ブンメイ!!

第二話

 クラムはやっとの想いで隠れるのに良さそうな洞窟を見つけた。傷がズキズキと痛む。出血を止めるためにクラムは服を脱ぎ背中に巻いた。こんな経験は初めてだった。怪我をしたらすぐに病院に行くなりして治療をしてもらえた。だが今はその病院もなくひとりでなんとかしなければならないのだ。
 クラムは洞窟内で寝床をこしらえ横になった。ひどく疲れていて少しの間だけでも夢の中に逃げたかった。
 意識が遠のいていく中で妙な音が聞こえてきた。シャリシャリというような音がこちらに近づいてくる。
(足音だ!!)
    クラムは咄嗟に飛び起きて身構えた。
 クラムの目の前に姿を現したのは歳が同じくらいの女の子だった。
「き、君は?」
「あ、ごめんなさい。びっくりさせて。あなたがここに入っていくところが見えたから」
(見られていたのか)
「私はスワン。おそらくあなたと同じ選ばれた者」
「ならぼくを倒しにきたのか」
「違うよ。あなたが怪我をしていたから」
「て、手負いだから倒しやすそうって?」
「違うってば。怪我を治したいの」
「え、なんで。敵同士なんだよ?」
「話したいの」
「え」
 スワンと名乗る少女は真っ直ぐな目でクラムを見つめている。
「私まだ、訳がわからなくて。あの人から聞かされた話しがまだ受け入れられない。だから同じ境遇のあなたと一度話をしたいの。ダメかな?あなたも同じじゃないの?」
   やっと話が通じそうな相手にクラムはホッとする思いがした。
「おなじさ。おなじだよ。ぼくも誰かと話したいと思っていた」

 スワンはクラムの横に座り怪我のようすを見る。
「ひどい怪我ね。でも大丈夫。治せそう」
「え、どうやって」
「私の文明には高度な医療があるの。このくらいの傷なら誰でもすぐに治すことができる」
  そう言うとスワンはクラムの背中に手をかざした。何をしているかはクラムには見えなかったが、背中の痛みがどんどんひいていくのを感じた。
「もう大丈夫。完治したわ」
「す、すごい。すごいね」
「ふふ、私の文明はこれくらいしか取り柄はないけど」
「いやすごいよ。ありがとう」
  そうお礼を言ったクラムの目からは涙が流れた。
「え、どうしたの」
「なんだか嬉しくて。うっ。久しぶりに人の優しさに触れた気がして」
「…私も。あなたといると安心する」
「よかった。君に会えて。ぼくの文明ではなんでも話し合いで解決するんだ。会話や思いやりが重要で、それが当たり前で。あんな話の通用しない相手は初めて見た」
「スーツの男の人以外に誰かに会ったの?」
「ああ、剣を持った甲冑の男だ。とんでもない奴だったよ。冷たい目をしていた」
「その人に傷をおわされたのね」
「うん。そうだよ。問答無用って感じだったな」
「私もここに来る前にスーツの人以外に二人の男性を見た」
「二人も?!」
「ええ。一人は全身黒いローブの人。何か魔法のようなものを操っていた。もう一人は全身が何かの機械で覆われていた」
「えぇ。なんだそれヤバそう」
「私は遠くから隠れて見ていたから気づかれなかった。二人が戦い始めた隙に逃げてきたの」
「それは、、、怖かったね」
「ええ。あなたもね」
   そう言うとスワンはクラムの背中に優しく触れた。その手に安心したクラムは急激な睡魔に襲われた。
「安心したら眠気が…」
「疲れているのね。少し休みましょう」
「うん」
   クラムは横になるとすぐに寝息をたてた。
 その横でスワンはクラムをじっと見ている。しばらく考えごとをした後に服の中からメスのような刃物を取り出し振りかざした。



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