藤沢あすか

散文書き。中学生の頃からお話を書くのが好き。子どもの頃のあこがれは、折原みとさん。少女…

藤沢あすか

散文書き。中学生の頃からお話を書くのが好き。子どもの頃のあこがれは、折原みとさん。少女小説と栗本薫さんで育つ。小説を学ぶため、2回専門学校に通う。その頃のアーカイブを残したくて、note始めました。古いものがメインですが、新しいものもリハビリしながら書いていきたいです。

最近の記事

ラブ色キッチン

引越し屋さんのトラックが行ってしまうと、がらんとした部屋がやたら広く見えた。 この部屋に六年も住んだんだな。もっと居た気もするけど。あっという間だった。 ほこりの積もる和室の隅には、家具の後ろに落ちて取れなかったものが取り残されていた。せんたくばさみや、ヘアゴム、使いかけのマニュキア、使っていない綿棒やカット綿まである。一度も掃除してないんだな……。 その中に、いちまい、写真があった。ほこりをよけながら拾い上げる。 はしっこがよれている紙切れの中には、微笑むカップルが写ってい

    • オレンジ

      「上にまいります」 白い手袋をした指先はピッとまっすぐ上に。背筋もまっすぐに伸ばして。お客様には笑顔で。 土曜の夜、閉店まであと三十分となった百貨店に、これからご来店のお客様は少なくってきた。 「このエレベーターはご利用階止まりでございます」 「開」のボタンを押したまま、一歩外に出て声をかける。中に入っていくお客様は五名程度。 今日のお仕事終わりまであと一時間ちょっと。なんて雑念はだめかな。 エントランスの様子を見て、もう利用される人はいないだろうと見切りをつけた。「開」から

      • それほどでもない

        食べるのが好きだ。おなかがすくと集中力が目に見えてなくなるのが自分でわかるので、仕事のときは一時間に一回はお菓子をつまんでいた。三食もしっかり食べる。時間がずれたり、一食でも欠けようものなら機嫌が悪くなり、「おなかすいた……」を繰り返す自分が止められない。 会社などで毎日同じ人と食事をしていると、だいたい初対面から三日目くらいに「よく食べるね」と言われる。見かけですずめの涙くらいしか食べないと思われるらしい。体の中に栄養をたくわえられないから食べるのであって、私にとっては当

        • 鮭児(けいじ)

          北海道へ行ったときのこと。必ず寄る居酒屋があって、七年ぶりの札幌の夜はそこへ行くことにした。北の大地はおいしいもの満載で、限られた時間のなか何を食べるか非常に迷う。今回は、ジンギスカンに行った後、二軒めに居酒屋に行くことにした。 東京ではありきたりなダイニングバー風の店内。カウンターに案内される。目の前にはホタテや鮭、海老なんかが山積みになっている。その左手の炭火の上には、カニやシシャモが火にあぶられていた。ジンギスカンでたらふく羊を食べてきたにもかかわらず、私と友人は思わ

        ラブ色キッチン

          30年。また一歩。

          藤沢あすか、という名前を付けたのは、中学二年生の時。 普通に街で呼ばれても困らないように笑、好きな名字と名前を付けました。 いつか、本名と同じくらい、呼ばれる名前になりますように。 いつか、この名前で世の中に出られるように。願いを込めて。 お話を書くときにこの名前を使うようになって、初めは友達に手書きのノートを読んでもらって。(パソコンとかない時代なんで) それから、友達にワープロ打ちしてもらって、コンビニでコピーして、ホチキスで留めて、 そんな感じで作った本を、初めて友達

          30年。また一歩。

          【短歌】31歳 あこがれの君へ

          いのる先 きみの背が走り 抜けていく どうか勝利を どうか笑顔を 目を閉じて 割れる歓声に 耳をすます ぼくの戦いが ここから始まる ***** 目が合って ほほ笑みは一瞬で 通り過ぎ スポットライトの下の あなたへ手をのばす ==================== 恋愛短歌といっしょに保存されていました。 そのころ、好きだったサッカー選手と、好きだった遠くの人へ向けて詠んだ歌。 (ていうかサッカーって説明されてないので、短歌としてはダメですね) 小学生から中学生に

          【短歌】31歳 あこがれの君へ

          【短歌】31歳、恋唄

          改札前 じゃあねと手を振る きみの笑顔 背を向けてから 泣きたくなった この恋は きっと本物 泣きながら 不倫中の友が 焼酎片手に メール打つ 指先ふるえ 愛し君に さりげなく思い 届けと願う いつまでも 続くと思うな 若さと美 必死に逆行く アラフォーの姉 くたびれて 暗い我が家に 帰りつく コンビニおでんの からしにも泣きつ 還暦に 赤いネクタイ 照れ笑い 孫なんて遠い未来 ごめんね父さん 繋ぐ指 これが最後と 言い聞かせ 涙こらえる 旅立ちのホーム 花火よ

          【短歌】31歳、恋唄

          ヒカリ(短編小話)

          こんなところで何してるんだろう。 地下鉄のホームは人であふれかえっていて、来た電車に乗り込むと後ろからどんどん押された。すでに車内もそうとうの人が乗っていたから身動きはまったく取れない。 やだなぁ。だから残業すると帰宅ラッシュにぶつかるから早く帰りたかったのに。 いつもだったら定時で出られる仕事。今日は午後3時に課長に来客があって、そこのお茶出しでミスをしたから、その後こってりと課長にしぼられた。君はだいたい甘いんだよ、会社で働くってどんなことかわかってないんだよ。とかなんと

          ヒカリ(短編小話)