演技と驚き◇Wonder of Acting #10
演技に驚いたことのあるすべての人に [Dec/2020]
01.今月の演技をめぐる言葉
引用させていただいた皆さんありがとうございました
02.【隔月連載】演技を散歩 第四回「素のまなざしの威力」 ~pulpo ficcion
※以下の文章には作品のプロット言及(ネタばれ)は、おそらくほとんど含まれていません。
「人の目を見て話しなさい」多分、何回も聞いてきたし、また言ってきた言葉だ。だけど、実際に人の目をずっと見て話すことも、またずっと見られて話されることも、数秒もやってみるとわかるが、とても辛い。よほど親密でもない限り無理だ。たまに、そういうインターフェイスに無頓着で、仕事の営業なのに、食い入るように人の顔を見つめてくる人がいる。ちょっと困ってしまう。けれど、そんな押しつけがましさのない、しかし力強い視線がこの世の中にはあるのだ。
『星の子』の芦田愛菜である。
劇中、誰かとしゃべっているシーンの大半を、彼女は、話し相手を見ることに費やしている。誰かが話し出すと、必ずそちらに視線を切る。そうすることが絶対的なルールであるかのように律儀に。
パンフレットの中で芦田愛菜は語っている。
役者同士の会話によってその場で生まれるものとか、そこで湧き上がる気持ちを大切にすることがお芝居なんだなと。そういった本質的なところに、もう一度立ち返ることができました。
これが実感であるとして、彼女にとっての<会話>は視線を投げかけることと分かちがたく存在していた。繰り返しになるが、私が驚いたのは、どう考えてもアンナチュラルなその視線に、みじんも押しつけがましさが感じられないことなのだった。それどころか彼女の視線によって、相手俳優が魔法にでもかかったかのように作品世界に呼び込まれていたのである。
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観察するとわかるが、瞳そのものは表情を持たない。確かに瞳孔の変化はある。その動きを除けば、眼球はまるで鉱石のような外器官で、単体で感情を見出すのは、実はむずかしい。
おそらく、私たちが視線に見出す感情は、瞼、目じりなど瞳回りの部位を含んだ顔全体が発するメッセージを、視線そのものと混同することで生まれている。
そう思い直してみると、芦田愛菜はひたすらフラットな表情で人を見つめていた。そこに意図や表立った感情は発見できない。ただ、相手の発信を、できるだけ濁りなく受け止めようとしている人の姿がそこにあった。
その真摯さのぶれなさ。
彼女は、はかなさと芯の強さをあわせもった少女を演じている。すべての共演者たちを平等に分け隔てなく見つめる視線がその造形にリアリティを与える。常に世界に初めて触れていく新しさと痛々しさを図らずも(もし、これが計算されたものだったとするとそれはそれで恐ろしい子!)体現しているからだ。ただ、それは過剰だ。ひたすら「本質的」に会話に迫りたいという、感情表現以前の俳優の思いが込められているからだ。
結果として、その欲求が映画全体をまとめ上げる力となっている。
物語上は、少しずつ異なった世界に所属する登場人物。フィクションとしてはそれぞれのキャリアや若々しい魅力をもつ俳優たち。双方の次元ですべてを包摂するアンサンブルが、たった一人の俳優のフラットで真摯で過剰な眼差しから出来上がっていた。
その眼差しに心をつかまれるために、私はこの映画に出会ったのだと思う。
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さて、本当に、これは誓って本当に、この文章を書いている最中に気が付いたのだが、芦田愛菜はその名前の中にマナを持っているのだった。眼差す俳優。アシダマナノナマエノナカノマナ。
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03.こういう基準で言葉を選んでいます。その他
■舞台、アニメーション、映画、ドラマ、etc、人が<演技>を感じるもの全てを対象としています。私が観ている/観ていない、共感できる/共感できないにかかわらず、熱い・鋭い・意義深い・好きすぎる、そんなチャームのある言葉を探しています。皆さんからのご紹介、投稿もお待ちしています。投稿フォームも作成しました。
■第11号は11月29日に発行予定です。
■連絡先:
Twitter/@m_homma 、@WonderofA
Mail/pulpoficcion.jp@gmail.com
04.後記
さて、ちょっと個人的なインフォメーションです。高校時代の友人と芝居のカンパニーを立ち上げました。左岸族という名前です。制作を担当します。何かを作ることと観客であることに、川みたいな隔たりがながらくあったのですが、年を取ってそのこだわりが急速に解除されたみたいです。才能!とかいう面倒な自意識もだんだんどうでも良くなってきたこともあります(まあ、やればやったでじくじく考え込むのでしょうが)。2021年には小さくていいので公演できたいなと考えています。
さて、あと2回出すと1年です。うわ。また正月か!という気分です。2年目、演技と驚きはどこまで行けるかしら?それではまた次号で。
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