2014年W杯ブラジル大会 ベスト16 決勝トーナメント 「南米 対 欧州」への準備を整えた8試合
2014年W杯ブラジル大会 ベスト16 決勝トーナメントについての覚え書きです
第4日 7月2日
遠い1点、延長戦の攻防
W杯におけるベスト16の風景は「死闘」である。
我々日本人も知ってるあの延長とPK戦の地獄絵図だ。
トルコとパラグアイにベスト8を阻まれた記憶が蘇る。
特に今大会のベスト16は、8試合中5試合と延長が多い。
そのうち2つがPKまでもつれ込んだ。
そして、そのどれもが面白かった。
そう1点が遠いのが、決勝トーナメントなのだ。
90分では決まらない、120分を越える綱引き。
1点を巡る攻防、本気の削り合い。
これが、真剣勝負の醍醐味なんだ。
アメリカ 0−2 ベルギー
ベルギーのシュート30本をしても0−0と
膠着した試合は、延長になって大きく動いた。
試合の綾は、「監督対決」の様相を帯びていた。
好調のルカクを先発から外して、延長用のジョーカーとして使った
ウィルモッツ監督が先手を取る。
ルカクが持ち込んでのデフルイネにアシストした1点目はお見事!
さらにそのルカクは逆にデフルイネからアシストをもらい2点目も決める。
「この試合は120分後に決まる」と戦前から言っていたという
クリンスマン監督はゲルマン魂をアメリカでも発揮して決してあきらめない。
延長後半で2点差でも迷わず仕掛ける。
最年少19歳のグリーンを投入すると、このカードがすぐに結果を出した。
ここからムードはがらっと変わり、アメリカが怒濤の攻撃に出る。
3分のジョーンズの押し込み、8分のデンプシー、9分のデンプシーのヘッド、
11分のクロス等延長後半だけ見れば、アメリカはとても良い反撃をし、
全国民にベスト16での良い印象を残した。
サッカー不毛の国と言われ続けたアメリカ。
今回の大会の盛り上がりは全米に広がっているそうだ。
チームが国の威信をかけて必死にプレーをすれば、
サッカーの情熱は必ず着火するものなのだ。
スイス 0−1 アルゼンチン
延長後半の15分に試合の凄みが凝縮していた。
「名将ヒッツフェルドの最後の作品である「時計仕掛けのスイス」は
試合中、終止メッシを止め続けた。
しかし、その正確無比な守備組織の歯車が暑さと延長の疲れのなかで
一瞬だけ狂いを生じた。メッシという選手はその瞬間を見逃さなかった。
スイスのキーパーのパントをDFが味方にパスしようとしたボールを
アルゼンチンに奪われ、メッシに渡る。
ここでマークが甘くなった瞬間にメッシがスピードに乗ったカウンターを炸裂、
斜めに出したディマリアへのアシスト、見事なダイアゴナルな流れで
ゴールに突き刺さった。
「勝負を分けるのはひとつのミス!大上段に構える戦術やシステムではない」
元日本監督の岡田が南アフリカ大会を振り返って吐き出す言葉が印象的だ。
この人らしい言い回し。
スイスの2番DFがメッシのゴールを追いかけ、勢い余ってゴールネットで絡まる姿が切なかった。
しかし、この時、彼らは必死に息を整えていたのだ。それがスイスの反撃の狼煙だった。
スイスはロスタイムに2度、ビッグチャンスを作る。
GKも上がってのパワープレイで、コーナーのこぼれ球をクロス、
これを見事なヘディングするが、惜しくもポストに弾かれてしまう。
さらに最後は、シャキリがゴール前でつっかけたのを
DFがたまらずファールして獲得したFK。
これがラストプレイになったが、残念ながらアルゼンチンの壁に阻まれた。
この日で、ベスト8が出揃った。一次リーグの一位通過チームがすべて駒を進めた。
そう書けば強豪が順当に突破したように感じるが、
引き分けが過去最多の5試合という数字のほうが現実に即しているだろう。
遠い1点、ベスト16の風景はいずれも「死闘」だった。
第3日 7月1日
ゴール守る男たち
南米への挑戦権を賭けた「欧州 対 アフリカ」の2つの対決は、
ゴールを守る男たちの対決になった。
ドイツ 2−1 アルジェリア
見事なGK対決だった。
破壊的なドイツの攻撃陣を跳ね返し続けたアルジェリアのGK。
ミュラー、クロース、シュバインシュタイガーなどの猛烈なスピードのシュートを
おそるべき反応で止め続けた。
かたや、ドイツの最終ラインにはユニフォームの違うDFがいた。
濃紺のユニフォームがアルジェリアのカウンターのたびに、ドイツのピンチを救った。
そのディフェンダーこそ、GKノイアーである。
ペナルティエリアなんてノイアーにはまったく関係ない。
その守備範囲は異常なほど広い、そして、そのキックで正確なフィードを行なう。
いまや世界No.1キーパーといっても過言ではないだろう。
0−0のまま、延長に入った試合は
延長前半にドイツ・シュールレの華麗なヒールシュートで均衡が崩れる。
さらに延長後半、キーパーが弾いた球を押し込んだエジルのゴールで2−0にする。
それでもアルジェリアもカウンターで攻め続ける。
交代で入ったジャブがアディショナルタイムに得点し、
2−1。ここで今日の印象的なシーンが見られた。
残り時間でもう1点を狙うアルジェリアのメンバーから
ノイアーが球を奪い、隠す。放る。
この細かい仕草に今日のGK対決の意地の張り合いを見た。
フランス 2−0 ナイジェリア
ナイジェリアのGKエネアマが目立つ試合だった。
ベンゼマ等のシュートを悉く止めた。
しかし、フランスの狡猾さがそれを上回った。
特に2点目、時間稼ぎの振りをしたクロスボールには
さすがのエネアマも対応できなかった。
ホグバ、グリーズマンなどのフランスの新しい個性が光った。
第2日 6月30日
決してあきらめない、あきらめたら、そこで終わり。
今回のW杯は、華麗さより「執念」や「ど根性」が勝るようだ。
キレイにプレーしようとした奴が落ちる。
貪欲にあきらめない奴が残る。
どうも「自分たちらしいプレー」とかいう
綺麗事を並べるような選手はベスト16には残っていないようだ。
どんな手を使っても最後の最後まで勝ちたいと思う奴が強い、そんな大会だ。
本日の2試合はその象徴。
メキシコ 2−0 オランダ
ベスト16の中でも白眉の対戦。
試合は終始、メキシコのペースで進んだ。
固い全員守備でオランダのロッベンらの攻撃陣に仕事をさせない。
メキシコはあと5分の辛抱だった。
でも、試合はあきらめない奴が勝つのだ。
ダイブであろうとなかろうと、
ロッベンに対するファウルで主審は笛を吹いた。
交代でドス・サントスを下げて守りを固めたメキシコに
反撃の手づるは残って無かった。
あれは、監督の差かもしれない。
初めての給水タイムに監督がなにを指示したかの差だったのかも。
結局、DFに回したカイトをFWにし、
フォーメーションを4−1−1−4までして
最後までいじったオランダが勝利をたぐり寄せた。
ギリシャ 1−1 コスタリカ
3 PK 5
最後まで勝ちたいと思った奴がどっちだったのかを試された試合。
運命の女神は気まぐれに、気ままにダンスの相手を替えていった。
見事なミドルシュートで先行するも、
レッドカードで10人になったコスタリカ。
ロスタイムに奇跡の同点弾を入れたギリシャ。
PK戦で最後の最後、自分たちを信じきれなかったようだ。
コスタリカのGKナバスは最後の一瞬まで奇跡を信じて疑わなかった。
そのキーパーの差し出した伊ダリ手に女神はキスをした。
予想通り、「中南米の大会」ではなく、
「南米の大会」にむけて、ふるい落としが始まった。
ヨーロッパ対南米の図式にアフリカがどこまで食らいついてくるか
第3日はそれが試される。
貪欲にあきらめない奴が残るはずだ。
第1日 6月29日
本気の南米、激突する意地と意地
W杯ブラジル大会 決勝トーナメント始まる
ブラジル 1−1 チリ
PK
ブラジル対チリ戦、素晴らしかった!
チリは、本当に強かった。
開催国ブラジルをあと一歩まで追い詰め、息の根止めるまで行っていた。
ブラジルの油断に、狡猾につけこみ、何度も何度もボールをかっさらった。
得点シーンが象徴的だった。
PK戦は時の運だ、そしてジュリオ・セーザルが正しい判断をした。
「この緊迫した南米対決の試合で、PKを枠ギリギリに蹴れる勇気のある奴は少ない。真ん中で、反応で、この手で止めるまでだ!」
そして2度、彼はセーブした。
この南米激突、ちょっともったいないんじゃない位のベスト16だった。
チリの国歌斉唱から本物の南米対決って雰囲気がバシバシしてた。
でもこの試合を勝ち上がったブラジルは強くなりそうだ。
コロンビア 2−0 ウルグアイ
第2戦は、同じく南米対決のコロンビア対ウルグアイ。
コロンビアの本当の実力が見えた試合だった、強い!
これから見れば日本戦は2軍でこなした試合だったと思う。
そして、ロドリゲスはホンモノの化け物だった。
ウルグアイは先祖が吸血鬼の噛み付きスアレスがいないと
普通のチームであることを露呈。
初戦と同じように攻め手がない。
決める覚悟を持ったストライカーの存在の大きさを
改めて痛感させた。
期待のカバーニは、まだ少年のような存在だった。
さあ、この山は次のベスト8も南米対決、ブラジル対コロンビア。
これを勝ち上がったチームは正真正銘の南米代表として、
この「南米の大会」を引っ張る存在になるだろう。
それが開催国であることを強く願う。
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