藤沢あすか

散文書き。中学生の頃からお話を書くのが好き。子どもの頃のあこがれは、折原みとさん。少女…

藤沢あすか

散文書き。中学生の頃からお話を書くのが好き。子どもの頃のあこがれは、折原みとさん。少女小説と栗本薫さんで育つ。小説を学ぶため、2回専門学校に通う。その頃のアーカイブを残したくて、note始めました。2024/12/01文学フリマに出店します!

最近の記事

トワ

新幹線に乗る、となると未だにちょっと心がウキウキするのは私だけだろうか。 すっかりきれいになった新横浜駅の新幹線改札を抜けて、売店をのぞく。周りに多いのはスーツにキャリーケースのビジネスマン。お仕事大変だなぁと思ってよく見ると、ビールをお弁当と一緒に持っていたりしてあなどれない。 はしゃぎまくって駆け回る子供たちを遠くに見ながら、ホームへのエスカレーターを上がった。その先も列車を待つ人たちであふれ返っている。 なんとかベンチにひとつ空きを見つけて腰を下ろすと、通り過ぎていく人

    • ティーンエイジ・ブルー

      そのとき、僕らの場所には他に誰もいなかった。 試合終了のホイッスルが鳴り響いて、ブルーのユニフォームを着た者たちが一斉に地面へくずおれた。その前を黄色のユニフォームの面々が笑顔で駆けずり回っている。なんてわかりやすい勝者と敗者。 一列に並んで、礼をしてお互いの健闘をたたえ合って。 「おまえ、動きいちばん良かったよ」 黄色の十番に声をかけられた。キャプテンの、瀬谷さん。県内でサッカーをやっている高校生の中で知らないものはいない。Jリーグの指定強化選手にも入っている、来年の今頃

      • キミウタ

         雨の日は嫌いだ。 あの子の声が聴こえないから。 水曜日の図書当番を、誰もやりたがらないから変だと思った。 授業は午前中で終わってしまうから、部活をやってる奴は当然来ない。おまけに優しいと評判の司書の先生は休みでいなくて、やたら仕事を押し付けたがる(彼女はそれで自分が有能だと思っているらしい)代わりの先生が来る。貴重な時間を図書室ごときに取られてたまるか、とみんな思ったらしく。 まぁいいや部活やってるわけじゃないし、特にすることもない、先生も仕事に慣れてしまえばそれほど無茶

        • 沢庵

          夕飯の買い物に八百屋へ行った。ほうれん草とたまねぎ、じゃがいもとえのき、木綿豆腐とついでにグレープフルーツも。 レジに並んでいたら、その前にあった「自家製漬物」が目に入った。ぬか漬けが野菜まるごとの姿でバットにごろごろしている。 あまりにたくあんがおいしそうだったので、ビニール袋に一本取って入れた。 家に着いて買い物袋の中身を開けたとき、そうかこれを全部ひとりで食べ切るのかと今更気付いた。ひとり暮らしの真実。何度も自炊はしていたけれど、ここのところ仕事が忙しくて忘れていた。

          「がらん」

          「ただいまぁ」 私は家に帰ってきて二回ただいまを言う。最初は玄関で、これはたいてい母親の「お帰り」が奥の部屋から返ってくる。 「……ただいま」 そして二回め、返事は、ない。長年あったのだけれど、ここ三か月は、私はしいんと静まり返った自分の部屋に入る。三か月前までは私と妹の部屋だった。 妹は短大を卒業すると同時にじゃあ私ひとり暮らしするねとあっさり二十年間住んだこの部屋を出て行った。最初は旅行バッグひとつで。ふらりと帰ってきては洋服や雑貨をそのバッグに入れ、持ちきれない収納用品

          とびきりの、月下。

          じゃあね、を言って背を向けた瞬間、あまりの自由さに空をも飛べるかと思った。 改札を抜けてホームへ消える彼を見送ることもなく。もう他人だから。深呼吸をした。細胞が、生まれかわって新しくなる。そんな気がした。 駅前の雑踏をすり抜けながら、そっか家まで歩けばいいんだと思い付いた。顔に当たる風は、真冬のように痛くない。コートの襟をしっかり立てて、マフラー代わりのストールを巻き直した。 バスターミナルをななめに渡って、ドラッグストアの店頭にあるカゴの中が気になって立ち止まる。でも今買う

          とびきりの、月下。

          文学フリマの出店が決まりました!また配置場所などわかりましたら正式にお知らせします。わーいわーい。新作書きたい!!過去作品も見つけてきたので、ぼちぼちアップします。

          文学フリマの出店が決まりました!また配置場所などわかりましたら正式にお知らせします。わーいわーい。新作書きたい!!過去作品も見つけてきたので、ぼちぼちアップします。

          観覧車 

          「好きです」 その一言を伝えるために今日あなたと観覧車に乗ったの。 向かい側に座ったあなたは、小さな密室にすこし困ったような微笑みで、意外と涼しいねと言った。そのまま外の景色に目をやる。切り取られた静けさ。私は一人でこの心臓の音があなたに聞こえないかとびくびくしている。それくらい、狭い。 好きで好きでどうしようもないのに言えなくて、友達からは、意気地なしと怒られ、今日のデートで決めなさいと焚き付けられた。ひとのこと言うのは簡単。決意するのも簡単。ただ決定的なひとことを言うのに

          月下ニ咲ク

          洗濯物を取り込もうとベランダに出たときだった。 OLの家事は早朝と夜に限られる。朝に弱い私はもっぱら夜間にすべてを済ますことにしている。けれど限られた時間の中で、急がない洗濯物の取り込みはとかく忘れがちだ。 何日も物干し竿にかけられっぱなしのバスタオルは、すっかり乾いてぱりぱりになっていた。雨でも降りそうなら思い出すけれど、幸いここのところお天気が続いている。 よいしょ、と洗濯ばさみを外そうと竿を見上げたとき。 そのはるか上空に、青白い月が浮かんでいた。 もう昇ってだいぶ経つ

          ラブ色キッチン

          引越し屋さんのトラックが行ってしまうと、がらんとした部屋がやたら広く見えた。 この部屋に六年も住んだんだな。もっと居た気もするけど。あっという間だった。 ほこりの積もる和室の隅には、家具の後ろに落ちて取れなかったものが取り残されていた。せんたくばさみや、ヘアゴム、使いかけのマニュキア、使っていない綿棒やカット綿まである。一度も掃除してないんだな……。 その中に、いちまい、写真があった。ほこりをよけながら拾い上げる。 はしっこがよれている紙切れの中には、微笑むカップルが写ってい

          ラブ色キッチン

          オレンジ

          「上にまいります」 白い手袋をした指先はピッとまっすぐ上に。背筋もまっすぐに伸ばして。お客様には笑顔で。 土曜の夜、閉店まであと三十分となった百貨店に、これからご来店のお客様は少なくってきた。 「このエレベーターはご利用階止まりでございます」 「開」のボタンを押したまま、一歩外に出て声をかける。中に入っていくお客様は五名程度。 今日のお仕事終わりまであと一時間ちょっと。なんて雑念はだめかな。 エントランスの様子を見て、もう利用される人はいないだろうと見切りをつけた。「開」から

          それほどでもない

          食べるのが好きだ。おなかがすくと集中力が目に見えてなくなるのが自分でわかるので、仕事のときは一時間に一回はお菓子をつまんでいた。三食もしっかり食べる。時間がずれたり、一食でも欠けようものなら機嫌が悪くなり、「おなかすいた……」を繰り返す自分が止められない。 会社などで毎日同じ人と食事をしていると、だいたい初対面から三日目くらいに「よく食べるね」と言われる。見かけですずめの涙くらいしか食べないと思われるらしい。体の中に栄養をたくわえられないから食べるのであって、私にとっては当

          それほどでもない

          鮭児(けいじ)

          北海道へ行ったときのこと。必ず寄る居酒屋があって、七年ぶりの札幌の夜はそこへ行くことにした。北の大地はおいしいもの満載で、限られた時間のなか何を食べるか非常に迷う。今回は、ジンギスカンに行った後、二軒めに居酒屋に行くことにした。 東京ではありきたりなダイニングバー風の店内。カウンターに案内される。目の前にはホタテや鮭、海老なんかが山積みになっている。その左手の炭火の上には、カニやシシャモが火にあぶられていた。ジンギスカンでたらふく羊を食べてきたにもかかわらず、私と友人は思わ

          30年。また一歩。

          藤沢あすか、という名前を付けたのは、中学二年生の時。 普通に街で呼ばれても困らないように笑、好きな名字と名前を付けました。 いつか、本名と同じくらい、呼ばれる名前になりますように。 いつか、この名前で世の中に出られるように。願いを込めて。 お話を書くときにこの名前を使うようになって、初めは友達に手書きのノートを読んでもらって。(パソコンとかない時代なんで) それから、友達にワープロ打ちしてもらって、コンビニでコピーして、ホチキスで留めて、 そんな感じで作った本を、初めて友達

          30年。また一歩。

          【短歌】31歳 あこがれの君へ

          いのる先 きみの背が走り 抜けていく どうか勝利を どうか笑顔を 目を閉じて 割れる歓声に 耳をすます ぼくの戦いが ここから始まる ***** 目が合って ほほ笑みは一瞬で 通り過ぎ スポットライトの下の あなたへ手をのばす ==================== 恋愛短歌といっしょに保存されていました。 そのころ、好きだったサッカー選手と、好きだった遠くの人へ向けて詠んだ歌。 (ていうかサッカーって説明されてないので、短歌としてはダメですね) 小学生から中学生に

          【短歌】31歳 あこがれの君へ

          【短歌】31歳、恋唄

          改札前 じゃあねと手を振る きみの笑顔 背を向けてから 泣きたくなった この恋は きっと本物 泣きながら 不倫中の友が 焼酎片手に メール打つ 指先ふるえ 愛し君に さりげなく思い 届けと願う いつまでも 続くと思うな 若さと美 必死に逆行く アラフォーの姉 くたびれて 暗い我が家に 帰りつく コンビニおでんの からしにも泣きつ 還暦に 赤いネクタイ 照れ笑い 孫なんて遠い未来 ごめんね父さん 繋ぐ指 これが最後と 言い聞かせ 涙こらえる 旅立ちのホーム 花火よ

          【短歌】31歳、恋唄