おばあちゃんのはなし 15
「母の言葉」
母は今まで介護とは無縁の人でした。
おじいちゃんが寝ていた時には、主におばあちゃんが介護をしていたので本当に軽い手伝いをするくらいだったし、自分の両親は長く患わなかったため介護を経験していません。
今は介護の中心は父であるとしても、衣食の事は母が管理しています。移動をしたりトイレ誘導をしたりは父、食事介助、更衣の手伝いは母、という感じで。食事介助や着替えも「あ、今のはもう少し優しくてもよかったかな?」と感じるくらい、イライラが伝わってくることもありました。
母と介護とはあまり相性は合わないと思っていました。私がちょっと芸術系の勉強をしてから突如介護に道を変更したときも、母は「介護の仕事をするなら東京で目が出ないでも勉強を続けてほしかった」と言ったくらい。
それでも母なりに一生懸命やっています。
そんな母がふと
「年をとるという事を初めて実感した気がするよ。」
とつぶやきました。
介護にかかわってこなかった母が、実際直面して解った現実。
動きにくくなったおばあちゃんを介護する自分の体力もまた落ちている事。
そんな気持ちの率直な感想と、娘が家を出てしまった今、いったい自分はこの先どうなるのだろう、という不安。あんなにバリバリ働いていたおばあちゃんが動けなくなっている。もうたったの数年先の自分の事のように感じていたのでしょう。
そしてたぶん、私にも向けられた言葉。
『大丈夫。辛い思いはさせない』
そう言い切りたかったけど。
安心させてあげたかったけど。
「なるほど」と簡単な相槌だけして、そのあと黙ってしまった。
(2009.4.9の記事転載)
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