見出し画像

演技と驚き◇Wonder of Acting #25 三年目!

タイトル画像:이중섭(李仲燮(イ・ジュンソプ))「二人の子供」
演技を記憶、するマガジン [Jan 2022]

00.今月の演者役名作品インデックス

小池栄子-安藤千草(八日目の蟬)
[字幕・吹き替え]
清原果耶-木皿花枝、間宮祥太朗-芦田春樹(ファイトソング)
新垣結衣-八重(鎌倉殿の13人)
松本白鸚-弁慶(勧進帳)
バスター・キートン(キートンの大学生)
研ナオコ-安澤寛子(阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし)
ジア・リン-ジア・シャオリン(こんにちは、私のお母さん)
オダギリジョー-ジョー、深津絵里-るい(カムカムエヴリバディ)
酒向芳-松倉重生(検察側の罪人)
田中哲司-多田智也(新聞記者)
宇野祥平-生島聡一郎(罪の声)
田中泯-白石達郎(いのちの停車場)
佐藤二朗-原田智(さがす)
澤村國久-鳴瀬(一條大蔵譚)
才木典泰-トミマツ課長、本間盛行-ハヤタ隊員(カトクタイ)

01.今月の演技をめぐる言葉

本マガジンのメインコンテンツです。毎月、編集人が見つけた、演技に触れた驚きを引用・記録しています。※引用先に画像がある場合、本文のみを引用し、リンクを張っています(ポスター・公式サイトトップ・書影などは除く)。

じぇれ@映画アカ @kasa919JI

2018~2021のじぇれデミー助演男優賞受賞結果がこちら。いずれも対抗馬なしで即決しました。 2018 酒向芳さん『検察側の罪人』 2019 田中哲司さん『新聞記者』 2020 宇野祥平さん『 罪の声』 2021 田中泯さん『いのちの停車場』 おっさんばかり選んでいますが、ホントこの4人は素晴らしいんですよ!
via Twitter

引用させていただいた皆さんありがとうございます †

02.雲水さんの今様歌舞伎旅(ときどき寄り道) 第十五回:“推し”が不在の舞台を観た話~箕山 雲水

“推し活”が特集されて盛り上がる中、出るはずだった“推し”が出演しない舞台を観に行くことになった。こちらは盛り上がらないどころか、ほとんども抜けの殻である。その日続けていくはずだったミュージカルの中止の報が朝から届いてもいたから、もはや全ての気力は失われて、幽霊どころかボロキレのような気持ちで客席に座った。歌舞伎座の第一部、『一條大蔵譚』。同じ部の関係者で例の流行病が出たとかで、女方の主要な役どころの中村扇雀丈と、いわゆる“推し”の七之助丈が休演していた。平時であれば他の部の出演者を代役にすることもできたかもしれないが、徹底的に各部の出演者はわけられている時期だ。この部は他にも相当数(学校であれば学級閉鎖のレベル)の休演が出ていたから、代役を入れて公演するのは至難の業なのではないかと、今になってみれば思う。それでも幕が上がるのだ。いやはや歌舞伎はオソロシイ。まずはその底力に大拍手。

歌舞伎の底力に反して、こちらは推しを欠いてどこにも力は残っていない。もうチケットを取るのはやめようか、そんなことまで考えていたその時、突然横っ面を叩かれた。舞台では、鳴瀬という女性が話している。主人公・一條大蔵卿長成の家老の妻で、これも女方の役である。もともと配役されていた中村歌女之丞丈が扇雀丈の代役に入り、この日鳴瀬を演じていたのは澤村國久丈だった。玉突き事故のような代役だったし、そもそも鳴瀬という役をさほど重要だとも思っていなかった。ところが、その鳴瀬が生きて、役として息をしている…!これまでのボロキレはどこへやら、アイロンをあてられて急に生き返り、背筋をのばす。やっぱり歌舞伎はオソロシイ。

歌舞伎座 壽 初春大歌舞伎

セリフも芝居もそれなりにあるはじめの場に比べ、圧倒的に鳴瀬のセリフが減るのが次の場である。むしろ、ほとんどセリフも芝居もない。それにもかかわらず、國久丈の鳴瀬はこの場のほうで一層素晴らしさを増した。

夫である家老・八剣勘解由が、主人の大蔵卿へのいわば裏切り行為を働こうとして切られる、そのあとだ。夫によりそい、後ろに控え、しばらく大きな芝居もないのにしっかりと感情の流れが見える。それも、大仰にやるのではない。ただそこにいて、息をしている、その「息」が、大蔵卿の言葉やその場の出来事によって細かく揺れ動いていく。途中から、背中しか見えないような状態なのに、その後ろ姿から心の動きが伝わってくる。もちろん、真ん中の芝居を邪魔するわけではないし、ほとんど動いてすらいない。それなのに、目が離せない。ついに、鳴瀬が夫の不忠を詫びて自害するくだりでハンカチを引っ張り出す羽目に。この予想外がたまらない。それもこれも、長年同じ作品をやり続け、先人たちによる名舞台が数多く存在する歌舞伎ならばこその予想外。だから歌舞伎はオモシロイ…!

歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」第一部 1月15日(土)以降の公演についてのお知らせ
歌舞伎公式Webサイト 歌舞伎美人(かぶきびと)

これまでも、歌舞伎だけでなくいろいろな舞台で代役は見てきたし、それなりに感動もしてきているけれど、しかしここまでセリフが多くない役で泣かされたのははじめてかもしれない。とここまで書いてふと思う。「代役なのに」という枕詞がはたして正しかっただろうか。國久丈の鳴瀬をもし本役として見ていたら、ここまで感動しなかったのだろうか。

 否。そう言いたい。本役であろうがきっと泣かされたに違いない。それを確かめるためにも、いつか鳴瀬を本役で演じる國久丈を見てみたい。そして、やっぱり泣かされた、と「あの代役で泣かされた日のこと」を思い出して笑いたい。そうでもしないと“推し”不在の舞台の鬱憤はとうてい晴れそうに…あれ?そういえば“推し”がいなかったはずの舞台にいつのまにか“推し”が誕生しているではないか。だから“推し活”はやめられない。

さ、沼の底に探検の旅に出るか。 ††

03.寄稿 『カトクタイ』追っかけ劇評 ~easygoa46

大阪の劇団、theater company左岸族の追っかけをしている。二人の役者に渡す花束を買い、横浜土産の崎陽軒のシウマイを二つ持って大阪まで一泊二日の旅をしてきたのだから、立派な追っかけ、押しも押されもしない追っかけ、追っかけ協会の片隅に身をおかせていただける程度には追っかけだ。『カトクタイ』とんがっていて、しびれました!

2021年12月12日(日)、左岸族制作の本間盛行がプロデュースするマヂカデミルゲキ#1(以下#1)が開催された。場所は大阪市北区のコモンカフェ、最寄り駅は大阪メトロ谷町線の中崎町駅。#1は左岸族と無名劇団の合同公演だ。20分くらいの演目を三本連続で、同日に二公演行った。上演の順序は左岸族『カトクタイ』、無名劇団『最古のパン屋』、左岸族『左岸狂言鱒釣』。今回は、初演『カトクタイ』の第1回目の公演について書きたい。

マヂカデミルゲキ 当日パンフ表紙

ここで追っかけ豆知識を披露しよう。#1は左岸族の2021年三回目の公演で、通算三回目の公演だ。このうち二回目の公演(試演会)を見逃して、追っかけの名を返上しようと真剣に考えた。しかし返上先が見つからず、真剣を鞘に納め床の間に飾ってある。

『カトクタイ』は『ウルトラマン』に登場する科学特別捜査隊の略称だ。普通は「科特隊」と漢字で略すので、片仮名のタイトルから『ウルトラマン』のパロディーを観劇の前から期待した。科特隊は「ウルトラマン頼りで何もしない」ので、冗談のネタ、あるいはカルチャー評論では米軍に国防を依存する戦後日本の暗喩として繰り返し言及されている。ぼくの知る限り佐藤健志『ゴジラとヤマトと戦後民主主義』(文藝春秋、1992年)の第四章「ウルトラマンの夢と挫折」がその代表だ。『カトクタイ』はその流れにありながら、むしろ「その先」を描こうとしていた。

『カトクタイ』の主役は才木典泰が演じるトミマツ課長。彼はカトクタイ本部で世界中に展開する支部を統括している(原作『ウルトラマン』では本部はパリにある)。トミマツはメキシコ支部の11月の月例報告を聞き終えた後に、ムラマツの代理、本間盛行が演じるハヤタ隊員から日本支部の報告を受ける。二人とも椅子に座り、客席=モニター越しに互いを見ながら会話を始める。トミマツは黄色、ハヤタはオレンジ色のジャージを着ており、特にトミマツは統括といっても「制服組」ではなく、中間管理職のような印象を観客に与えていた(科特隊の制服はオレンジ色)。ハヤタ隊員はカトクタイの11月の月例報告を丁寧に細部に至るまで読みあげながらも、時々ハヤタの喜びが身体に溢れてしまう。なにせ彼はカトクタイ隊員であると同時にマンなのだから。日本支部の厄介ごとを一手に解決し、その成果を本部に報告できる喜びを隠すことはできないのだ。チームよりも自分の成果を誇らしげに報告するハヤタ隊員を、本間は可愛らしく演じる。

ハヤタ隊員の言葉から、『カトクタイ』は原作の第17話「無限へのパスポート」(ブルトン)、第18話「遊星から来た兄弟」(ザラブ星人)、第19話「悪魔はふたたび」(バニラ、アボラス)の裏エピソードだということがわかる(追っかけ調べました)。12月の公演なので前月の月例報告になっているにくい演出です(初回の放映月が11月。こういうメタ的な情報を公開するとトミマツ課長に叱られる)。5月の公演だったら最終回の第39話「さらばウルトラマン」(ゼットン)をどうしたのだろ?6月、7月公演だったらそもそもカトクタイは報告に値する仕事をしているのだろうか(前月に初回の放送がない。トミマツ課長に叱られる)。

物語は、才木の「大阪弁」と標準語の入り乱れる長いセリフ回しから加速してゆく。トミマツはカトクタイ日本支部が自分たちの無能さを理解していないことに業を煮やし、ハヤタを「大阪弁」で𠮟つける。普段、ポリコレで身動きのとれない中間管理職の方は拍手喝采間違いない。単に叱っているだけではない。早口の標準語で理路整然とカトクタイの活動は無能どころか人災と畳みかけ、目的(狙い)と理念の区別もなく、目的に向かった計画もなく、目的のためなら少々違法な手段も正当化するくらいの行動力と思考力を持ちなさいと指導する。才木の「大阪弁」の叱り声はやわらかく、あまりきつく聞こえない。大阪出身の上司が言語圏を異にする部下を叱る時、標準語だとすっきりしないのかなと、想像するととおかしかった(すっきりされても困りますが)。ここまででも、すでに「その先」を描こうとしていることがわかるだろう。何かの「無能」「甘え」を通り超して、『カトクタイ』は「人災」を描こうとしている。

ただそれだけではない。問題はここからだ。その指導力を発揮しあるべき姿を指導するトミマツ課長自身が誰かが考えた計画を実行しているだけだと、シブい声のラップで叫び、中年ロボットのようなダンスで踊り出す。才木のラップとダンスは「バカカッコいい」。全中間管理職が一度は観るべき。その格好よさはフレディー・マーキュリーに匹敵する(追っかけなので勘弁してください)。

ただそれだけではない。お楽しみはここからだ。今まで上司の指導に甘んじていたハヤタ隊員が、ラップを口ずさみ、ストリートダンサーのような踊りで、主導権を握り返そうと反逆にでる。きた!中年男たちのラップバトル!『男たちの挽歌』のラップ版。カトクタイの活動は「人災」かもしれないけど、俺もカトクタイだ、マンもカトクタイだ、「現場」を見ているのか、お前は何をみているのだ、耳をすませ。そんな天使と悪魔が同居するハヤタ隊員=マン像を、本間はラップとダンスで演じる。全平社員が一度は観るべき。その格好良さはデヴィット・ボウイに匹敵する(追っかけといえども二度目は許されないことを覚悟)。

シアターカンパニー左岸族『カトクタイ』

ただそれだけの演劇だった。見事なまでにただそれだけ。「その先」を演じようとしてタダソレダケになることが素晴らしい。タダソレダケしかないのだろう。「怒り」とはそういうものだ。それが『カトクタイ』。

追伸 誕生日おめでとうございます。ジュッワ! 2022年1月28日 †††

04.こういう基準で言葉を選んでいます(と二つのお願い)

舞台、アニメーション、映画、テレビ、配信、etc。ジャンルは問いません。人が<演技>を感じるもの全てが対象です。編集人が観ている/観ていない、共感できる/共感できないは問いません。ぐっとくる・熱い・鋭い・意義深い・好きすぎる、そんなチャームのある言葉を探しています。ほとんどがツイッターからの選択ですが、チラシやミニマガジン、ほっておくと消えてしまいそうな言葉を記録したいという方針です。

【引用中のスチルの扱い】引用文中に場面写真などの画像がある場合、直接引かず、文章のみを引用、リンクを張っています。ポスター、チラシや書影の場合は、直接引用しています。

【お願い1】タイトル画像と希望執筆者を募集しています。>

【お願い2】自薦他薦関わらず、演技をめぐる言葉を募集しています。>

05.執筆者紹介

箕山 雲水 @tabi_no_soryo

兵庫県出身。音楽と時代劇、落語に浸って子ども時代をすごし、土地柄から宝塚歌劇を経由した結果、ミュージカルと映画とそして歌舞伎が三度の飯より好きな大人に育つ。最近はまった作品はともに歌舞伎座の2021年2月『袖萩祭文』、同3月『熊谷陣屋』、ミュージカルでは少し前になるが『7dolls』、『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』、マイブームは日本舞踊。

easygoa46

東京都出身。ゲンロン友の会会員。左岸族の追っかけ。2019年にゲンロンのパワーディナーでpulpo ficctionさんと出会う。
時々『演技と驚き』に寄稿し、新作映画を観る時には『演技と驚き』やpulpoさんの紹介を参考にしている。
劇評は、たいてい終わった舞台について書かれているので面白いジャンル。
毎月、箕山雲水さんの劇評を楽しみにしている。

06.編集後記

祝!3年目突入!!ということで、前号の後記で、2021演技ベスト企画やろうか?と書きました。目下めっちゃ悩み中。できなくっても、やさしくスルーしてくださいね。
それでは、次号は2/27(日)発行予定。どちらさまもお元気で!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?