ファンノベル・アシアン戦記#4
始めに・ご注意
※この物語は海神蒼月の空想・妄想の産物です。
登場人物に実在のライバーさんのお名前が登場しますがご本人とは直接関係ありませんので、この作品に関するお問い合わせ等はご迷惑になるためお控え下さい。
4:呑気に行こう!
「らくちんだね~」
荷馬車の御者台に2人並んで座ってゆるゆると街道を南下する俺とメノウ。
出立の時に「ほしふる組」に挨拶に寄ったらこゆちゃんが満面の笑みで迎えてくれたのだが──
「折角フェティクスに行くのならお遣いを頼まれて欲しいんよな」
などと言い出した。
お駄賃の代わりにフェティクスまでの食料を出すと言われ、俺とメノウはあっさりとその話に乗った。
背に腹は代えられないというやつだ。
「向こうの頭領に頼まれていた物資を運ぶ人手がちょうど欲しかったんよな~。荷馬車も出すからフェティクスの支所に届けて欲しいんよな」
というなんとも一石二鳥なご提案を戴いた。
本来であれば こゆちゃん本人が同行をしてフェティクス支所の視察も兼ねるつもりだったそうなのだが、突然のトラブルでそれは叶わなくなってしまった。
「これがあれば こゆのお遣いだってわかるんな」
代わりにフェティクスの支所長宛への書状を取り急ぎ書いて渡してくれた。
ううむ、こゆさん…ただの可愛らしい幼女では無かった。
そんな訳で俺とメノウはお遣いの最中という訳だ。
特に急ぎという訳でも無いらしいので馬を走らせるようなことをするのは止めて馬があまり消耗しないように任せて歩かせているのだ。
しかしそれにしてもかつて自分が描いた世界で多くのことを知っているつもりで居たが、こうして現実に来てみるとなんとも言えない気分だ。
それにしても自分で設定しておいてなんだが、遮るものの無い随分広大な草原のど真ん中に街道が通っているもんだ。
左手向こうには「レルア・ギレズの森」が見える。
行く先はひたすら野っ原だ。
とはいえ、大陸縦断街道なので通行人は意外と居る。
多くは商人や一般人だったりするのだが、たまに赤い馬にまたがる騎士や腰に剣をぶら下げる、いかにも冒険者といった人もすれ違っていく。
「なぁメノウ?」
手持ち無沙汰にメノウに声を掛けると「ん?」とこっちに向く。
「この世界って2度の神聖大戦があったんだよな?」
第1次は英雄と語り継がれるフォースのオヤジさん達のパーティーが、そして第2次はフォースやロザリー、そして今俺が体を借りているこのアシアンを含む一行が活躍して魔を追い払った大戦争だと聞く。
「そうだね。それも随分昔の話だから直接知ってる訳じゃないんだけど、詩人に謳われて今も語られる話だよ」
メノウは前に向き直って話し始める。
「聖󠄀フォース大陸を収める、セイファルア出身のフォース王が先頭に立って世の中を平和に導いたっていう話だね」
うん。
こっちを生きてきたアシアンの記憶にもフォースとこの世界を駆け巡った記憶が確かにある。
それはいいんだが…
「もう魔は居ないのに、今でも冒険者って言う職業は健在なんだな、と思って」
俺がそう言うと、メノウはちょっと残念そうな表情で「ああ…」と溜息のように言う。
「ね、アシアン? こうして生きているとさ善人も多く居るけど悪人ていうのもやっぱり一定数いるんだよ。魔の根源はそういう悪意や悪の行動のなれの果てって言われるから魔が消え失せることはないんだよ」
そうか。
平和な世の中だからといって犯罪が無くなることは無いし、世の中には必ず悪意って言うものが存在するってことか。
「なるほどな…」
「まぁ、神聖大戦以前に比べたら安全な世界にはなったけど、それも王国街道の結界やレッドホース騎士団の治安維持の賜でもあるんだよね」
こう見えて雪乃メノウというこの羊は芯の部分では、彼女なりにきちんと物事を考えているんだな。
少しだけ、隣に座るこの もこもこの生き物の見方が変わった気がした。
☆
道中は驚くほど平和だ。
いわば中世ファンタジーというやつはもっと魔物だの賊だのがゴロゴロしていて、もうちょっと物々しいものだと思っていた。
先ほども大あくびをかましたばかりだ。
それにつられてメノウも小さくあくびをしてお互い顔を見合わせて苦笑してしまう。
長閑な風景、穏やかな街道の人の流れ、うららかな日差し、そして馬に任せる馬車の呑気なその速度にうっかり居眠りをしそうになる。
ふと手に触る二振りの剣がその異質さを際立たせる。
こんなにも平和なのに、こんな物騒なものを腰に提げていても周りの誰もが違和感を覚えない世界。
それを思うと居眠りをしそうになる自分の体の芯が少しだけシャッキリした。
★
セイファルアからフェティクスまでは距離的には数日の行程だ。
馬を全力で走らせれば2日あれば着く距離だが この長閑さだし、馬も生き物だから適度な休息は必須なのでどうしてもそれだけかかってしまう。
日も暮れてきて街道に明かりが灯り始めた頃、俺はメノウを荷台に放り込んで(物理)ひとりで御者台で馬を歩かせている。
途中一度歩みを止めて馬に給水を取らせたときに見てみた限りは馬の方は疲れを見せていない様子なので少しでも距離を稼ぐことにした。
荷台を振り返ると、メノウは荷台の少しだけ空いたスペースに小さな体を正座でちょこんと収めて、干し肉と格闘していた。
この距離で見ているとメノウはほんと動くぬいぐるみのようだ。
かみ切れないのか、時折咥えたまま力任せに引っ張ってみたり、何度もガジガジやりながらちょっとずつ食べ進めているのをみると、なんかほっこりする。
視線を前に向けると広い街道も歩く人が少なくなり、時折馬車や馬とすれ違う。
硬い石に2頭の馬のひづめの足音が ぽくぽく とリズムを刻む。
ふと、後ろが静かだなと思って改めて振り返ると、さっきまで正座で居たその小さなスペースに、ややデカめの丸まった毛玉があった。
時折もぞもぞ動いているところをみると、どうやらあの毛玉がメノウらしい。
つい苦笑が漏れる。
行き倒れの自分をつついた羊に俺は随分と助けられている。
剣は振れるが、それ以外この世界では無力であることを自分自身実感している。
なにも起きない街道。
ぽくぽくと規則的な蹄の音。
退屈に、余計なことを考え始める。
自分はアシアンとして振る舞うべきか?
自分は海神蒼月として振る舞うべきか?
肉体はアシアン=ブルームーン。
中身はアシアンを取り込んだ海神蒼月。
自分であり、自分では無い何者か。
どうせ解決なんかしない問を頭の中でグルグルさせながら、ただひたすらに真っ直ぐ延びる街道を往く。
★
…ぽくぽくぽくぽく….
ふわりとした温もり。
生き物の香り、草木の香り。
意識より早く感じた感触。
「あ…」
小さく呻いてしまう。
あまりの退屈に居眠りをしてしまっていたようだ。
俯いて居たようで馬のお尻の向こうに流れる石畳が見えた。
「んっ!?」
一気に意識が覚醒する。
しまった。
眠っていたのか。
「ごめんね、疲れてたんでしょ?」
耳のLチャンネルから柔らかい声が聞こえた。
メノウだった。
柔らかい笑みを湛えていた。
にしてもいつの間に起きてきたんだ?
ていうか、俺はどれだけの間居眠りをしてしまったんだろうか。
「いや、こっちこそ済まない。ついうたた寝してまったようだ」
もしかしたら街道を外れてメノウを起こしてしまったんじゃ無いか。
「アシアンのおかげでよく眠れたよ。まだ寝ててもいいからね?」
メノウはあんな狭い隙間で寝ていたのだから、それは100%本気ではないだろう。
「いや、落ち着かないからw」
苦笑の俺。
さすがにあの隙間は俺には狭い。
御者台ではうっかり転げ落ちそうだ。
…いや、実際よく落っこちなかったな、俺。
「…それにしてもあの狭いところでよく眠れたな」
俺は荷台の隙間を見遣りながらそういうと、メノウはニコニコ。
「アシアンほど図体デカくないもん。コンパクトなのは良いことなんだよ」
ふふん!とコンパクトな胸を張る。
さっきまでの雰囲気台無しだわ。
←☆←
坩堝。
記憶のカオス。
踊る剣、放たれる光。
燃え逝く屍の山を前に、ただ呆然と立ち尽くして見てるしかない、まだ冒険するには幼い少女の姿。
握った男の袖。
特に心が動かなかったあの時。
美しい2人のシスターの清らかな祈りの声。
せめて安らかな眠りを、と。
俺はその様子をぼんやりと眺めているだけだった。
火の粉は星空に届こうとするように立ち上っていった。
記憶の混乱。
(次回に続く→)
登場人物紹介
・アシアン=ブルームーン
海神蒼月の転生体。
何でもずっと南方の大陸を統べる王がアシアンの事を識っているようだ。
この世界は元々海神蒼月が過去に生み出した世界で、その物語に登場した自分の分身になってこの世界に降り立った。
何故こんなことになったのか、それは本人含めてまだ謎のままだ。
・雪乃メノウ (ゆきの-めのう)
すっかりこの世界では相棒化したもこもこ羊。
なんだか気兼ねない相棒。
戯けている裏には面倒見の良さがある。
こっちの世界ではサバイバルにシミュレーターにと家畜ならぬ社畜の香りがする。
・星降こゆ(ほしふる-こゆ)
(幼女集団)ギルド「ほしふる組」の首領。
見た目は完全に幼女だが中身は大人。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?