おばあちゃんのはなし 14

「ははごころ」

 私のおばあちゃんではありませんが、体調が悪くなると思い出すおばあちゃんがいます。

 勤務先の老人ホームにあるおばあちゃんが入所しました。
認知症で徘徊がひどくなり介護が出来なくなったのと事。ちょっと足は悪いものの元気いっぱいで、入所当日職員がバタバタしている隙に、タクシーで家に帰ってしまいました。
 慣れるまで目が離せなくて、他の方の居室に入っては石鹸を食べようとしたり、不安になると大きな声で家族を呼び続けたり。

 ある日、おやつ配りの担当だった私は、おばあちゃんにもワゴンを押してもらって一緒に各部屋を回っていました。「手伝ってね」と言うと「よしよし分かった!」と快くワゴンを押してくれました。

 その日は体調がとても悪く、立っているのも辛いくらいでした。さすがにちょっと辛かったので廊下の椅子に腰掛けて「ちょっと休憩。待っててね。」とお腹を押さえて苦しそうにしていると

「大丈夫か?」と心配そうにのぞき込んできます。「大丈夫。ちょっと休むから隣に座って。」

「無理せんでもいいよ。残りはわしが配ってやる。」

 うずくまる私の肩に手を置いて、優しくさすってくれました。

 大きな声を上げる事も、その場を離れて徘徊する事もなく、しばらくそのままじっと「大丈夫か?大丈夫か?」と様子を見ていてくれました。
きっとその行動は無意識なんでしょうね。
母として生きてきた体がそうさせている感じでした。


(2009.4.1の記事転載)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?