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貧者のライセンス

令和3年7月に公表された福祉資格の「就労状況調査」。これは、社会福祉振興・試験センターが実施したものです。不思議なことに国家資格である社会福祉士・精神保健福祉士は、国の正式な賃金の動向を統計化した「賃金構造基本統計調査」の対象外になっていてるので、社会福祉士・精神保健福祉士の労働条件を把握するには、この調査しかない現状。

この調査に関しては、なぜか10代の取得者が存在していることやその取得者のうち、男性の平均年収が574万円となっているなど、統計の信頼性に疑問符がつく面もあります。今回は、そうした不確定要素を除いて、この調査を見てみます。

社会福祉士の20代~60代における男性の平均年収は約433万円、女性は約357万円となっており、男女を併せた平均年収は約395万円となります。一方、精神保健福祉士は男性で463万円、女性で377万円となっており、男女を併せた平均年収は404万円となっています。
国全体の平均年収433万円(2020年度)に比べるとやや低い程度となっています。しかし、この調査の回答者の80%以上が正規職員であることを考えると、近年増加している会計年度任用職員や非正規職員が反映されていない数字であることを加味しておかなければなりません。
また、女性の方が男性に比べて国全体の平均年収より50~70万円程度、年収が低いことが分かります。
この調査に回答した人の割合は男性3:女性7となっていることを考えると、それぞれの資格を所持している女性が、いかに低い賃金で勤務しているかも見えてきます。

次に資格手当の有無を見ると社会福祉士で61.4%、精神保健福祉士で
64%が「資格手当なし」と答えています。業務独占でもなく、資格者の雇用に対する公的な報酬がほとんどない現状では、経営者側に資格に対する経済的メリットはなく、そのことが給与にも反映されていると考えられます。

現代社会において、生涯未婚率・単身世帯、夫婦のみ世帯は上昇し、出生率は下げ止まっています。「ソロ社会」や「おひとりさま」という言葉に代表されるように、今や家族という単位ではなく、個人の単位で生き暮らしていくことが当たり前のように語られます。
個人として、どう生きるかは個人の自由意志であり、自由選択です。他方、その選択の自由度や選択肢の多様性が保障されず、単身で生きていくことを「選ばざるを得ない」状況が強まっています。

私は、毎年ある福祉系の専門学校からの依頼で、学生(ほとんどが女性)の実習指導を行っているのですが、その専門学校は2年制で卒業後2年間の実務経験を経て、ようやく受験資格が得られる履修システムを採用しています。
この専門学校の学生がオリエンテーションに来訪した際、決まって学生にこう質問します。「今の時代、資格試験に合格した学生を採用することが多い。無資格で実務経験を積むためには、どこかに雇用してもらわなければならないが、かなりハードルが高いと思う。なぜ、ストレートに受験資格を得られる養成校を選ばなかったの?」と。
その答えは、いつも「大学4年間の学費を払うのが難しい家庭状況なんです」と返ってきます。続けてこうも聞きます。「なぜ、この資格を取ろうと思ったの?」と。その返答は「とにかく資格があれば、生活していける。他の資格に比べるとハードルが低いので」が大半。
そして、その専門学校の同学年には70名もの学生がいるというのです。どの福祉系大学も定員がかなり少ない状況にあって、これだけの数の学生が専門学校に入学してくるのは、経済的理由も大きな要因になっているのでしょう。

今や「福祉」は、弱者救済のためにあるという考えが、既成化、常識化しています。そして、その支え手となる資格者も弱者化している現実。このことに沈黙的であってはならない、無関心であってはならないと自分に言い聞かせる日々が続いています。

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