【「地域をつなげる力研究会」Vol.5 イベントレポート】〜企業にとっての 「つなげる30人」の価値とは?〜
「地域をつなげる力 研究会」とは?
一般社団法人つなげる30人が主催し、全国の「つなげる30人」や、これから「つなげる30人」を立ち上げたい方、研究対象等として関心がある方を主な対象として、全国の「つなげる30人」メンバーの中でも特に群を抜く「つなげる力」を持つ「トップツナガリスト」をお招きし、様々なノウハウ・リソースを共有し、相互に学び合い、助け合いながら切磋琢磨することを目的にしたオンライン定例研究会です(毎月第一水曜夕方に開催します)
この全国のつながりを通じ、このコミュニティが面になり、地域間が連携したコレクティブインパクトを創出するキッカケとなることを期待しています。
今回は、2024年3月6日(水)に開催された第5回目の内容をレポートします。
ゲストプロフィール(五十音順/敬称略)
●嶋本吉久氏
BIPROGY株式会社
中小企業診断士
◯星野翔太氏
キャリアコンサルタント
■中裕樹氏
株式会社まちのプロデューサーズ
エグゼクティブプロデューサー
インスピレーショントーク
自分と相手のアイデンティティ(境界)を理解する
◇日比谷:
今日は、アイデンティティ(境界)という考え方についてご紹介します。
これは「バウンダリースパニング」という本からピックアップしています。
この本は、組織において越境を進めるにはどうしたらいいかがまとめられた本なので、おすすめです。
様々な人たちをつなげて受け入れるには、自分や相手がどこの境界にいるのか意識することが大事です。つまり、所属している属性やチーム、組織やグループは何なのか意識してコミュニケーションをしようということです。
まず人を受け入れるより前に、自分は一体何者でどういう属性なのかを知ることから始めます。
それぞれ色々なプロフィールがあって、そこの属性に付随する価値観や特徴、強みや弱みがあるはずです。
面白いのは、個人としての特徴ではなく、そのグループや集団に独特な価値観や癖や特徴があることです。
家族に属してる自分と、仕事のチームの中にいる自分では、立ち振る舞いや共通の価値観や物言いが変わると思います。「どこにいたって自分は変わらない」という人もいるかもしれませんが、少なからず属してるところに何か影響を受けているはずです。
次に、相手が一体どういう境界を持っていて、どんなグループや組織に属しているかを知りましょう。見えないところに属性があるかもしれません。過去に属していたものの影響があるかもしれません。想像して膨らませるなり聞くなりして、その人がどんな属性の影響を受けているか興味を持って理解します。そうすると、相手を立体的に理解できるようになります。
当たり前のように思うかもしれませんが、意外とできていない場合があります。今はパラレルワークやパラレル所属ができるようになったので、複数の属性を持った人がいます。立体的に自分と相手を理解をすることが、様々な人とつながるための骨となります。
ゲストクロストーク
人材育成の視点で語る、企業にとっての「つなげる30人」の価値
⚪︎星野:
私は、企業向けの組織や人材開発のコンサルティングから実際のプログラム提供まで、一連の仕事をしております。
「つなげる30人」では、継続的な仕組みへの挑戦がしたいと思っています。みんなで仕組みを作っていく部分に可能性を感じて、一緒に何かしたいと思って参画しています。
「つなげる30人」の企業にとっての価値は、主に人材育成、事業開発・イノベーション、社会貢献・ブランディングなどがあります。僕は、キャリアコンサルタントや人材開発の視点から、人材育成に関して補足します。
今はビジネス環境の変化が多様すぎて、人材育成の必要性はかなり重要度が増しています。その中で今回は越境をテーマに取り上げていきます。
越境すると、今までの自分の当たり前が当たり前では無かったことに気づくと思います。価値観の揺らぎや違和感に気づいて見直していくことが越境の価値だと言われています。
また、アウェイ空間に行った後に自組織に戻ると、自組織がまた違う景色に見えて、仕事を再認識してポジティブに捉え直せるという効果もあります。つまり、越境学習による学びや気づきを自組織に還元していくことで、組織の変革を推進していくようになります。
越境体験を導入する大企業には様々な目的がありますが、送り出した人材が何かを得て、それを組織に還元してほしいという目的が大きいと思います。
越境体験によって何が得られるのか考えた時、一般的には、課題発見力やリーダーシップ、多様性の受容力・共感力、当たり前を疑う「クリティカルシンキング」が育まれていくと言われています。「つなげる30人」では参加者が何を得られているか今後もう少し聞いていきたいです。
キャリアの観点でいうと、プロティアン・キャリアという理論があります。変化に対応して変幻自在にキャリアを考えていこうという理論です。この中には「ビジネス資本:ビジネスで活躍する資本」と「社会関係資本:つながりを大切にする資本」と「経済資本:お金を生み出す資本」の3つがあります。この3つを蓄えていくとキャリアが高循環していくのです。
「つなげる30人」では、特に「ビジネス資本」の中のビジネスアダプタビリティや、「社会関係資本」の部分が育まれていくのではないかと思います。これは、ストラクチャル・ホール理論の特徴を生かして動いていくと、キャリア資本が蓄積されて、ビジネスやプライベートでも活躍する素地が出来ていくのではないかと思います。
最後に、越境体験とはどんな学びのプロセスなのかをお話しします。
越境前に目的や目標を設定をした上で越境して、境界を超えることにもがいて、再認識して戦力化して、自組織に戻った時にどう行動するか、というプロセスです。これを組織に活かせているか?個人としての活かし方だけに止まっているのか?という部分を、キャリアや企業にとっての価値としてディスカッションできると面白いと思ってご紹介をしました。
一例として、越境体験を効果的に導入している企業の特徴もご紹介します。組織においては、越境経験者が特異な立ち位置になるのではなく、彼らの経験や知見を継続的に社内に取り入れるための中長期施策として実施していくことが大切だとされています。そのため、参加する企業でも、こういうマインドセットがあると良いと思います。越境後の過ごし方も大事なポイントです。
自分らしさを重要視する企業にとっての「つなげる30人」の価値
⚫︎嶋本:
私はフルタイムで「BIPROGY株式会社」という会社に勤めながら、個人事業主として開業して色々なことをしています。中小企業診断士の活動と、一般社団法人つなげる30人としての活動があります。私のモチベーションは、昔から「何か新しいことを作る」ということにあります。「つなげる30人」もそれに近しいところだと思い参加しています。
今は外部環境の不確実性が高まる中、企業の形態も変わりつつあります。元々は市場に対して商品を提供して収益を得ていくという形態が多く、オペレーションの改善活動を経て収益を上げてきたと思います。しかし、現在の日本の市場は既にニーズが満たされているので、新たなニーズを発見していく極めて困難な時代になりました。
そのため、組織形態も個人を起点とするように変化してきています。会社のビジョンはもちろんありますが、その中で自分自身がどうしていきたいかを重要視することが必要です。自社だけではできなくなってきているので、価値を外と共創するようになっています。そして、組織のあり方もマネージメント型からエンゲージメント型になり、いろんなものがトランジションしていくのが今の世の中です。
そうなると、自分らしさを重要視する組織形態になっていきます。何らかの役割を与えられて、その役割をやっていけば良いという組織形態は勿体無いです。それぞれ個人には会社以外のところに余白があるので、そこもちゃんと活用することによって、ポテンシャルがフル活用できるのです。
イノベーションのキーマンになる人は媒介中心性が高い人で、コミュニティ同士をつなげて新たなものや価値を作っていける「ギバー」と呼ばれる人たちです。このような人が現在も将来も求められていると思います。
企業には、継続するというミッションがあります。利益を得て社員に還元し、税金として社会に還元していく。だから、儲け続けないといけません。儲けるということに対して、「つなげる30人」がどういう独自性を持って価値提供ができるかをお伝えすることができれば、自ずと参画に繋がってくると思います。
私は、ネットワーク効果が働き始めているのが「つなげる30人」の現状だと思っています。ネットワーク効果は、そのコミュニティの人数が増えれば増えるほど、そこのコミュニティの価値が高まっていくという理論です。「つなげる30人」を10年くらい続けてきて、かなりの人数になってきてるので、様々な事例が簡単に起きていることも大きな独自性としてアピールできると思います。
企業が参画する理由としては、当事者になることによって社会課題の解像度が高くなるということも理由の一つです。課題を抱える当事者と接点が作れますし、自社のビジョンを社外の人と繰り返し話すことにより、自社のアイデンティティが高まっていくという価値もあります。それを持ち帰って自社の中で事業検討ができれば良いと思います。ただ、事業検討はなかなか難しいので、どういう人を参画させると良いかの提案は、その土地の人や参加される人を見て柔軟に変えていくのが良いと思います。
実体験から語る、企業にとっての「つなげる30人」の価値
◼️中:
僕は、どう実践してきたか、そこからどう見えていって、なぜ「つなげる30人」をやりたいと思ったかをお話しします。「株式会社まちのプロデューサーズ」という会社で色んな地域の活動をやっていたり、「NPO法人グリーンバード」で監事をやっていたり、港区でワークショップをやっている「みなとーく」をやっていたりするので、その立場から話したいと思います。
私はまちの当事者であって、まちのプロデューサーになりたいとずっと思っていました。今まで様々な活動をしてきましたが、基本的にまちづくりの活動をしてきており、「虎ノ門ヒルズ」ではイベントの担当をしています。人と人が繋がっていくような居場所作りをしており、芝生でのヨガイベントや、ランチタイムのイベントや、 花のマーケットなど多数のイベントをしてきました。他にもCIC Tokyoさんと、人と人が繋がる「ベンチャーカフェ」というイベントの立ち上げもしました。そして、人と人が出会う中でどんなことが生まれるのかという部分を現場で担当してきました。
また、「カモ虎課長」というご当地キャラクターと一緒にラジオ番組をやったり、地域の祭りに出ていったり、お笑い芸人さんとイベントしたりしながら、地元にも密着して様々なことをやりました。
「グリーンバード」という清掃活動の団体の地域のリーダーもやっています。ゴミ拾いを何度やってもなかなかゴミは減らないので、まちにポイ捨てしづらい雰囲気を作ろうと立ち上げた団体です。今、70チームぐらいあるところの役員をしています。全国のリーダーとつながったり、ラグビーワールドカップに参加して、ゴミ袋を配る活動をしたりしました。
同じ人たちだけでずっとやってると、なかなか楽しくないし出会いもありません。いろんな人たちが混じり合っていろんな人たちと活動するからこそ楽しいし、出会いがあるなと感じています。「グリーンバード」が目指してるのは、異質な人たちが交じりあったコミュニティを作っていくことだと思っています。
「みなとーく」という、港区に住む様々な人たちと港区を良くするアイデアを考えるワークショップもやっています。1度、100人集めたことがあります。1人1個ずつ港区を良くするアイデアを出せば、100のアイデアが集まって街も良くなるんじゃないかなと思い活動しました。そこで話してきたアイデアが色んなところで新しいことに繋がっていき、具体化していくことを実感しました。
インターネットやSNSのおかげで、同じ気持ちや嗜好や志を持つ「スモールコミュニティ」が作りやすくなってソーシャルアクションも起こしやすくなっていると思いますが、異なる気持ちや嗜好や志を持った人達にはなかなか出会いません。ここに気づきがあると思います。軋轢があることで イノベーションも生まれると思うのです。
そんな時コロナ禍になり、港区の公園が立ち入り禁止になったり、遊具が防がれたりしてしまいました。何かできることがないか「みなとーく」で考えようと思い、コンポストやってる方をゲストに招いてワークショップをやりました。
そこで、公園とコンポスト使って地域コミュニティができるとか、学校にコンポストを設置すれば食育に役立つというアイデアが出てきました。
「オレンジページ」という港区の新橋に当時本社を構えてた方々がいらっしゃって、その方々はコンポストの活動に独自で取り組まれていました。
この辺りを全部組み合わせていけば、新しいことができるのではと思い、新虎通りの森ビルに提案して、最終的に「エリアマネジメント」という団体と共に「オレンジページ」と行政も巻き込んで、実証実験的にコミュニティコンポストをやりました。
普通だとできないことを行政と企業と共に進めることができ、この全体の取り組み自体はグッドデザイン賞2021年を受賞しました。
「つなげる30人」をやりたい理由には、企業がいて自治体がいてNPOがいて、そこからアイデアを出していくノウハウ化でありシステム化という部分があります。
また、その事例がいくつもある中で、やってきたことが具体的にできるんじゃないかとも思います。最近は「集まろう」と言うだけでは人が集まらなくなってきました。すごいテーマで仕切って集めても新しいアイデアは生まれないと思っているので、そういう意味でも「つなげる30人」が期待できるところだと思っています。
今、様々な企業が虎ノ門に集まってきていますが、「みんな多様な出会いからイノベーションを見たい」と言います。でも、それをどうやってつなぐか、どうやって動かしていくかは、なかなかいいアイデアがありません。イベントはいっぱいある中で、どう具体的にプロジェクト化してくかが「つなげる30人」なのではないかと思います。
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