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『行政主体の官民連携の限界。最年少副市長が語る地域イノベーションのシンプルな極意とは』地域をつなげるイノベーター列伝 Vol1 前編

地域で活躍するキーパーソンと、つなげる30人プロデューサーの加生健太朗さんの対談形式インタビューを実施し、行政・企業・NPO・市民といった様々なセクターをつなげていくことについて考えていく連載企画「地域をつなげるイノベーター」をスタートします。

記念すべき第1回は、26歳の最年少でつくば市 副市長を務め、現在も地域をフィールドに様々な方面で活躍している毛塚幹人さんをゲストとしてお招きしました。

インタビュアーは、つなげる30人 エバンジェリストの日比谷尚武さん。

常日頃地域と向き合ってきた3人から出てきたのは、これからの地域を見据えた新しい提案でした。

話を聴いたひと

毛塚幹人

前つくば市副市長。栃木県宇都宮市出身。東京大学法学部卒業後、2013年に財務省入省。国際局、主税局等を経て財務省を退職し、つくば市の副市長に2017年4月就任。任期満了に伴い2021年3月につくば市副市長を退任し、地方自治体の政策立案や職員育成支援の取組を開始。2021年9月より三重県「みえDXアドバイザー」。Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満の30人」、世界経済フォーラム「グローバルシェイパーズ」に選出。1991年2月生まれ、30歳。

パブリックセクターへ抱く想い

日比谷
はじめに、毛塚さんの経歴を教えてもらえますか?

毛塚
私は財務省で働いたのちに、つくば市で4年間副市長をさせていただきました。今年の3月にその任期が終了し、現在は独立して自治体支援の活動を行なっています。

自治体の政策立案や、職員の育成サポートをメインで取り組んでおり、先日は三重県のDXに関するアドバイザーにも就任しました。

また、出身地の栃木県宇都宮市とは高校卒業してから離れていたのですが、今は東京と宇都宮の2拠点生活をしています。つくば市では公的な立場で仕事をしましたが、現在はまた違う立場から地域との関わり方や行政との連携の仕方を模索しています。

日比谷
そもそも、毛塚さんが「パブリックセクター」にフォーカスして活動されているのは、どういった想いからでしょうか?

毛塚
自分の両親は、”県の職員”と”小学校の教員”としてパブリックセクターで働いていました。

なので、父親が台風のときなどに現場へ駆けつけたり、母親が教員として様々な状況の家庭に寄り添いながら仕事をしていたりと、パブリックセクターで働くということを身近なものとして感じていました。

しかし、他業界での改革の進み方を見ていると、行政の世界がキャッチアップできていない部分があることを感じていました。学生の頃から、そのギャップに対して問題意識を持っていたんです。

大学から地元を離れ東京に出まして、そこでできた仲間たちと交流する中で「地方への意識」の違いを強く感じていました。それ以外にも、宇都宮と東京の”機会の多さのギャップ“を感じ、僕にできる地方貢献を模索したいと思うようになりました。

スタートアップに関わる仲間が多いことから、「既存のやり方の限界へどうアプローチしていくか?」という考え方が私自身にも染み付いており、『既存のやり方ではできない、行政の動かし方』があると思ったんですよね。

そんなタイミングで、現つくば市長で当時市議会議員をされていた五十嵐さんのもとで、友人がインターンをしていた繋がりから連絡をしてみたところ市長選挙に関わらせてもらうことになりました。私にとって、大きな転機となる出来事でした。

選挙では様々なことを経験させてもらったのですが、政策を作るために地域の皆さんから困っていることを聞くことは、ある意味難しいことだと感じました。

「困っていることを教えてください」と聞いても、困っている言葉はなかなか出てこない。信頼関係をつくり、お茶を飲みながらポロッと出てくるものだったりするんですよね。

そういったコミュニケーションを学べたのは、学生時代の経験としてとても大きなものでした。

コミュニケーションを円滑にしていく価値はとても高い

日比谷
『つなげる30人』の試みとして、「地域とパブリックセクターが真の形でつながっていくこと」を目指しています。
その実現のためには、双方にある「つながることの課題が何か?」を考えていく必要があると思うのですが、毛塚さんのご意見をお聞かせください。

毛塚
その議題を話すにあたり、まず”公共“というキーワードについて感じる違和感を話したいと思います。それは、「公共=行政」と行政自身が思いがちなところがあり、その思い込みが適切ではないということです。

そうではなく、公共とは地域・行政など様々なことを含んでのコモンズ。その文脈で考えていくと、行政は「公共のなかの財」になっていきます。

そういう捉え方をしていくことで、地域(市民)と行政が対立するという存在から、共有している財を地域の関係者で力を合わせて価値を高めていく考えになっていくと思っています。

また、「地域と行政がつながるためには」ということについて思うのは、つなげることを目的にする必要はないということです。

行政が関わることによって、動きづらくなるプロジェクトも多く、直接関わらないにしても、気軽に質問を投げない方がいいケースも存在すると思っています。

自分たちではなかなか判断に迷うようなことは、行政も同じように迷うことが多い。なので、「あえてつながない」ということも、地域で面白いことをする上でありえる選択肢なのかなと思います。

加生
最近『つなげる30人』以外でも地域に関わることが増えました。ファシリテーションで、地域と自治体をつなぐことを担っています。
その中で感じていることが2つありまして。ひとつは、どの地域も住民のITスキルや対話の場への期待値などが、低く見積もられすぎている印象を受けています。

「オンラインでやるならもっとサポートが必要だと思います」とか「全然意見とか出ないと思います」とか。でも蓋を開けてみると、そんなことはないケースがほとんどです。

これは日常での対話の機会が少ないことから、低く見積もってしまうことに繋がっているんじゃないかと思っています。

ふたつ目は、あらゆる期待値の調整をしていかないと、つながるものもつながっていかないということ。

例えば、『つなげる30人』の場でも、「ここは行政へクレームを伝える場ではなく、行政と連携して課題を解決していく場です」とつなげる前に伝えることで、調整ができる部分があるなと。

毛塚
新しい挑戦をする際、まずは小さな成功体験を持って、そこから取り組みを発展していくというのがよくあるやり方だと思います。

しかし地域の現状は逆で、地域の方々と行政は小さな失敗体験に満ちていると感じています。そもそもお互いにコミュニケーションをとる機会が少なく、その少ないコミュニケーションを失敗してしまうことは珍しくありません。その結果、不信感を感じてしまい、相談することすらしなくなってしまう。

逆に行政側も要望の対応も多く、その結果、職員の余裕がなくなり偏った見方をしてしまったりするのも、無理ないと思うんです。

そこのコミュニケーションをサポートすることは、とても難易度が高いこと。だからこそ、ファシリテーションのプロが入り、コミュニケーションを円滑にしていく価値はとても高いと思います。

また、かつてと比べると行政との協働の機会はかなり減っているように感じます。例えば、お祭りが盛んな地域であれば、お祭りのメンバーに行政メンバーもいて、日々コミュニケーションが取れていました。そういった身近なイベントのたびに、行政と関わりを持つ経験が生まれていたんです。

そういう中で、お互いの適切な期待値の設定やコミュニケーションの取り方を学んでいったと思うのですが、現在は都市部を中心にどんどん失われているように感じています。

これまで行政とのコミュニケーションを学んでいったメカニズムを、何かが補っていかないといけない。そのひとつが、『つなげる30人』の取り組みなんじゃないかなと。昔は当たり前にあった状態を、取り戻しているプロジェクトなんだと感じています。

行政がプロジェクトの主体となるべきか?

日比谷
毛塚さんはつくばで様々な取り組みをしていく中で、官民連携の推進を行なってこられました。その際の気付きなどを教えていただけますか?

毛塚
一番は、地域の方々が熱意を持って、やりたいプロジェクトであることが大事だということです。行政が「これをやろう」と考えた官民連携は、なかなかうまくいかないことが多い。

私がいた4年間でも、つくばでは民間主導でさまざまな取り組みが生まれました。例えば、スタートアップ政策を注力してきたのですが、その背景には市民の方々が「つくばをスタートアップの聖地にしていこう!」というムーブメントをつくっていたんです。

このような地域の方々のイニシアティブを加速させたり、裏からサポートしていく中で、行政としてもスタートアップ政策の本格化に舵を切っていった。これは地域の皆さんが生み出した成果なんです。

こういう経験で思ったのは、協働のプロジェクトを生み出していく際に、行政が主体という形にするのは必ずしも正解ではないということ。

行政は、日頃の業務がどんどん膨んでいて、職員の負担もかなり大きいものになっています。さらに、様々な方々から「こういうことをやりたい!」という声をいただいている状況で、どれかひとつに絞るというのはかなり難しい。

お金がかかるものだと尚更です。議会の議決を得ないといけない、お金の使い道を明確に示さないといけないなどの必須なプロセスがでてきますので。

それを待たずに民間が始めてしまって、後から行政がサポートに入るという形が、地域で新しいコトを生み出す際にはちょうどいいのかなと思っています。

加生
『渋谷をつなげる30人』では、2年前からスタートアップを招き入れることを意識的にやっています。

はじめた当初はスタートアップの皆さんは忙しいので、地域のつながりに対して需要がないんじゃないか?と思っていましたが、実際は地域につながることを大事にしているスタートアップもありました。

結果的に、スタートアップの方が地域や行政とつながって、どんどんサービスを展開していきました。これは私たちにとってもインパクトがある出来事です。

毛塚
ここ数年間、行政とスタートアップをつなぐエコシステムが急速に発達してきているように感じています。それは、コネクタとして活動する日比谷さんのような”つなぐプレイヤー”の存在が大きく、民間といっしょに実証実験を行なっていくフレームワークを設ける自治体も増えてきています。

その結果、単に実証実験の公募を行なうだけでは足りないフェーズに入っていて、いかに民間が行政と連携しやすいように整えられるか?どれだけの金額を行政が出すのか?など、実証実験の次の段階である「社会実装」を見据えていることが大事になっているように思います。

加生
そのエコシステム構築に、『つなげる30人』も貢献できればいいなと思いますね。

毛塚
むしろ、そのエコシステムを一番最初につくってきた先駆者が『つなげる30人』だと思っていますよ。

スタートアップと行政の連携は、渋谷区が先進的な事例を切り開いているなと感じています。渋谷区の取り組みもあり、地方自治体がスタートアップ政策に取り組むということが、だいぶスタンダードになってきている。

その結果、エコシステムを担うプレイヤーの数が増えてきているし、質も高まっているように思いますね。

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