どろかわわかめ


むかしむかし、黒くてにごった川がありました。
中は、たくさんの泥でよどんでいて、森の動物やひとびとは、いつも遠巻きに見ているか、むかんしんでした。

川は、変えようとは思いませんでした。
自分は悪くないのに、なぜ皆に好かれないんだと、憤りました。
もっと汚い川もあるじゃないか、とほかの川と比べました。
自分が何かしても意味が無いんだ、とあきらめました。

川は、ぽろぽろ泣きました。
なぜ自分はほかと同じにできないんだろう。
なぜなにかを好きになれないんだろう。
このままなくなったって、だれも気づいてくれないんじゃないか。

ぽろぽろ泣いた顔が、みっともなくて、川はまた泣きました。



しばらくして、ぼんやりしていると、自分がほんの少し海と繋がっているのが見えました。
光に反射した水と、ちゃぷちゃぷ揺れる波。

嗚呼。きれいだ。
川は目を細めて、眺めました。

嗚呼。

なんてうらやましいんだろう。

川は、軽い気持ちで、泥でふさいでいた入口を、
ほんのすこしだけ
開けてみました。

きれいな水や、するどいガラスや、わかめがいっぺんに流れこんできて、ざばあっと川は揺れました。

ざぷぅん、ざぷん、ちゃぷ、ちゃぷ、ちゃぷ

もぐると、わかめがゆうらりゆうらりと、ただよってきました。
わかめは、その身体をゆらゆら、揺らしながら言いました。

「花だね」

川の表面の泥が、波でさらわれて、一輪の花がありました。

「花だ。」

小さくて、ふんわりして消えそうな、そしてとてもきれいな花がありました。
わかめは言いました。
「この花。」

川は言いました。
「ぼくも気づかなかった。」

「きみ、この泥さ。」
「この泥が、たくさんの栄養を含んでいるのさ。」

「とてもいいね。」

川は、花を波でそっとなでました。

川は、かわらず泥だらけのままでした。
中はにごっていて、よどんでいるところもたくさんあります。
暗くて、中もぜんぜん見渡せません。

でも、川は、花を見つけました。

どこかに花の種があると、川は知っていました。
わかめは、上の泥をやさしくはらってくれました。
川とわかめは、涙を流し、汗をかき、種がどこにあるかもわからないまま、そだてました。

ふたりはたくさんまちがえました。
花の上に泥をかぶせて死なせてしまいました。
そのたびに、ふたりは泣きました。
種が見つけられず、ふたりは嫌なことばをぶつけあいました。
そのたびに、ふたりはきずつきました。

「花だ。」

今、もうひとつの花が咲きました。

まだ、川の中にはたくさんの泥がありました。
花は、ぽつり、ぽつりと咲くくらい。

それでも、川は、川のことが好きでした。






#wakame


本を買います、って言える知的な人になりたかった。多分あれこれ使い道を夢見たあとに貯金します。