1冊1P マルクス・ガブリエル 新時代に生きる「道徳哲学」

画像1 マルクス・ガブリエルのパンデミック論。
画像2 人新生の哲学として、行き過ぎたグローバル資本主義への最後のチャンスとして、コロナを捉える。人類が一斉に「形而上学のパンデミック」に陥って、科学主義的な大量消費による地球破壊を反省して、地球との新しい調和モデルを模索して、文化、宗教、民族、国家を乗り越えて、中庸な行動を選ぶべきだ
画像3 マルクス・ガブリエルの「新時代に生きる道徳哲学」第1章はコロナ・パンデミックが社会を変えた。我々は科学を盲信する科学主義に陥ることなく、倫理を武器に不健全な極論と極論の間で、中庸な行動を選ばなければならない。
画像4 行き過ぎた衛生主義はファシズムのような差別を生んでいる。市民は最新の科学的知識に基づいて創設された法律やルールを守るべきだが、法に従わない自由も保障されるべき。その法律違反を一市民が取り締まったり、糾弾する権利も義務もない。それが民主社会というもの。
画像5 コロナではあらゆることのデータ化と可視化が急速に進んだ。これは善と悪が可視化され始めたと言える。人類は「暗い時代でも倫理的に進歩できる」のだ。反面、パンデミックへの対応が国によって違い、国家間の競争を生んでしまった。さながらそれは「国家主義的なオリンピック」のようだ。
画像6 第2章「思考で倫理は進歩する」パンデミックで倫理観は進化できる。倫理的進歩は、パンデミックのような倫理的に定かでない状況によって、過去の「倫理的に明確なモノ」では規定出来ないので、科学や人文学、社会学などの「倫理的ではない証拠」を組み合わせて生まれる。
画像7 第2章「思考で倫理は進歩する」の後半。すべての学問において哲学が最上位にある証明を行う。それは図の「対象ー研究の関係論」から導かれる。故に全ての学者・専門家には、哲学的倫理を求め、善き行いをすべきだと主張する。常に自らが開発する原子爆弾やAIの危険性に自覚的であるべきだと説く。
画像8 第2章「思考で倫理は進歩する」と第3章の架け橋になる部分となる「観念論」。あらゆる物理的世界の上位に思考・思想が位置する。この立場は、すべての学問において、哲学が最上位にあるのと同意である。これと逆となる危険思想が、「唯物主義」である。唯物主義はアメリカで花開き、大量消費主義を生み出した元凶であるとする。
画像9 第3章「唯物主義を越えて正しく錯覚せよ」。実存する全ては物理的存在だと唯物主義は、観念論を否定する。融和と絆を破壊して、分裂と差別や分裂を生む。この思想が大量消費主義の基礎となり、今や地球を破滅に追い込み、全人類を危機に追いやる。
画像10 3-2 物質世界には善きものは存在しない。それは人の仮想や想像の所産だ。脳もただのモノで、実際は身体は精神の一部に過ぎない。モノと価値の間には錯覚が介在する。錯覚には善きものも悪しきものもあるが、大量消費主義の呪縛は最悪の錯覚だ。
画像11 第4章「#道徳哲学が合理的なツールになる」この章の指摘は人新世の哲学として重要。物資世界には人間とは違うルールの世界が共存している。ウィルスの世界も、地球の世界もある。今回のコロナ禍では人類はその共存のために正しい判断ができた。この倫理的な進歩は地球レベルの気候変動へのアクションの予習になり得る。ただし新自由主義的資本主義が、その可能性を邪魔する。もとより新自由主義的資本主義が「人の移動」を助長してきた。これがパンデミックの原因だ。武漢に観光で行く人はいなかったのだ。経済が大流行を引き起こした。
画像12 なぜ我々はコロナウィルスをコントロールできていると誤解するのか?それは存在について人間は大きく誤解しているからだ。それは「自然は自然科学のモデルの対象」だという思い上がりがあるから。人間的ルールとウィルスのルールは違う。モデルはあくまでモデルに過ぎない。
画像13 マルクス・ガブリエルの主張の真髄である「存在論」。存在は自己の認識によっているので、認識がなされていれば存在し、認識されていない時には存在しない。明滅するかの如くに、存在と無は同一である。世界は存在しない。現実は存在しない。我々は全体を認識することはできない。
画像14 我々が認識できるのはいつでも「部分」でしかない。だから「全体の現実」などというものは存在しないのだ。過去に撮影したカメラはあるが、それは現在に存在し、過去という事象は存在しない。
画像15 我々は時間軸の上を旅する認識の器だ。人間としての認識が始まった瞬間から、認識の有無によって存在が確定したり、消滅したりしている。時間軸上で存在と非存在の間を行き来しているのだ。そして死によって認識は突然終わる。
画像16 ライン川を見ながら、「現実と認識=自然と宇宙」が語られる。方丈記の「行く川の流れは絶えずして、しかも本の水にあらず」を想起する。科学的に把握できる自然は、計測可能な部分だけで、その上層に経験の質でしか感じられない能産的自然がある。
画像17 コロナで我々は新しいルールに生きることになりそうだという話。特に今まで信じられてきた「科学万能主義」が根本から変わる可能性を示唆する。哲学者としてマルクス・ガブリエルは科学万能主義を痛烈に批判しており、カール・マルクスが「宗教は民衆のアヘンだ」とした先駆に倣い、現代において「科学は民衆のアヘンだと」指摘し、これこそが現代社会の深刻な問題だと批判する。科学的に解明されていないコロナの様な状況には、本来、科学も一要素として、政治や医療と公平に見比べ、その上の倫理的な判断をすべきと哲学者ならではの自説を展開する
画像18 「コロナで、世界は中華帝国のステージに入った」というガブリエル。新自由主義的グローバリゼーションやネットのおかげで、世界がつながっている状況で、脅威に反応した初めてのケースにおいて、世界は「中国方式」を採用した。これは軽薄な陰謀論ではなく、ロックダウンにしても、感染ルートの追跡にしても、ワクチン開発にしても、2ヶ月リードしていた中国のやり方を、世界各国は採用していったという現実である。その反応は恐ろしく一様だった。「いったい何が起きているんだ!」と
画像19 「意味の場」ここも深い。物体は場と干渉する、そこに因果ができる。私がここにいるという干渉は、この場に因果を持ち、周囲に作用する。私がここで感じる「感情」は肉体にあるのではなく、場に存在して、他の人に作用する。人々は場と作用し合う。「私はここ(場)に絆を感じる」という感情が発生した時、感情は私の肉体ではなく、この場にある。そしてその場の感情によって、場所に磁場が発生する。だから他人を引き寄せる。そしてその場は複合的に意味を重ねていき磁場が強くなる。意味の場が増えると引き寄せる力が強くなる。
画像20 ガブリエルが「意味の場」を思いついた原点の話。多くの人が幻想する統計モデルでは現実の極々一部しか表現できない。逆に自然や物体はそこにある。その場に引力が発生するのだ。また「イメージはどこにあるか?」という問いがなされる。脳には神経細胞があるだけで、そこに「街灯」はない。イメージは街灯のある場にあるのだ。
画像21 新実在論の目標として、「いかにして社会契約を再構成するか」を挙げる。今や分断している政治の哲学と自然の哲学、経済と政治の乖離や倫理-政治-法律を統合して、「国際社会が一緒になれる倫理的真実」を見出すこととしている。フェイクファクトが蔓延る時代における新しい社会契約の必要性を訴える。哲学は現実社会に関わって来たし、今後も積極的に関わるべきだという主張。
画像22 本書のテーマが立ち上がる。人新生に必要な普遍主義の在り方を説く。地球という運命共同体に住む我々は、文化、宗教、民族、国家を越え、あらゆるステレオタイプ思考を超えて、それらの多様性を含んだ「新たな行動の一致」を見出す必要がある。新実在主義者らしく、「ゴールの真実の姿は実在していて、発見されるのを待っている」と言い、世界の皆で取るべき行動、皆が受け入れることが出来る事実を、人類の生き残りをかけて発見するのだ、と主張する。それこそが「新啓蒙主義による再構成」なのだ。
画像23 分断と対立の時代にマルクス・ガブリエルが提案する二つのステップ。1.他者を認める段階。違いを認める政治2.違う部分ではなく、共通の場を作り、違いにこだわらない政治
画像24 マルクスが提唱するのは「中間性の知性」。人間が選ぶ行為として、善行だけではなく、「相手との共通のテーブルで中立的な行為を選択すること」も含めて倫理的に行動することが、知性だとする。コロナ危機で求められているのも、まさにこの知性。コロナは人類存続のための最後のチャンス。行き過ぎたグローバル資本主義が一度停止したこの時に、我々は人間として忘れてきた大事なものを回復した。これを見逃して、再びあの地獄の日々に戻るのか?それとも地球と共存できる限界を考え、道徳的に正しい経済モデルを発見するのかの大事な分岐点にいる。
画像25 コロナ危機は人類が得た存続のための最後のチャンス。過去の燃え尽きた資本主義はレミングの崖の限界に来ていた。だから全人類が反応した。これはウィルスの問題ではなく、グローバル新自由主義への「形而上学のパンデミック」なのだ。コロナの呼びかけに応じて、地球との新しい調和モデルを模索するべき時だ。人類全員が運命共同体として、互いの違いを認め、違いに拘らず、地球という共通のテーブルについて「倫理的中間を探る」という大人の知恵を使い、道徳的に正しい経済モデルを「発見」するのだ。それは実存するが、発見されていないだけだ。

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太田泉
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