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単位

 もう少し読んでもらえそうなタイトルにしたほうがいいんじゃないか、とも思ったが、とにかく単位の話をするのだから仕方がない。

低緯度オーロラ

 ある週末のこと。太陽フレアの影響で、北海道でもオーロラが見られそうだというので、北の方角が開けていて明るくない場所、ということで日本海側のS町に行くことにした。

 実は前の日にもS漁港に出かけてはいたが、このときはどうやらまだオーロラを発生させる宇宙線の粒子が届いていないようだということで引き返していた。

 S町の海岸線に立ってみて、長時間露光で写真も撮ってみたが、何も写らない。やっぱりダメだったか。

 ところが、Xには、道内どころか日本各地での目撃証言が次々に上がっていた。そこで、オーロラが目撃されたという場所に移動することにした。

謎の機能

 海岸から内陸部に移動する際、深川留萌道という道路を使った。片側一車線の自動車専用道路だ。制限速度は70~80キロ。もう深夜だから、前を走る車も、後ろを走る車も、対向車もいない。変化に乏しい道路をひたすら東へ向けて走らせていた、そのときだ。

 車(ジープ)の画面に、けたたましい警告音とともに、湯気をあげている赤いマグカップのマークが表示された。

 何だ何だと思って見てみると、「居眠りを検知しました」と書いてある。何をどう検知したのかはわからないが、変化に乏しい道だし、周囲に車も走っていないし、ハンドル操作や、視線の移動、アクセルワークなどが思いのほか単調になっていたのかもしれない。

 こんな機能があるのかと驚きつつも、とにもかくにも、このうるさい警告音を何とかしなくてはならない

OKボタン

 車の画面を見ると、「警告を止めるにはOKボタンを押してください」と書いてあった。

 そう書かれていれば、まず100人いれば99人までが何の疑いもなくOKボタンを押すだろう。ステアリングの中央左にある「OK」ボタンを押した。

 マグカップのマークは警告音とともに消え、いつものスピードメーター画面に戻った。

 「こんな機能があるのかよ」とか「あーびっくりした」などと言いながら、車を走らせる。相変わらず、深川留萌道を走る車は他になかった。

異変

 すると、ふと異変に気付いた。普通に走っていたはずなのに、スピードが落ちている。

 運転席の画面には、速度計と回転数計のグラフィックとともに、中央に大きく速度が数値で表示されている。その数値は50程度だった。

 制限速度80キロの道を、50キロで走っている。ついさっき居眠りの警告が出たばかりだったから、自分は居眠りなどしていないと思っても、それに近い状態にあったのかもしれない、と思う。知らず知らずのうちに、アクセルが緩み、速度が落ちていた、と。

 何だ、本当に居眠りをしかけていたのか、と思い運転に集中する。後ろから迫ってくる車はいなかったが、制限速度近くまでは速度を上げようと思った。

 アクセルを踏み込むが、妙に加速が鈍い。グッと力をこめないと、数字が上がっていかない。

 上り坂にでもなっているのだろうか? さっきまであれほど快調に走っていたのに、かなりアクセルを踏み込まないとスピードが上がらない。

 一方で、片側一車線の道路に目をやると、かなりのスピードでガイドポールが後ろに過ぎ去っていく。とても低速で走っているようには見えなかった。

 何かがおかしいような気がする。何かがおかしいような気がするが、何がおかしいのかわからない。

 ふと画面のスピードメーターのグラフィックに目が行った。何か変だ。いつもより数字がまばらな気がする。メーターの最高速度が、160になっている。変だ。輸入車はたいてい240~260キロくらいが上限になっているはずだ。

相違

 そのときだ。あることに気が付いた。スピードメーター画面に大きく数字で表示されている速度、その下に「MPH」と表示されているではないか。

 通常、日本を走る車の速度計の単位はkm/h、時速○キロメートルだ。ところが今乗っているのはアメリカ車のジープ。そう、スピードメーター画面でOKボタンを押すと、マイル表示に切り替えることができるのだ。今の表示はMPH、マイル・パー・アワーだ!

 それに気が付いた私は、慌ててOKボタンを押した。その時のスピードは覚えていないが、100キロは余裕で超えていたはずだ。

 いや、待ってくれ。確かに、スピードメーター画面で、OKを押せば表示をkm/hとMPHとの間で切り換えられることは知っていて、いらない機能だなと思っていた。そして今回、居眠り検知機能に初めて出会った。居眠り警告を解除するためのボタンが単位の切り換えと同じOKボタンであったとしてもだ。居眠り警告の解除にOKボタンを割り振っている以上、その時点でのOKボタンの役割は居眠り警告の解除に限定すべきではないのか。

 居眠り警告の解除ボタンであると同時に、本来の機能も発揮してしまうというのは、危険極まりないと思わなかったのか。

 まったく恐ろしい車だ。来月、この車で友人を迎えにいかなければならないというのに……。


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