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ファンノベル・アシアン戦記#3

始めに・ご注意

※この物語は海神蒼月の空想・妄想の産物です。
登場人物に実在のライバーさんのお名前が登場しますがご本人とは直接関係ありませんのでこの作品に関するお問い合わせ等はご迷惑になるためお控え下さい。

舞台全図。初出は高校の頃なので荒いのはご容赦。

3:出立前夜。

メノウ宅に来て、意外と言ったら失礼だがかなりちゃんとした美味しい夕食をいただいた。
寝床はメノウの小柄な体型にベッドが合わせてあるため、自分では狭いとの事で俺はソファで休む事にした。
ありがたい事にこの世界は温暖で毛布が無くとも風邪を引く事もなさそうだ。
家のあかりは全て消えている。
窓から月明かりなのか、星明かりなのかわからないが柔らかな光が差している。

さすがに夜ともなると街は静かだ。
元の世界では夜型のはずのライバー達もこの世界ではちゃんと昼型、健康的な生活リズムで生きているようだ。
かく言う自分も元の世界では結構宵っ張りだったから、夜になってこんなにもすんなりと眠ろうという気になったのは意外と言うかなんというか。
もしかしたら気がつかなかっただけで結構疲労が溜まっていたのかも知れない。
気がついたら世界が違うなんて、気が気じゃ無いもんな。
ただ救いだったのは、この世界が元の世界で自分の創作した世界そのものだった事。
さすがに目の当たりにするのは新鮮というか情報量が多いけど、大掴みにはこの世界の事を識っている。

それにしても今日一日だけで随分(一方的にだけど)識ってるコ達と出会った。
しかもその気になれば触れる。
うどん屋の化川桜那ちゃん、ギルドマスターの星降󠄀こゆちゃん、そこの取りまとめ役のココロニ・ノンノちゃん、俺の側に居て何かと世話を焼いてくれる雪乃メノウちゃん。
そして…教会で出会ったあの不思議な雰囲気のうさ耳少女。
多分あのコの事も識っている。
名前を聞いた訳じゃないし、実際にああやって触れる本物と対面した事がないから自信は無いけど。

さて、明日はこゆちゃんところに行って自分でも所属できそうなギルドの紹介状を受け取ってこよう。
今はとにかく当てがないから、こういう行為は素直に受けてこの世界で暮らして行く足がかりを作っていかなければな。

それにしても今はあの頃と比べたら随分と魔術機関も発達したものだ。
この大陸では、もはや当たり前となったこの自動車というもののおかげで俺たちは1日経たずにロザリアの街に到着した。
俺たちが現役で冒険をしていた頃なら3~4日はかかっただろう距離を丸1日で走破してしまったのだから、ユリスの功績はたたえられてしかるべきだ。
とはいえその恩恵もまだここ、聖󠄀フォース大陸以外ではごくごく一部だけのものだから聖󠄀ファーリア大陸に渡った後は旧来の馬車での移動になるだろう。
隣では我が妻、ロザリーがスヤスヤと寝息を立てている。
俺は眠れずにいた。
そっと宿屋のベッドを抜け出して、窓から届く木に飛び移る。
現役時代はこんなの日常茶飯事。
木の上の枝に腰を掛け、膝を折って軽くうずくまる。
やけに生暖かい風が頬を撫で行くのを感じながら、俺は星の散りばめられた夜空を見上げた。
ああ、アシアンよ。
お前は今どうしてると言うんだ?
何故あの時急に、俺たちの前から姿を消したのか教えてくれないか?

「ごはんできてるよ~」
ゆすり起こされる感触に俺は目を開く。
正体はメノウの小さな手。
俺はソファの上でうずくまっているところを家主の雪乃メノウに発見されたという訳だ。眠い。
外はピカピカの晴れ。
代わり映えのしない朝、ではないようだ。
「おはよ」
視点がメノウに合ったところでメノウは にぱっと笑った。

食卓にはパンとジャムの瓶がいくつか、それからベーコンエッグにスープ。割とこの世界ではありきたりな朝食。
ジャムはセイファルアか。
もちもちのパンにジャムを塗り、かじる。
リンゴに似た甘酸っぱい風味。
「上手く行くといいね」
メノウが俺を見遣って言う。
「そうだな。メノウにも随分世話になった」
俺は軽く頭を下げる。
なんだかんだ言ってメノウがいたおかげで少なくとも俺はこの世界に来てしまった不安を感じないで済んだ。
お互い戯けてはいたがメノウは俺を心配し、俺はメノウに感謝していたんだ。
それがたった1日で終わってしまうのは残念だと思ったのは随分情が移った証拠だろう。
「まぁ、あのまま見過ごすのも後味悪かったからね」
照れたのかメノウはうつむき気味にパンにジャムを塗りながら言った。
「だからって人の尻に枝を刺すのはどうかと思うけどな」
俺はなんて応えていいか解らずにふざけた仏頂面。
どちらと言わずつい吹き出して、その微妙な空気はいつものものへと。

朝食を取り終えると俺とメノウは揃ってほしふる組ギルドへとやってきた。
「おぉ、きたんな」
こゆちゃんは俺たちを見つけるとココロニちゃんの元からトトトッと小走りでかけてきた。
そのこゆちゃんの恰好はなんだかこれからどこかへ出かけるような感じで、昨日見た白のふわふわワンピースでは無かった。
「あれ?お出かけ?」
俺はついクセでこゆちゃんを抱き上げて目線を合わせると尋ねてみた。
「そうなんな~。今回は結構な遠出だから楽しみにしてるんよな~」
確かにこゆちゃんはとても嬉しそうだ。
「あ、そういうことか」
隣にいたメノウはその様子を見て「ちょっとここで待ってて!」と言い残してギルドを駆け出していった。
1人事情をよく理解していない俺。
俺はこゆちゃんをそっと降ろしながら出て行ってしまったメノウの背中を見送るしかできなかった。
「そっか、お出かけなら仕方ない。じゃあ昨日約束した紹介状をもらえるかな?」
今度は俺が屈んでこゆちゃんに視線を合わせてお願いする。
「紹介状はないんよな」
こゆちゃんは仁王立ちで腰に手など当てている。
「え…じゃあ俺はどうすれば…?」
困惑する俺にココロニちゃんがやってきて
「フェティクスの街までこゆちゃんの事、お願いしますね」
なんてことを言い出した。
「アシアンは強いって言うし、こゆの護衛にはもってこいなんな」
そう言ってこゆちゃんは器用に俺の背中に負ぶさる。
軽い感触が背中に被さった。
「…って事は何か。こゆちゃんはわざわざフェティクスのギルド出張所まで出向いて直々に紹介をしてくれるって訳か?」
背中の幼女に問いかけると「そういうことなんな~」と間延びした声が聞こえてきた。
「いや、ありがたいんだがそんな労力を掛けさせるのは申し訳ないんだが」
俺が言うとココロニちゃんが側に寄ってくる。
「あらあら、大丈夫ですよ。こゆちゃんはちょうどフェティクスのギルドに用事もあって早かれ遅かれ行かなくてはならなかったんですもの。ちょうど護衛の方を探そうかという話にもなっていたので、アシアンさんはそこに現れた救世主という訳です」
柔らかい笑顔でそう言われるとなんかちょっと照れる。
「なるほどな。じゃあ、俺とこゆちゃんの2人旅だな」
さすがにメノウはここの住人のようだし連れ出す訳にも行くまい。
名残は惜しいがそれが冒険者ってもんだ、なんてことを アシアンはフォースに言った記憶がある。
「待ってよ!」
ドタドタと慌ただしい足音がしたかと思ったらメノウが息を切らしてやってきた。
「私も行く!」
見ればメノウはすっかり旅支度だ。
本人と同じくらいの大きさのずだ袋を引きずりながらここまで走ってきたのだろう。
「行くって…メノウはここの街の住人なんだろう?」
俺は思わず後頭部をポリポリかいてしまう。
「フェティクスに用事を思い出したの!」
照れ隠しなのか、ややおこの勢いでメノウは言ってきた。

セイファルアの街を出立する前に一カ所、寄っておきたい場所があった。
桜那さんのうどん屋だ。
この街を離れるのに、お世話になった人に挨拶無しは寂しすぎる。
「そうでしたか。どうか道中ご無事で」
残念です、と言葉ではなく表情が物語っていた。
それは俺も同じ思いだ。
「この街による事があったら是非ともまた、このお店にも寄って下さいね。土産話、楽しみにしていますから」
桜那ちゃんはここの店主で切り盛りしているのだからメノウのようにそんなに気軽にこの街を離れられないのだ。

──冒険者家業をやるなら解れ別れってのは付きものなんだ。それに耐えられないなら冒険者家業なんて選ぶもんじゃないさ。

脳裏にふとあいつフォースの声が横切った気がした。

(次回に続く→)

登場人物紹介

・アシアン=ブルームーン

海神蒼月の転生体。
何でもずっと南方の大陸を統べる王がアシアンの事を識っているようだ。
この世界は元々海神蒼月が過去に生み出した世界で、その物語に登場した自分の分身になってこの世界に降り立った。
何故こんなことになったのか、それは本人含めてまだ謎のままだ。

・雪乃メノウ (ゆきの-めのう)

牡羊座から落っこちてきてうっかり受肉してしまった羊っコ。
物語の中では蒼月の第1発見者にしてある意味保護者。

・ココロニ=ノンノ(こころに-のんの)

元の世界ではVライバー事務所「ななはぴ」の2期生。
アイヌの精霊、コロポックルが配信活動などを通じて人の世の事を勉強しに現れている。
作中では冒険者ギルド「ほしふる組」のセイファルア拠点を取りまとめるリーダーになっている。

・星降󠄀こゆ(ほしふる-こゆ)

元の世界ではココロニちゃんと同じ「ななはぴ」2期生。
作中では「ほしふる組」のギルドマスター。
ほしふる組はどうやらセイファルアの他にもいくつか拠点を持っているようで商業都市フェティクスの拠点もその1つのようだ。
見た目以上に偉い幼女らしい。

・化川桜那 (ばけのかわ-はるな)

元の世界では四国のバーチャルタヌキとして配信をしている。
作中ではうどん愛が高じて自らセイファルアでお店を開くまでになっている。ここでしか食べられない絶品とあって大陸中にファンがいるほど。
性格、口調も穏やかで人情に厚い。

・フォース=ランデルティナ=トラップ

海神蒼月が若かりし頃書いた物語、「フォース戦記」の主人公にしてトレジャーハンター。
かつて神聖大戦と呼ばれる魔との戦いで英雄とされたパーティーのメンバーの息子にして、第2次神聖大戦の英雄の1人。
今は聖󠄀フォース大陸を統べる王になっており、かなり高齢らしい。

・ロザリー=ルナ=ファースト

海神蒼月が若かりし頃書いた物語、「フォース戦記」に登場した女性神官にして第2次神聖大戦ではフォースと共に戦い、後にフォースの妻として彼を支える存在である。
元神官なだけにその性格は穏やかだが、フォースの影響か堅苦しいのはあまり得意ではないようだ。
高齢ではあるが未だ美しい。

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