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知のセーフティーネットとしての図書館の話

何のために本を読むかー知的好奇心、自己満足、生存の為の知識獲得ect...ー目的は人それぞれであるかと思われるが、自分の場合は生化学屋ということもあり知的好奇心が配分の多くを占めている、今のところは。

訳あって職を失い、精神を病んで心療内科に半年近く通う事態になったが、そこそこ本を読むタイプの人間である自分にとって問題となったのが「本に掛かる金の問題」だった。年内には再就職を狙っているが生化学分野で仕事を探したいという欲求がある以上、学びの習慣が摩耗してしまっては復職後も使い物にならないと考え本や学術論文を読む習慣は絶やさないようにしてきた。

しかし、ここで一つの問題が浮かび上がる。学術書は高いという問題が。下手にアルバイトを入れてしまうと失業保険に悪影響が出てしまう上、折角学びの時間を仕事に奪われないという良環境を損ねてしまうという懸念もある。働かないならその分を学びに使ってしまおうという考え方だ。

そこでお世話になったのが図書館である。府立レベルの図書館であればたいていの「レベルの高い本」に対してアクセスが容易であり、治療ならぬ「知療」に掛かる金銭的負担が下がるのだ。これは大変有り難いことである。尤も今はオーディオブックという優れた学習プログラムもあり、自分自身電子書籍の恩恵を受けている側なので紙の本が最良であるとは言い切れないが、知的レベルの維持コストを下げる事に越したことはない。

最近の話だが、文藝春秋社の社長が全国図書館大会にて図書館側に文庫の貸出を止めるよう「お願い」を出したというニュースがあったが、出版不況の現状を考えたとしてもこのようなやり方は長期的に考えたらマイナスにしかならないのではと感じた。そう感じる根拠としては、図書館が知のセーフティーネットとしての役割をロールしているからという部分がある。

図書館というと学校や公民館レベルのものを想定する人もいるかもしれないが、大学図書館クラスとなると学術書や学術雑誌、果ては稀覯本まで網羅していることもあり研究を生業としている身としては欠かせない存在となる。この手の本はまともに買おうとすると冊数によっては月収の何割かまでに達することもあるため、借りるに越したことはない。尤も、「アット・ザ・ベンチ」や「細胞の分子生物学」のように高価な専門書であっても生化学屋として、また後学のために人に貸す可能性の高い本であれば買って自宅に置いておくことに越したことはないが。

大学図書館には遠く及ばないとはいえ、政令指定都市レベルの県立/府立図書館であれば学術雑誌や専門書(それこそ生物系で7000円くらいする実験書なども)も置いていることがあるため、何らかの事情で金銭的負担が厳しい経済的弱者にとっては知的レベル維持の砦となりうる。仮に身近な図書館にそういった本が置いていなくても、その地域に住んでいる市民には公的機関としての図書館に対して要望を送ることで置いてもらえる可能性もあるため、そういった意味では図書館は地域における知のセーフティーネットと呼んで差し支えないであろう。

また、twitter上で気になった本が読めるというのもメリットであり、実際筆者がこれを書いている間に読み終わった「経済政策で人は死ぬか?ー公衆衛生学から見た不況対策」もここ数日間TLを賑わせた衆議院総選挙ネタの中で話題に挙がった本であり、またお高い一冊ではあるので図書館で借りた本でもある(流石にアット・ザ・ベンチや細胞の分子生物学程ではないが)。公衆衛生学を大学時代に履修した身であり、今でも興味のある分野であることから借りたのだが、疫学者の視点から経済政策を見ていくというデザインに惹かれたってのもある。

この記事を書く動機になったのも同書を読んでセーフティーネットとは何なのか?という疑問が浮かんできたからという突発的動機にすぎないのだが、図書館の民営化が各地で問題を引き起こしている(ツタヤ図書館の蔵書問題とか)以上、セーフティーネットの民営化が問題を引き起こしているという点では国民皆保険制度と公立図書館の話は似たようなものを感じざるを得ないわけで。

最近出た「社会疫学」も読みたいんだが上下巻で1万円越えるのがとてもつらいところである。

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