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『ダイナナセダイ』

昨今のお笑い界を席巻する「お笑い第7世代」。目や耳にしない日が無いほど、今や世の中に浸透している言葉ではないだろうか。最近では、その筆頭格であるお笑いコンビ「霜降り明星」がMCを務める、第7世代によるバラエティー番組「第7キングダム」がテレビ朝日でレギュラー放送開始されるなど、その活躍は目覚ましい。

そもそも、「お笑い第7世代」とは何なのか

コトの発端は、先述の霜降り明星がパーソナリティを務めるラジオ、オールナイトニッポン0だった。2018年度M-1グランプリ最年少王者である彼らは番組中、最近の若い芸人の活躍に言及する。その会話の中でボケ担当のせいや(27)が彼らを喩えて言った言葉が「第7世代」。後にせいやはなんとなく語感が良かっただけで「7」という数字に意味は無いとしている。フリートークの流れで彼の頭に瞬時に降りてきた言葉なのだから当然であろう。ところが「第7世代」は、奇しくもその「語感の良さ」やキャッチーさからすぐにテレビ界に広まり、フジテレビの「ENGEIグランドスラム」で、「第7世代」の括りで何組かの芸人が紹介されたのを機にあちこちで使われるようになったのだ。

当たり前のように使われている言葉ではあるものの、やはり「第7世代の定義って何なの?」という疑問をよく見聞きする。歯に衣着せぬ言い方をすると、「そんなものはない」。理由は先程述べた通りだ。「第7世代」は、深夜ラジオという土壌とお笑い界の時代の流れ、そしてせいやの言語センスが化学反応を起こして生まれた「偶然の産物」なのだ。したがって、「芸歴何年以下」「何年の時点で何歳以下」などといった明確な線引きは本来存在しないし、全ては後付けであると強調しておきたい。「第7世代」というのは、「最近活躍している実力派の若手たち」という、あくまで非常に曖昧かつ概念的なものなのである。

よく分からなくなったという人がいるだろうから、ここで(後のためにも)「第7世代」の代表的な芸人を挙げておく。漫才師・コント師・ピン芸人など様々だが、共通しているのはみな実力を備えた新進気鋭の若者だということだろうか。「第7世代」の分類については諸説あるため、あくまで「最近(2~3年以内??)活躍している実力派の若手たち」のイメージに無難にしっくりくるもののみ扱うことにする。

霜降り明星-男性コンビ(粗品・せいや)。漫才師。2018年度M-1グランプリ最年少王者。2013年結成。

EXIT-男性コンビ(りんたろー。・兼近大樹)。世に言う「ネオチャラ系」漫才師。2017年結成。りんたろー。は第7世代の中では最年長の34歳で、兼近とは6歳差である。

四千頭身-男性トリオ(都築拓紀・後藤拓実・石橋遼大)。世に言う「脱力系」漫才師。2016年結成。3人とも第7世代の中では最年少の23歳である。

宮下草薙-男性コンビ(宮下兼史鷹・草薙航基)。世に言う「超ネガティブ」漫才師。2016年結成。

以下賞レース覇者↓

ハナコ-男性トリオ(岡部大・秋山寛貴・菊田竜大)。コント師。2014年結成。2018年度キングオブコント王者。菊田は第7世代の中ではりんたろー。に次いで年齢が高く32歳であり、第7世代唯一の一児の父。

3時のヒロイン-女性トリオ(福田麻貴・かなで・ゆめっち)。コント師。2017年結成。2019年度THE W王者。

ゆりやんレトリィバァ-女性ピン芸人。2013〜。2017年度THE W王者。

ほか、かが屋(加賀翔・賀屋壮也)、エイトブリッジ(別府ともひこ・篠栗たかし)、ガンバレルーヤ(よしこ・まひる)などが主に第7世代として数えられる。また最近では、2019年度M-1グランプリをきっかけに、世に言う「全てを肯定する」漫才で大躍進したぺこぱ(松陰寺太勇・シュウペイ)が第7世代と呼ばれることも多い。

ご覧の通り、目新しい芸風の芸人や賞レース王者が主である。これが第7世代の最たる特徴と言えよう。

要するに「第7世代」とは、お笑い界に新しい風を吹き込み、これからの時代を創っていく存在とも言えるだろう。ただしここで重要なのが、彼らは決して先輩芸人たちの創ってきた物を壊そうとしているわけではないということだ。「第7世代」を巡った論争は色々な場所で盛んに行われていて、「もてはやされているから目立てているだけの奴ら」「先輩を差し置いてのさばってやろうという厚かましい考え」などと否定的な意見をぶつけられることも多い。しかし本人たちにそんな気は全く無く、むしろ伝統をしっかりと引き継ぎつつ、世間や先輩に認められようと、自分にストイックに努力する姿が目立つ。どんなに人気が出ようと、周りにどんな扱いをされようと、本来笑いに対して真面目な集団なのだ。

最近放送された「爆笑問題のシンパイ賞」で、レギュラーである霜降り明星と、準レギュラー組(第7世代) EXIT、そしてゲスト・2019年度M-1グランプリファイナリストニューヨーク(嶋佐和也・屋敷裕政)が、スタジオトークで「第7世代論争」を繰り広げた。ニューヨークが自分たちが第7世代に数えられていないことに疑問を呈したのをきっかけに、各々が「第7世代」について意見を戦わせたのだ。これは、「第7世代」の在り方を考える上で非常に興味深い時間だった。霜降り明星・せいやは、「産みの親」扱いされるのを嫌がり、ニューヨークに第7世代のリーダーを依頼したのだと言うが、相方粗品の言い分は、「令和元年の時点で20代じゃなかったら第7世代じゃない」。EXIT・兼近も、ちゃんと線引きがないと世代の意味が無いとしてこれに賛成し、相方りんたろー。に「だからあなたも第7世代じゃないっす」と言い放った。ニューヨークの2人はこれに猛反論し、「お前ら第7世代7〜8組のせいで100組以上の芸人が路頭に迷ってんねん」「粗品、お前は令和に生まれた悪魔や!」と叫んだ。

ご覧になって、「自分たちは第7世代だ」と威張っているような印象を受けただろうか。だが、粗品はこうも語っている。今は「第7世代」で遊んでいくべきだ、こういうトークの材料にして対立構造を盛り上げていくべきなのだと。ちゃっかりしているようでいて、「第7世代」という言葉を生み出したがために一方的に責任を負わされる相方を想っての、強い「決意」にも思える。

四千頭身・後藤は、先日放送された「めざましテレビ」にリモート出演した際、「第7世代」と呼ばれていることについては「ラッキーだった」と述べており、他でもしばしば「第7世代と言われているから出られているだけ」などと発言し、自分に厳しい姿勢を貫いている。他の芸人たちも、「第7世代」と呼ばれることに格別喜びを感じているようには見えない。それよりむしろ、自らの芸を磨くことにひたむきだ。彼らからは、「第7世代」と呼ばれるプレッシャーを乗り越え、そんな枠組みを意識させないほどのし上がってやろうという野心すら感じる。

彼らはきっと、「第7世代」とラベリングされてちやほやされたいわけではない。各賞レースに果敢に挑み、成長を続ける若武者たちを、「第7世代」というベールを取り払って真正面から評価すべき時が来ている。

『ダイナナセダイ』。私には、その「言葉」があまりにも大きな存在に膨れ上がって、暴走してしまっているように思える。中身を伴わない、空っぽの脅威。今でこそ、そんな言葉に振り回されているのかもしれないけれど、いつの日か、お笑い界を「ONE TEAM」にしてくれる存在だと私は信じている。

乱筆、失礼致しました。

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