『あやかしの鼓』長嶌寛幸氏のメモ まとめ
音楽を担当したDowser長嶌寛幸氏がXに残したつぶやきをまとめました。
3月の RITTOR BASEでの「あやかしの鼓」メモ
事情をお話ししますと、実はワタシが「言い出しっぺ」なのです。去年の年末も年末、押し迫った大晦日、Twitterにワタシが「夢野久作では、この作品が一番好きですね。
「『ポ・・・ポ・・・』という音をBuchla(50年前の旧式のアナログ・シンセサイザー)で出せればと今も思い続けています」と書いたモノを、RITTOR BASE 國崎さんが反応して、なおかつPSYCHOSISさんも乗って、
で、松の内も明けぬ内にRITTOR BASE 國崎さんとZoomで打ち合わせをして、その後、「打ち合わせ」と称して、横浜の野毛でワタシだけ飲んだくれつつも、1月末にはRITTOR BASE 國崎さんによる脚本が仕上がったという次第。
「艶恨録ー阿部定調書ー」の後、「また、この顔ぶれで何かできれば・・・」とはワタシも思っていたのですが、こんなに早くに実現するとは・・・今も夢を見ているような気分にもなります。まさに「あやかし」ですね。
「Buchlaで」と言っておきながら、いきなり、肝心のBuchlaが故障したのは「あやかし」というよりもご愛嬌ですが・・・
しかし、PSYCHOSISさんは毎回、キャスト交代という荒技で出てくるし、私も前回同様、「演技に合わせて、音楽の位置(波形)などを手動で動かす」という危なっかしいこと
(普通はやりません。機材が止まる可能性が高いので・・・)に挑戦、と果たして上手くいくのか?しかし「朗読」と「演劇」の「間」、「再生」と「ライブ」の「間」で「なにかが生まれるのではないか?」とも思っています。
しかし、「間」は「魔」なんでヤバいものなのですが、それはそれで引き受けようと・・・まあ、これはワタシの勝手な了見で、ですが・・・それはさておき、音楽は2.1.8(左右のステレオ、重低音、天井と床に4つずつ計8個配置したスピーカー)仕様のイマーシブな立体音響でお送りします。
また、Katsuhiro Chiba氏制作の8chリバーブ=Cube Chiverbで台詞も RITTOR BASEの空間内に立体的に定位させることが可能になっています。
<正月に書いた最初のメモより>
シテ 中央に『あやかしの鼓』を朗読する演者。(入れ替わり立ち替わり)
ワキ 左に夢野久作 右に江戸川乱歩
夢野久作と江戸川乱歩とお互いの著作評と『あやかしの鼓』の朗読が交差する。
実はほぼ、面識のない二人。
二人とも「狂気」を描き続けた小説家だが、乱歩の「狂気」がどこまでも「個」のファンタジーであることに対して、夢野久作の「狂気」は「個」から「公」(国家、国家主義)につながってしまう可能性があり、乱歩はそこに「恐怖」を感じたのではないか、という見立て。
しかし、中学生の時に読んだ『あやかしの鼓』に老年に差し掛かるこの時期になって、このような形で参加するようになるとは・・・「私はこんな一片の因縁話を残すために生れて来たのかと思うと夢のような気もちにもなる」という言葉を思い出さずにはいられません。
また、世界全体が「巨大な狂人の解放治療所」と化しているとしか思えない西暦2023年、あるいは皇紀2683年においてこそ、「夢野久作の狂気」が再び召喚されるべきなのだともワタシは思うのです。
長嶌寛幸(Dowser)
午後1:36 · 2023年11月18日
「あやかしの鼓」音響機材メモ。
OPEN THEATER 2023 夢野久作「あやかしの鼓」、無事に終了。大視聴覚室の音響は映画館用のXカーブでチューニングされているので、「音楽として」そのまま出すと「ハイがめちゃ落ち」になるので、マスターのEQに細工をする。
今回は物語の進行に合わせた劇伴とインプロの組み合わせ。「ポン出し」と「即興」用の脳の切り替えを瞬時にやらないといけないので、なかなかヘビー。
インプロはどうしても「演奏しよう」という意志というか性(私の場合、いわゆる「演奏」ではないのですが)が出てしまい、演者の動きと会話するのはなかなか難しい。道のりは険しい。
劇伴はLogic出し(5.1ch)。メインが落ちた場合にそなえてサブ機にも同じセッションを。(これは2ch)元ネタは基本、ステレオ。サラウンド・リバーブで空間を作る曲とシングル・ディレイで空間を作る曲の2種類に分ける。
録音の声は自分の声。iPhone SEで録音し、Audioease Speakerphone、IRCAM Traxなどで変調。しかし、どこまで変調しても自分の声は恥ずかしい。
インプロはBuchla 200とBugbrand BoardWeevil 2015で。4オシレーターだが、Lowpass Gateが3つなので(212 Dodeca Module)3声で。
Buchla 1. メイン(4つ目のオシレーターをFM変調用に使用)Arturia Keystepでコントロール。エフェクトはEventide Ultra TapとElectro-Harmonix 720 Stereo Looper 。サラウンド・リバーブで空間を作る。
Buchla 2. Buchla 245 シーケンサーでコントロール。バンドパス・フィルターを使用。FM変調はホワイト・ノイズで。シングル・ディレイで空間を作る。
Buchla 3. コンタクト・マイクの音声を三角波でリング変調。ディレイ、サラウンド・リバーブで空間を作る。僭越ながら、小杉武久さんもどきを。
BoardWeevil センター・スピーカーとリアで空間を作る。リアのディレイは長め。
「サラウンド」というと、どうしても全部「広げて」しまいがちだが、「広さ」の「種類」(残響か遅延か)と「広さ」の「サイズ」(狭い「広さ」もある)を考えることが必要。後は占有する周波数の範囲。空っぽの部屋に家具を置いていく作業に近い。
5.1chということで言うと、センタースピーカーにもLRの音を少し送る(「こぼす」とも言いますが)/送らないでも印象はかなり変わる。送ることで定位はぼけるのだが、容積が大きい部屋(映画館)だとLRだけだと「中抜け」になる。もちろん、その方が良い場合もあるが。
モノラルにも音場があり、それは「ファントム」ではなく、「そこから音が始まる力強さ」がある。しかし、それは忘れがちである。特に視聴環境の変化(映画館で映画を観ることが多くの人にとって「特別なこと」になった現在)によって。
午前9:30 · 2023年12月18日
オープンシアター「あやかしの鼓」、無事終了。観に来て頂いたお客様、そしてPSYCHOSISさん始め、演者の皆さんには感謝しかないです。ありがとうございました。
カーテンコールでも少し話しましたが、「映像が『Fake』かどうかも分からなくなった「イマ」、少なくとも「現前」で起きる「コト」を起点に、どこまで「世界/他者」と対峙できるかを考える「トキ」なのだと思いますし、それは「イマ」、「映画を教える立場」にある自分にとっての「問い」だとも。
と、自問自答を繰り返しています。
長嶌寛幸
午後8:36 · 2023年12月20日
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