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買い物カートの陰謀

元来、僕はスーパーにおいて買い物カゴを使う人間だった。左手に買い物カゴを提げ、右手で商品を手に取っていく人間だった。

しかし、いつの日か僕は、買い物カートという俗物に手を染めてしまったのである。

買い物カートは画期的なアイテムだ。


なんせ、商品を入れていっても、重くならないのである。ゴロゴロ押すだけで軽々と移動できる。ラクだし、腕も痛くならないし、買い物がより一層楽しくなる。僕みたいな独り身はまだしも、子連れの人や高齢者の人からしたら大助かりに違いない。



商品の中では、じゃがいもや麺つゆ、紙パックの林檎ジュースなどが特に重い。買い物カゴだけで太刀打ちすると、知らぬあいだに腕が筋トレ状態になっており、たちまち疲れ果ててしまう。


ところがどっこいどうだろう、買い物カートだったら実に余裕。


じゃがいもプラス、人参さつまいも玉ねぎもイケる。


麺つゆプラス、醤油やみりんもイケる。


林檎ジュースプラス、栄養ドリンク炭酸水スポーツドリンクもイケる。


なんなら、冷凍食品も買い溜めしといちゃおう。


アイスクリームや杏仁豆腐も買っとこうぜ。


爆買いだ。


どんとこい、どんとこい!


だが、そうしてレジの前で気づくのである。





「無駄な物まで買ってしまっているではないか……」と。





もしかすると、買い物カートは便利なアイテムと見せかけて、購入者に余分な買い物をさせるという、恐ろしい妖怪なのかもしれない。しかも、購入者はほとんど無意識のまま、過剰な購買行動に走らされる。全くの無自覚のまま余分な買い物をしてしまっているのである。ほとんど忍者の幻術にかけられてしまったのと同じ状況である。


それからというもの、僕は正気に戻って買い物カゴを愛用している。買い物カートなんかには目もくれない。無視。断固無視。多少腕が悲鳴をあげようとも、僕は買い物カゴを使う。



「腕が痛くなってきたな。そろそろ引きあげるか」



そのようにして、腕の痛みを拠りどころにして、僕はお金の無駄使いを減らしている。これからも僕は、買い物カゴと共に誇り高く生活していこうと思う。熱く、熱く同志を募っている。

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