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ガンジュ再生への道のり③

第3話 ガンジュ乗っ取りに動く魔界軍、そしてもうひとつの勢力が……?

↓第1話、第2話はこちらから


宮沢社長が手放したプロレスリングガンジュの株を魔界軍がTOB(公開買い付け)により取得する声明を発表した。宮沢社長はミヤコ・マイルド扮する経営コンサルタントに騙されていたと
気づき、本社事務所で嘆いていた……。

宮沢社長:
「うわあああ……もうおしまいだあ。どないしよ……」

事務:
「と、とにかく早く株式を買い戻しましょうよ! せめて半分は持ってないと本当に乗っ取られちゃいますよ!」

宮沢社長:
「いや無理だってぇ……そもそも資金繰りのために発行した株なんだもん。そんな余裕ないってぇ」

事務:
「次の興行までまだちょっと時間ありますから、とにかくお金を集めるだけ集めるんです! 社長のロールスロイスも売りますよ!!」

宮沢社長:
「ダメだよぉ、あのロールスロイスは団体としての箔つけるために買ったんだから。っていうかあの車も担保にして金借りちゃってるからダメだよ」

事務:
「なにやってんだアンタは……」


宮沢社長:
「とりあえず、キミがヤマネコとジン・ギスカンのところへ行って説得してきてくれよ! あのバカどもが諦めてくれさえすればいいんだ」

事務:
「イヤですよ。なんで自分で行かないんですか……」

宮沢社長:
「オイオイ、社長命令だぞ! 行かなきゃまずはお前の給料からコストカットだ!!」

事務:
「(ブチッ)……へ~え、そんなことおっしゃるんですね。私がいないと経理も事務手続きもなにもできないのに……」

宮沢社長:
「あっ……いや、ちょっと言い過ぎた。ごめんね。でもさ、ぶっちゃけ?  君じゃなくても代わりの事務員雇えばさ? 別に? ね? とりあえず今回一回だけさ、行ってみようよ」

事務:
「べ~っつに、考えてみれば? 社長がヤマネコさんに変わっても、私には関係ありませんよねえ。魔界軍にとっても、社長よりも団体運営の実務ができる私は必要でしょうし……」

宮沢社長:
「な、な、な……なんてこと言うんだキサマ!」

事務:
「……社長、私これから溜まってた有給使わせていただきますね。代わりが雇えるんなら、しばらく私は居なくてもいいでしょうし~」

宮沢社長:
「な……ちょ、ちょっと待ってぇ~~!!」




県内某所、魔界軍本拠地にて。ガンジュ乗っ取りに向けて株の買収が進んでいる様子。


乙部:
「市場の様子はどうだジン・ギスカンよ」

ジン:
「最初は想定通り目立った動きはありませんでしたが、MAKAIホールディングスと付き合いのあった個人投資家に買わせていたガンジュ株を一気に買い取ったら、皆大きな波を察知したかどんどん問い合わせが増えてます。もう15%は我がMKGクリエーツが所有してますよ」

乙部:
「資金は問題ないだろうな」

ジン:
「ミヤコさんがメガソーラー事業へ売却する土地をまとめてますが、もう詰めのところまでいってるようです」

ミヤコ:
「……はい、都です。金崎さん、入金は確認できましたか? ……ええ、こちらは問題ありませんよ。また改めてお礼に参りますよ」

乙部:
「金崎……金崎豊一か? ガンジュ本隊の」

ジン:
「ああ、金崎がメガソーラー建設予定地の地主のひとりだったことには驚きましたが、まあアイツはアホですから。なにも疑わなかったですよ」

乙部:
「フン、プロレスもいまいちだったが、頭も悪いとなると……救いようがない。彼奴のような人生は歩みたくないものだ」



ミヤコ:
「登記の書き換えが済むまではもう少しお付き合いをいただきますが、よろしくおねがいしますね」

金崎:
「ええ都さん……くれぐれも、あのお約束のことは……」

ミヤコ:
「わかっておりますとも。土地のほんの一部だけは金崎さんが今後もお持ちいただくということで。ご先祖様の想いを大事にする御心に敬意を表しますよ」

金崎:
「すみません。売却の手続きがほぼ済んだところで、わがままを言ってしまって……」

ミヤコ:
「いえいえ、かまいませんよ……それでは失礼します」

金崎:
「はい、失礼します」



金崎:
「これでよかったんですよね? パーカーさん」

パーカーと呼ばれたスーツの男:
「はい、これでバッチリですよ。このWRパーカー、間違いはありません」

金崎:
「本当にあの時……あなたが助けてくれなかったら、何も知らず土地を売ってしまうところでした」


【一週間前】

パーカー:
「金崎豊一さん、先日あなたを訪ねた二人組は……あなたの所有する山の土地の売却を求めた……間違いないですね?」

金崎:
「……そうですが、あなたは? どこかで会ったことがあるような……」

パーカー:
「行政書士をやっております、WRパーカーと申します。あの二人にはかねてからきな臭い動きを感じ取っておりまして……居ても立ってもいられずに金崎さんにお会いしたく参りました」

金崎:
「きな臭い動き? あの方たちはウチの山を買い取って果樹園をやると言ってましたが……」

パーカー:
「あの方々はね、メガソーラー事業にあなたの土地を売ろうとしてるんですよ」

金崎:
「ええっ、メガソーラーって……太陽光発電ですか!?」

パーカー:
「あなたの山の土地のまわりはすでに連中が……MAKAIなんちゃらって合同会社がすでに買い占めてます。最後が金崎さんの土地だったんですよ」

金崎:
「はあ……メガソーラーなんて一言も言ってなかったけどなあ」

パーカー:
「金崎さんはもしや、メガソーラーに嫌悪感を抱いておりますか」

金崎:
「…………いいや、正直に言うと別に構わないですよ。管理に金がかかるというのはあの二人の言う通りですし、環境や災害のリスクのこと考えるとやたらと建設するべきではないと思いますが……土地を所有している者からすると、考えは変わりますよ。タダ同然の山をもつことの苦労はばあちゃんから聞かされていましたから」

パーカー:
「ふむ…………素晴らしい」

金崎:
「え?」

パーカー:
「いえね、私もこのメガソーラー建設を阻止したくて動いているわけじゃありません。環境や災害リスクという対策は国家がとるべきことですから」

金崎:
「じゃあ別に売ってしまってもいいってことですよね」

パーカー:
「いいえ。私が居ても立ってもいられないと言ったのはですね……買取価格が適正ではないからです」

金崎:
「価格……ですか?」

パーカー:
「私、金崎さんのまわりの土地がいくらで彼らに渡ったか、調べてきたんです。そして、メガソーラー建設の事業体がいくらであの土地を買い取ろうとしているのかも。連中の買取価格は、メガソーラー建設の事業体への売却価格に比べたら雀の涙程度のものでした」

金崎:
「……でもバラバラの土地の価格と、まとまった土地の価格が違うのは当たり前なんじゃないですか?」

パーカー:
「善人ですねえ、あなたは。私が言いたいのは、長年その土地を守ってきた人たちが、何者とも知れぬ連中にいいように騙されてるってことですよ。連中は土地の所有者を移すだけで何千万、何億のカネを得られるんですから」

金崎:
「はあ……それであなたは、何をしようというんですか?」

パーカー:
「私はただ、金崎さんの助けになりたいだけです。土地の所有者として主張できる権利……最大限に使いましょうよ」



金崎と行政書士のパーカーは金崎が所有している山にいた。

金崎:
「ここの『たった80坪の土地を残して、あとは全部売ってしまう』……言う通りにしましたよ。パーカーさん」

パーカー:
「ええ、オーケーです。連中からはどれくらい振り込まれました?」

金崎:
「まあ……家のリフォームと、ばあちゃんの車を買うくらいは」

パーカー:
「『十分もらえたけど、ちょっと少ないかな? まあこんなものなのかな』という感想を抱いたでしょう。本当は全然少ないですが、今のところはいいんです。あなたを他の土地所有者と同じくバカだと思わせておくことが大事なんですから」

金崎:
「あの……パーカーさんは、何をするつもりなんですか」

パーカー:
「何を、といいますと?」

金崎:
「俺なんかを助けて、何のメリットがあるのかなって」

パーカー:
「まあもちろん、今回のことが上手く進めば報酬を頂戴したいところではありますが……一番は、『あなたと関係をつくること』ですよ」

金崎:
「え……?」

パーカー:
「私が、というより『私たちが』ですがね」



突然強面の白スーツの男が現れ、一見してカタギに見えない雰囲気に金崎は失禁しそうになった。


白スーツの男:
「どうも、金崎さん……ウチのパーカーは粗相しませんでしたかァ」

金崎:
「うおっ、ヤ○ザか!?」

白スーツの男:
「ヤ○ザじゃあねえ。きちんとしたカタギだよ」

金崎:
「普通の一般人は自分のこと『カタギ』って言わないんじゃないかな」

パーカー:
「ご苦労様です、カシラ!」

カシラと呼ばれた男:
「カシラぁ呼ばれておりますが……うちはまっとうな会社ですから」

金崎:
「(まっとうな会社にカシラと呼ばれるような役職はないんじゃないかな)」

カシラと呼ばれた男:
「パーカーの言うた通り、今回金崎さんに声かけさせてもらったのはカネのためだけじゃあない。金崎さんとの『縁』をつくるためです」

金崎:
「えっ、いわゆる『盃』かわす……ってコト!? なんで? なんで俺が?」

カシラと呼ばれた男:
「俺ぁカタギだから盃にヤ○ザほどの重みはない……だがヤ○ザと同じく人の縁はカネより価値の重いもの……そう俺は思ってます」

パーカー:
「ハッキリ言って……金崎さん、あなたプロレスラーとして壁にぶち当たってるんじゃないですか」

金崎:
「…………!」

パーカー:
「ハッキリ言ってあなたが居なくてもガンジュの興行はまわってます。他団体選手も大勢参戦して、同じ本隊には東山拳吾という将来を期待される若手もいる。そう思ってますよね」

カシラと呼ばれた男:
「しゃべりすぎじゃ、パーカー。金崎さん、悪いが俺たちはアンタをガン
ジュのレスラーと知ってて接触した。そしてこの土地の売買を巡るカネの縁、人の縁、時の縁……すべてを俺たちが優位に立ち、流れを掴むため、俺たちは動いている」

金崎:
「………………」

カシラと呼ばれた男:
「金崎さん、アンタの力が俺たちには必要なんじゃ。俺たちと組んでくれ」

金崎:
「………………」

パーカー:
「この土地の売買をめぐる件、私たちにもメリットがあります。ですがそれ以上に、あなたに報われて欲しい。そう思っています。組んでください、お願いします」




金崎:
「俺は………………」

                       ~つづく~

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