精神的な限界は突然訪れる

僕の限界が近いかも!って話ではまったくないです。先日まで世間を賑わせていた方に関連して思い出した話。

僕は以前、大手人材派遣会社にて営業職に新卒から6年半ほど従事していた。
後半数年は官公庁に向けた営業をしていたが、前半は民間企業に対する営業だった。今回は対民間企業の営業をしていたときの話。

【新しいスタッフのAさんを派遣することになった】


スタッフを5人ほど派遣しており売上は月200万を超えているクライアント企業に、新しく事務職の女性Aさんを派遣することになった。

Aさんははじめ数ヶ月、仕事ぶりの評価は高かった。
わりと気がきくし仕事も早く、周囲とのコミュニケーションもよく取れていたそう。部署内の同僚や上司はもちろん、他部署にいる自社派遣スタッフともよくランチして楽しそうにしていた。
朝のうちに注文しておけばまかないの弁当がもらえる派遣先の会社だったので、Aさんも喜んでいた。

【Aさんと面談を行う】


しかし、半年くらいが経った頃から段々と評価が悪くなってきた。
勤怠不良は一切ないがミスが多く、日頃からイライラしているように見えたり、指示に従わないことが増えたそう。

元々できない人ではなかった。
評価がよくない人というのはかなりの割合で勤怠も悪い。
しかしAさんは勤怠はよかったので、なにか理由があるんだろうと、うちの会社のフォロー担当の社員とAさん、僕の三者で面談をして悩みを聞く会を設けた。

その会で我々は決してAさんを詰めるようなことはしていない。
派遣先からの評価を伝え、仕事面と周囲とのコミュニケーション面になにかうまくいかない理由があるのか聞いた。
Aさんは泣きながらも、イライラしていることも仕事がうまくいっていないことも認めた上で、上司のBさんから表立ってではないが、細かく陰湿にイジメを受けているという内容を話してくれた。

・まかないの注文をしているにも関わらずBさんは聞いていないとし、もらえないことが何度もある。
・部署の他の人間と一緒になって、自分に聞こえるように悪口を言う。(悪口の内容にはかなりプライベートなことや国籍に関することも含まれているとAさんは言っていた)
・仕事に関する共有を自分にだけされず、そのせいでミスをしてしまう。etc…

なるほど。それはイライラもするし、共有されてないとかはそもそも仕事にならん。
僕は、派遣先の人事に相談して改善を求めてはどうかとAさんに提案した。

もちろんその際に話をするのはAさんからではなく、僕から派遣先人事にだ。
その上でBさんより更に上の上司から指導をするのか、人事からBさんに指導をするのかはわからないが、まずは社内でSOSを出して味方を増やすことが必要なのではないかと伝えた。

Aさんは一旦、諸々が改善するよう自分にできる改善をすると言った。
その上で必要があれば改めて相談するとも言ってくれた。
1週間後にまたこちらから連絡することを約束し、
話し始めてから1時間、終始Aさんは号泣していた。

その日は金曜日で、面談は夕方の終業ギリギリの時間だったので、金土日をリフレッシュして月曜日からがんばるとAさんは言っていた。

派遣先人事担当には具体的な内容には触れずに面談および低評価の改善アクションを行ったことを報告し、この日はクローズした。

【Aさんの無断欠勤】

翌週月曜日の朝、派遣先人事から電話がくる。
内容は、Aさんが無断欠勤をしているというものだった。
第一報を聞いて、僕は
「ああ、自身の改善は嫌になってしまったか…このまま辞めてしまうだろうな。ハラスメントもあったと訴えていたしこちらから積極的な改善アクションを提案するべきだったか…」
という感想を持った。

まずは目の前のことを対処するしかない。
ここから先は、僕はできることをしたしこの後の対処も人事と協力して全力で行うというアピールをするのみだ。
人事にはまずは謝罪をし、金曜日の面談内容をすべて共有する。
そのことが影響している可能性は高いと所感を述べ、必要に応じて都内在住らしい緊急連絡先の親御さんへの連絡なども視野に入れつつ対応しようと話し、終話する。

終話して30分後ほど、社内の別部署から電話が入る。
今までにやり取りをしたことがない部署だ。
内容は、派遣先の最寄り駅近くにあるビルのエントランスにAさんの鞄や靴、アウターなどが散らばっており、鞄の中の社員証から会社に連絡が入ったというものだ。
え?ヤバくね?
バックレるにしてもそんなことある?

終話してすぐ派遣先人事に連絡しようとしたところ、人事からも電話が入っていたことに気づき折り返す。

【とんでもないことになっとる…】

人事はかなり話しにくそうにしている。「なにから言っていいやら…」
・派遣先の会社近くのビジネスホテルのエントランスで暴れた
・真冬なのにかなりの薄着、裸足
・「自分は(派遣先の会社名)の社員であり、その会社の副社長の愛人である」「そのことを妬んだ社員Bから黒魔術で攻撃を受けている」
などを大声で叫んでいるそうだ。
く、黒魔術?!

そのホテルはもちろんまったくの無関係だ。
警察を呼ばれたが、罪を犯したわけではないので警察が連れていくことはできず、救急車で搬送されたらしい。なんか怪我もしとんか…?

ふつう、派遣スタッフがなにかやらかした場合は営業が詰められる。
事前にそういった兆候はなかったのか、人選した営業の責任は、などと。
しかし状況が状況だからなのか、詰められることは一切なかった…

搬送された病院を教えてもらい、緊急連絡先の両親に電話で事情を伝えたうえで僕も向かう。

【病院へ】

搬送先は外科と教えられていた。
派遣社員の書類上の上司であることを伝えると、外科から精神科へ転科し、暴れているところを別室で抑えていると教えられる。
通報段階で精神科案件であることは間違いなかったが、空きがなく一旦外科で引き取ったがすぐに空きが出たため転科したらしい。

医師と面談を行い、以前から精神的に不安定な兆候はなかったかなどを聞き取られ、ここまでの経緯を伝える。
近くの部屋では叫び声や物をなぎ倒す音なども聞こえる中だ…
金曜日の面談の様子はかなり事細かに聞かれたことを覚えている。

一応聞く…「明日以降、本人は仕事に行けるものでしょうか?」
医師は「こんなんになって仕事どころじゃないでしょうが」
もっともだ。

小一時間の医師との面談をしたあたりで両親が到着した。
看護師に連れられたAさんがやつれきった姿でいたことを今も思い出す。

両親に挨拶と連絡先交換をし、今後の状況共有をしていただくことを依頼する。

病院を出た僕は、派遣先人事に状況の共有としばらく出勤はしない旨、本人の意思を取得したのちではあるが恐らく退職になるであろうことを伝える。
「大変な対応をありがとうございます…」
と言われるが、迷惑をかけたのはこちらだ。こちらこそ申し訳ない。

一応、副社長との愛人関係はない、会話をしたことすらなかったと確認してくれた。人事の立場からは聞きにくかっただろうに…

黒魔術のことはまあアレだけど…
Bさんから受けているハラスメントについても確認してくれた。
直近一か月はまかない弁当を注文されていないし、悪口は一切言っていない。プライベートなことに関してはそもそも知らない。
仕事の共有がされないと言っていたが、もちろんしている。が、ミスは多かったので本人は理解しきれていないと思うと改善の余地はあったかもしれないと反省しているよう。まあそうだよね。

【僕の所感】

こうなってしまう兆候を外部から感じ取るのは難しかった。
毎日直接仕事をしている同僚もできなかったくらいで、一時間やそこらの面談をした僕ではまったく気づけなかった。

仕事環境による要因ももちろんあるとは思うが…
結局なにが原因なのかはハッキリとはわからなかった。

タイトルに戻るが。
精神的な限界は突然訪れる。
他人はもちろん、自分にもいつ訪れるかわからない。
自分のキャパシティいっぱいまで、がんばってがんばって日々を過ごすのではなく、限界が訪れないよう余裕をもって過ごすことが大事なのではないか。
精神的にも、肉体的にも。

僕はバーで人に見られる仕事をしている。
眠そうな顔をしていたり、疲れた顔で接客していては、お客様も面白くない。
元気で楽しそうにしている人と飲みたいものだ。

楽に仕事をしたいと思うわけではないが、余裕を持って日々を過ごさないとパフォーマンスも下がるし、突然訪れる限界に気付けなかったりする。

何事も適度に、日々楽しく、だ。

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