだ。
とすると、わざと前半の20分過ぎから抜いた可能性もある。

試合は、ほどよい緊張感を保ち、運命の後半になだれ込む。
中盤の激しいプレスを繰り広げる両チームだが
「普段着のバルサ」が躍動する。

そして、ルーニーが活躍したなら負けていられないとばかりに
主役であるメッシが駆け抜ける。

おとりとしての前半から一転、
後半は自分でドリブルで相手陣内に切り込む。
CL史上最多得点に並ぶ12得点目の美しいゴールはこうして生まれた。

続けざまにビジャも得点し、3−1として
この試合は終わった。
「普段着のバルサ」の圧倒的な強さを強調して。
試合終了後のファーガソンの表情がすべてを表していた。
「なにもできなかった」

マンチェスターユナイテッドはけして弱くない。
ここまで負けなしで決勝を迎え、
失った得点もわずかに4点だったチームが
3点も取られて完敗したのだ、
「普段着のバルサ」が異常に強いのだ。

ヨーロッパ初制覇を成し遂げたサッカーの聖地に
「王が帰還した」

帰還した王様が、今後どうなるのか。
王様の在位がどのくらい続くのか。
そして、王を破るとしたらそれはどんなサッカーなのか。

これからのフットボールワールドは
「王の帰還」を巡る物語になるだろう。

しかし、この王様の強さは尋常ではない。

なぜならビックイヤーを掲げたのが、
重病から大手術で復帰したアビダルだったのだ。
わざわざプジョルがキャプテンマークを
アビダルに渡して実現したこのシーン、
それがバルセロナという王様の真の姿だ。

カンテラ出身のグラウディオアラ監督が作り上げた
このチームの結束力は、王者としての技だけでなく
魂も兼ね備えていることを忘れたくない。


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