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山崎パンとわたし

大学生のころはとにかく金がなかった。周囲は当たり前のようにアルバイトをしていたが、俺はコンプレックスの塊だったし、対人関係が億劫で大学2年生までアルバイトをやらなかった。

実際アルバイトをやらなくてもなんとかなっていた。親からもらった昼飯代をケチればサークル活動に充てられたし、当時は女っ気が皆無でデート代やおしゃれ代に消えることもなかった。実家から大学に通っていたので家賃や光熱費の支払いも必要なかった。

当時の俺には吉野家の牛丼すら高く思えて、山崎パンの一番カロリーが高くて安いヤツを食べていた。特によく食べていたのが「大きなハム&タマゴ」という菓子パンだった。

山崎製パン | 商品情報 | 商品情報[菓子パン] | 大きなハム&たまご (yamazakipan.co.jp)

味については気にしたことがない。とにかく腹にたまればいいのだから。強いて言うならば「バカが好きな味」。隠し味のスパイスとかそういう手の込んだものはない。そりゃ欲を言えば俺だってもっとおいしいものを食べたかったが、お財布の中にある金が現実を突きつける。昼飯代にかけられるのは300円が限界だった。今思えば「アルバイトくらいしろよ」と思うのだが。

そういえば、かの少女漫画『ハチミツとクローバー』にも山崎パンが登場する。

山崎製パン | 商品情報 | 商品情報[菓子パン] | ミニスナックゴールド (yamazakipan.co.jp)

ストーリー後半、自分探しの旅から帰って男前になった青春スーツを着る竹本がまぶしかった(俺も大学のころに神奈川県から兵庫県までママチャリで自分探しをしたことがあったので妙に重なってしまった。竹本ほど好青年でもイケメンでもなかったが)。


社会人になって、俺は一人暮らしを始めた。神奈川県横浜市の黄金町という貧民街の近くに部屋を借りた。家賃は5万くらいだったと思う。そこにおばあさんが住んでいて、家賃を滞納していたらしいおばあさんの部屋のドアにはいつも「XX月までに家賃を払わないと出てってもらいます。」という不動産屋からの告知が張り出されていた。

ある冬の日のこと、仕事から帰るとおばあさんが部屋の前で地べたに座り込んでいた。ついに家賃の滞納期限が来て部屋を追い出されたんだなと思った。その時、おばあさんがひもじそうに両手でムシャムシャ食べていたのは山崎パンだった。

山崎製パン | 商品情報 | 商品情報[菓子パン] | スペシャルパリジャン (yamazakipan.co.jp)

あのときのおばあさんはどこかの施設にでも入って生きているのだろうか。それとも野垂れ死にしてしまったのだろうか。


先日、能登半島地震で山崎パンのトラックが被災地に大量のパンを届けたのをネットで見かけた。なんだか感動してしまった。

被災地に緊急配送のパン「本当に感謝」 “山パントラック”反響…大手3社と業界総出の支援11万食(ENCOUNT) - Yahoo!ニュース


尊敬します、山崎パン。


貧困大学生だった俺の腹を満たしてくれた「大きなハム&たまご」、『ハチクロ』で山田が食べていた「ミニスナックゴールド」、黄金町でホームレスになったおばあさんが食べていた「スペシャルパリジャン」。

これからもよろしく、愛すべき山崎パン。