‐女兵士ファムの懸念‐

クァァ……
一羽の烏が鳴いた。

彩冷える、彼誰時…
深い森の滝壺で
ミディアは木刀に石を括りつけ、剣術に励んでいた。

腰に布きれをつけただけの、あられもない姿である。

滝壺したたるの泉では、
おさな馴染みの女兵士
ファムが泉で水浴びをしている。

「ミディア、精が出るじゃない」

「ええ、そのうちあなたに追いついてみせるわ」

ファムは城が教われた時、ミディアと王妃の脱出を助けている。
女であるせいか、怪しい幻惑は効かなかったようだ。

「でも今のあなたと私では、
グアヴェスに立ち向かっても生きたまま囚われるのがオチよ……。
もっと兵力がいるわ」

「そうね……もっと私も強く……」

その時付近の茂みから物音が……

ガサ…ガサ…

「え……そこにいるのは誰!?」

誰かに覗かれているようだ、葉が不自然に揺れた。

「ファム……気をつけて!武器を持っているわ」

「人……!?」

茂みがキラッとひかると……斧を持った白髪の大男が現れた。

「ずっと見させてもらったぜ……」

「山賊!?」
ファムは何も身につけていないが、戦闘体制にはいった。

「ファム!使って!」
ミディアは木刀から重りの石を取り、ファムに投げ渡す。
ヒュン……

パシッ!
「ありがと。……これで戦えそうね!」

「ああ……?
そんな木刀で向かってくるつもりか?
それに……、

戦うつもりはねぇよ」

「だったらその斧を捨てなさい!」

「あ、そうか、
……ほらよ」
男は斧を地面に置いた。

「信用するわ」
ファムも木刀を離した。

「オレは山賊じゃねえさ、
この森の近くの街に住む材木屋だ。
……フフ……久しぶりに目の保養をさせてもらったぜ。

あんた身体のあちこちに傷はあるが、程よくくびれた美しい肢体だ……。

そっちのお嬢ちゃんはまだ幼い体型だが……、
まあそういうのが好きなやつもいるだろうさ」

「はあ……ミディア……
この山賊は単なる……覗きね。
私達をどうこうしようって腹じゃないわ」

「でも、ずっと見られているのは嫌ね。……帰っていただいて……」

ミディアは今になって何故か怒っているようだった。

「……ああ、そろそろ行くが、
若い女2人でこんなとこにいると、肛魔城の兵がさらいにくるぞ」

「フ……ご心配なく、私達の目的は肛魔城に攻め入ることだから」

「大人をからかうなよ。オレの家の隣の娘はな……
目も眩むような美女だったが……」

「どうしたの?」

「兵士に城に来るよう言われ、行ったのさ」

ミディアは怪訝な顔つきになる。
「そんな……断ったら……家族が拷問にかけられるのですよね……」

「ああ……それで5日後に……なにをされたのだか……
オムツを着けて帰ってきてな……」

「う。酷い……、ファム……」

「ええ……悪評を聞くに、何をされたかあらかた検討はつくわ」

「その娘……今でもオムツが外せないようだ……」

「許せない……」

「材木屋さん、
ソフィア姫はどうなっているかご存知?」

「噂では、城が墜ちた後だ……。
連日、ソフィア姫の悲鳴が浣……なんだったか……。
とにかく特殊な拷問部屋から
くぐもった苦しむ声と、泣き叫ぶ悲鳴が響いていたらしい。
……あとは良く知らん」

どこで肛魔城の者が潜んているかわからない世の中だから気をつけろ。
そう告げて男は去って行った。

「普通の者には……攻め入るというのは現実離れして聞こえるようね。
でもグアヴェス側もあの魔導師ひとりで戦況をひっくり返したのよ……、
こちらも手練れを集めれば……」

ミディアはうつむいていた。
「…………」

「あ……ソフィア様は、殺されていないようね。よかったじゃない」

「え……。ええ……。
早く私達が救いだしてあげなければ……」

ファムは街の悪評で感づいていた……。
ソフィアは、きっと浣腸室と呼ばれる拷問部屋で、
浣腸拷問なるものを受けていたに違いない。

グリセリンと呼ばれる薬を使用し、
美女のはらわたを絞り上げるという、いやらしい恥辱拷問だ。

嫌悪感で鳥肌が立つ。

(やはり美しいソフィア姫にグアヴェスは興味を持ったか……
しかし、それも2年前のこと……
懸念はグアヴェスがソフィアに飽きていないだろうかという点……)

「さあ!ミディア、先を急ぎましょう!」

「そうね……、あの男が去っていった方角が街ね」

「ええ、貿易港スクトリアの街よ。酒場で仲間を増やしましょう。毒には毒……。カウンターとしての魔導師がいいわね」

日は昇り、朝焼けがミディアとファムの道を照らす。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?