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PSA鑑定に送るワケ

PSA鑑定とは

米国企業であるPSA社が提供する、トレーディングカードの状態を複数の鑑定士が精査し、10段階評価のグレーディング(格付け)を付与しつつ、密閉ケースに封入してくれるサービスである。費用は1枚3,000円前後からで、カードの市場価格に応じて変わる。もともとはスポーツカードの鑑定が主流だったが、昨今のTCGブームによって裾野が広がり、ポケモンカードや遊戯王などの鑑定シェアが飛躍的に増大している。

なぜPSAに出すのか

PSA鑑定に賛否両論あることは重々承知しているが、筆者は諸々のリスクを考慮した上でなおPSA鑑定に出したい派である。なぜPSA鑑定に出すのか、それこそ人の数だけ理由があるだろうが、自分の中では主に以下の3点である。

  • 保存性の向上

  • 高得点を狙うゲーム的魅力

  • 流動性の向上

保存性の向上

PSA鑑定に出すというと、付加価値をつけての転売を疑われがちだが(とはいえこれも結構なリスクを負っての転売なので、個人的には好きにすればいいのではと思う)、自分が鑑定に出す最たる理由はこの「保存性の向上」である。

とにかくある程度金銭的価値があるかもしれないカードを、ローダーやファイルに入れておくだけではなんとなく怖いのである。我々コレクターは基本的に神経質な人種が多いと思われ(メルカリで取引をご遠慮されがちな人種ですね)、「うっかり落としてローダーからこぼれたらどうしよう」とか「ファイルの中で変なことになったらどうしよう」という心配に常に悩まされているのである。

この点、PSAでは超音波溶接されたプラスチックケースに封入してくれるので、湿気や衝撃から(完璧ではないにせよ)かなりの程度保護を期待でき、「カードの保管」ではなく「ケースの保管」という切り替えができるので、保管に関する悩みは相当低減できると感じている。もちろんケースを落としたり踏んだりすれば破損のリスクはあるが、それでも市販のスクリューダウンやローダーに比べるとかなり安心感があるのではないだろうか。

ケースの安心感によって、コレクションを鑑賞したり、セキュリティを考慮して貸金庫に収納する際の持ち運びなどもかなり気の使い度を軽減できるので、コレクターのストレス軽減に大いに役立つサービスだと考えている。他人にグレーディングされるのが気に入らないという人は、真贋鑑定だけ(Authentic only)してケーシングしてもらえば良い。

高得点を狙うゲーム的魅力

ここ1〜2年に出たカードならばともかく、10年、20年前のカードを超美品で発見したときに、保存性に加えて鑑定9-10を狙うのは、ある種競技的な面白さがあると思う。

ここは一番価値観が分かれるところなので、「見知らぬ他人に評価をしてもらうことに意味があるのだろうか?」という意見があるのももっともだと思うし、それを否定はしない。他人の評価や市場価値に振り回されることなく「自分がどう思うか」だけを軸に集めているコレクターは、お世辞抜きで尊敬する。

とはいえPSAは曲がりなりにもその道で食っているグローバル水準の企業であり、TCGに関しての歴史はそれほどでもないにせよ、スポーツカードのジャンルにおいては相応の歴史と信用を有しているので、カードショップやメルカリバイヤーの自称美品やSランクとは違った一定の信用度合いがある、と考えている。というか、そう考えている人たちが一定数いる、というのは事実であろう。

よって自分は、PSAの鑑定基準に照らして、発売から相応の年数を経過したカードで高得点を得ることに価値を感じていて、それを成し遂げることで自分の中での達成感を獲得し、ある種の承認欲求を満たせるのが楽しいのである。高評価による経済的付加価値の向上が、これらの達成感や承認欲求を下支えしていない、と言えばもちろん嘘になるが、結局何だかんだお気に入りのカードは死ぬまでは手放さないので、そればっかりというわけでもない。自分に限らず、鑑定愛好家の方にこうした考えの方は多いのではないかと勝手に思っている。

極めて個人的な考えであるが、自分の中では「学歴」や「資格」に近い感覚で捉えている。どちらもそれだけあれば良い、というものでもなく、それが全てでもないが、それなりに難易度があり、取得に対しての社会的評価もあり、取得した際の達成感や経済的な優位性の獲得(につながるかもしれない)などといった要素も近しいのではないか。

中には高グレードの取得が極めて困難なカードがあり(旧裏通信キャンペーンプロモ、レンチキュラーのデオキシス、紙質がアレなBW期、センタリングが死んでるデルタ、遊戯王初期系、デュエマの裁断が厳しい時期など)、この辺はもはやオリンピックに近いような難関であるが、取得できたときの喜びはさぞひとしおであろう。このへんの沼は底無しなので、迂闊には近づかないことをおすすめする。 (気力と財力がどれだけあっても足りない)

流動性の向上

コレクターは一度入手したら死ぬまで手放さない、というイメージがあるかもしれないが、それは人によるし、たいていのコレクターは適宜売買を行っていると思う。石油王ではないので欲しいカードがあれば、カードを売って資金調達するし、手に入れても「なんか違うな」ってものもあるわけで。

メルカリで「コレクション入れ替えのため売ります」という販売者は多く、もちろんただの方便としてこのフレーズを使うバイヤーも混じっているとは思うが、いいコレクションを持っているコレクターほどこの「入れ替え」をうまく活用して貴重なカードを手に入れているようにも思える。

カードを売るという行為は、実際やってみるとわかると思うが、非常にリスクとコストが高い。そもそもプレイ用の価値は無いものがほとんどであるから、傷や状態によって大きく価格変動する上に、そこに主観も大いに入るし、場合によっては悪意も入ってくるため、この状態なのでこの価値、というのが完全にファジーであると思う。

自称「完美品」だの「状態S」は結構当てにならないことも多いし、「良品」「プレイ用」「見えない傷」など、もはや明確な定義もままならない謎フレーズが飛び交う魑魅魍魎が跋扈する世界である。

割り切って店に売るのも楽ではあるが、当然自分の取り分も少なくなるのもなんだか惜しい。かといってフリマはリスクも手間も大きい。そういうとき、PSA鑑定品は売るにしても買うにしてもだいぶ気楽である。

「概ねこれぐらいの状態である」というコンセンサスがある程度成り立っているので、誤魔化しや主観が入りにくく、裸のカードと比べてリスクやコストが低くなる。もちろん同じグレードでも多少の違いはあるが、ガチ主観(&悪意)のぶつかり合う世界よりはよほど優しいのである。というか、疲れない。期待を上回ることはまず無いが、大きく下振れすることもほとんど無い(無いとは言わん)。この安心感がPSA鑑定品の流動性を大きく高めていることは間違いない。

特にコレクション歴が長い人ほど、この安心感がいかに大きなものか実感できると思う。何度も悪意がある相手に騙されたり見落としたり、その度に見知らぬ相手と交渉したり戦ったり、運営に訴えたり、うまく行かず落ち込んだり自分の見る目のなさを悔やんだりと、楽しむべき趣味のためになぜか精神的コストを負うのがだんだんアホらしくなってくる。いかに自己責任の世界とはいえ、扱うものの価格に対して悪意者がかくも跋扈しやすいのは、骨董や美術品の世界では「そんなもん」なのかもしれないが、個人的にはあまり納得がいかない部分もある。金で買える安心ほど安いものはない。俺たちはそのために働いてんだ。

であるからして、第三者機関による一定の基準が保証されたものを売買できるのは、とにかくぐっと気楽である。(最近は鑑定品の偽物も出てきているから油断はできないが)

多くのコレクターが鑑定品の持つこの「安心感」に気づき始め、それが鑑定品の流動性を大きく高めていることは事実だと思う。もちろん、PSA10でも白かけやセンタリングのズレなど難があることもある。だが、自称美品だのすり替え防止のため返品お断りだのの魑魅魍魎を相手にするより、多少の難ありPSA10のほうがよほどローリスクである。魑魅魍魎と戦いながら完美品を探す体力気力がある人は本当に尊敬するが、俺は何だかもう疲れてきたので、カードによるが「鑑定品というゴール」があるのは何だかんだホッとするのである。

鑑定品の未来

大きく出たが、何だかんだで日本での鑑定品の評価はまだ落ち着いていないのではないか。昔から鑑定品に馴染みのある人は昨今の高騰の流れを冷ややかに見ているかもしれないが、鑑定品は良くも悪くも、一定の歴史と信頼を有する第三者機関が独自の基準に照らして「このカードはこれぐらいのグレードですよ」と言っているだけで、本来的にはカードそれ自体の希少性や、状態がどれぐらい保たれやすい背景を持っているか、人気があるかどうか、などカードそれ自体の持つ本来的な価値の方が要素としては意味が大きく、鑑定自体によって付加価値が増大するかどうかは、やはり本来的な価値に依拠するはずである。

今はこのあたりの認識が進んでいない部分もあり、「PSA10」=「とてつもない付加価値がある」ぐらいの誤解をしている人もそれなりに居そうで、それが鑑定品バブルともいうべき状況を引き起こしているように思われる。

個人的には、先述した通り「鑑定」の意味は、主として保存性・流動性の向上にあるのであって、鑑定されて高グレードなら何でも経済的付加価値が増大するわけではない、という認識が進めば、相応の価値に落ち着くタイミングが来ると思われる。

他方、以前どなたかが指摘していた通り、カードの状態に関して「ファジー」である方が「利鞘」が大きくなると考える主体もそれなりにいると思われるし、プレイヤー的にはカードがどんどんケースに封印されてしまうのでは困ってしまうから、プレイ需要や新弾を中心とする非鑑定品は実店舗を持つカードショップで、コレクション需要を中心とする鑑定品は「規模の利益」を実現できる、中立的な取引所を中心としたオンライン上で、という棲み分けが進んでいくのではないか、という気がしている。

この点、事実上PSAと連携しているように見える「カルドバ」は、既存のナントカやカントカといったある種の色の付いたプレイヤーに比べてかなり信頼を得やすいのではないか、と個人的に期待している。「東京トレカ取引所」といった名称などは明らかに証券市場を意識しているし、代表の経歴(名門バークレイズの社債ディーラー!)からしてもそのあたりの感覚/嗅覚はしっかりしたものを持っていそうである。「プラットフォーマー」としてだけ食っていく覚悟でしっかり体制整備をする会社ならば、ついていくコレクターはとても多いんじゃないかと思う。少なくとも派手にオリパは売らないんじゃないかな。売ったら爆笑します。

もちろん、厳格な中立性が求められる鑑定機関とは異なり、鑑定品の取引自体はそこまでの中立性は必要ないとは思うが、トレカのコレクション品が一時的な投機対象にとどまらず、次第に社会的価値や影響力を高めていくのであれば、扱う側にも相応の品格や倫理観が求められるようになっていくようには思われるからである。証券会社も昔は「株屋」などと言われやりたい放題の時代もあったようだが、今日では厳格なコンプライアンスを求められているのと同じように(実態はどうあれ)。

ところで、よく言われる日本人の「最高グレード以外認めない」という気質も根強いものがあると感じ、10と9の価格差が縮小していくのかと言われるとむしろ広がっていく可能性も無くはないかな、という気がする。ただ、トレカのグローバル化を考えると、もし日本において9以下のグレードが明らかに安価であれば、海外需要が喚起されたり、国内でもその不均衡に気づく層などがいるであろうから、ある程度はアービトラージ的なものが進んでいくようにも思われる。ぶっちゃけ8や9はかなりきれいだし、モノによっては6-7でも全然満足できますよ。

最後に

自分はPSAが好きだが、BGSも好きだしCGCも好きである。ARS鑑定にも興味があるし、鑑定品でないカードも大好きである。ケース越しの良さもあれば、スリーブから出して眺める良さもある。これらは背反するので悩むこともある。
いずれにしても、鑑定好き嫌い/肯定否定を問わず、本記事がトレーディングカードコレクションを趣味とされる紳士淑女諸氏にとって何らかの参考になれば幸いでありつつ、参考にならなかったとしても責任は取りかねますし、また特定の意見や考え方を推奨するものでもなく、否定するものでもありません。あくまでも、私個人の鑑定に対する考え方を妄想的に綴ったものとしてご笑覧願いたい(リスクヘッジ)。

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